古来、魔族は魔法を使う種族として認識されていた。
しかし世代を経て、人間と血が混ざることで、人間の外見を持ちながら魔法を使う者が現れるようになった。
彼ら、彼女らは『混ざり者』と呼ばれ、ある国では神子として崇められ、またある国では災厄をもたらす悪魔として恐れられた。
僕の幼馴染が魔法を使うことを知っているのは、村の人間だけだった。
先代の魔王を倒した勇者が治めるこの国で、『混ざり者』であることが露呈すれば、魔王の眷属として、たちどころに断罪されてしまうだろう。
僕らは、自分をかえりみず村人に回復魔法を施す彼女を、必死に部外者の目から隠した。
だのに、運命とは卑怯で。
村の近くで馬車が横転した隊商を助けた時、彼女は瀕死の子供に回復魔法を使ってしまった。
物事の善悪の区別もつかない幼子は、ぺらぺらと街で彼女のことを喋ったのだろう。あるいは隊商が村のそばで事故を起こしたこと自体が、仕組まれていたのかもしれない。
その日のうちに、国王直属の騎士団がやってきて、『混ざり者』を隠匿した罪として村人を惨殺し、彼女を連れ去った。
「ごめんね」
連れてゆかれる直前、彼女は僕に駆け寄り、遅効性の回復魔法をかけていった。
血のにおいが充満する中、薄明が去り、僕は立ち上がった。
昇る太陽が、すっかり傷の癒えた僕を照らし出していた。
彼女を取り戻すため、そして村の皆の無念を晴らすため、僕は剣を手に取り旅立った。
その道の途中で、僕と同じように、『混ざり者』の大切なひとを奪われた仲間たちができた。
その中で、
「勇者王は『混ざり者』を集め、その魔力を吸い上げて、大きな古代魔法を行使しようとしているらしい」
という情報をつかんでいた仲間がいた。
彼女をそんなふざけた真似の犠牲になど、させやしない。
たとえ救世主に弓引く行為だとしても。
堅牢な城塞を針で崩そうとするような脆弱さだとしても。
僕らは奇跡という名の魔法を、起こしてみせよう。
お題:魔法
2/23/2025, 10:40:14 AM