たつみ暁

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4/5/2025, 11:47:04 AM

自惚れてたのかな。
ちゃんと言葉にしたことが無かったね。

小さい頃から一緒にいるのが当たり前だった。
小学中学高校、ずっと同じクラスだった。
この先もずっと一緒だと信じてた。

卒業式の後で、後輩に第二ボタンを渡す君を見て、わたしは君の一番じゃあないことを、やっと知った。

BSS、って言うんだっけ。
初恋は実らない、とも。

好きだよ。
その一言を踏み出せなかった。

2025/04/05 好きだよ

3/31/2025, 10:26:22 AM


「またね!」
そう言って手を振り、駆け去ってゆくきみ。
僕はきみのことをなにも知らない。
僕が町に出た時に、たまたま出会い、
「この町を案内して!」
と手を引いていった。
このあたりの子じゃあないのはわかる。
地理に疎いし、どんなに繕っても、質の良い布を使った服はごまかせない。
どこかの貴族のお嬢様が、家がいやになって抜け出してるんだろう。
仕方ないから付き合ってあげるうちに、情が移った。

「じゃあね」

ある日、きみは「またね」ではなくそう言って去った。
それからきみは現れなくなって。
半年後、この領地のあるじさまの一人娘が、病ではかなくなったというニュースを、新聞屋が号外で配った。
新聞の似顔絵は、まぎれもなくきみだった。

数年後、僕は騎士になって、あるじさまに仕えることになった。
あるじさまの騎士になったことで、お屋敷内を歩くこともできるようになった。
きみの瞳と同じ色の紫蘭を持って、お屋敷の裏手の墓地へ向かう。
墓に花を供えて、語りかける。

「会いに来たよ」

紫蘭の花言葉は、「あなたを忘れない」

2025/03/31 またね!

3/28/2025, 10:11:01 AM

でっかい男になるのが夢だった。
身体がでかいだけの男じゃない。
誰よりも強い剣士になって、冒険者として名を馳せて、海の向こうまでまたにかけた英雄になって、お姫様と結婚して。

所詮それは、一介の村人の僕には叶わない夢だったけど。

「あなた、もうすぐごはんができるから、テーブルの用意をしてくれる?」
「わかったよ」

愛らしい妻にこたえて、夕飯の支度をする。
布巾でテーブルを拭いていると、幼い娘と猫がじゃれてくる。
若い頃粋がっていた僕には勿体無い、小さな幸せ。

いや、最高の幸せさ。

2025/03/28 小さな幸せ

3/26/2025, 12:39:56 AM

汗水垂らして、とか、パワハラ上司に頭下げて、なんて旧世代の働き方は終わった。
今は記憶を売って金を得る時代だ。
特別な『装置』に一定期間の『記憶』を吸い取らせて、その価値に見合った代金が支払われる。
売った記憶はまた別の誰かに買われて循環する。
特に好まれるのは、子供時代の幸せな記憶だ。両親に愛されて一緒に遊んだ記憶なんかは、虐待を受けた記憶を二束三文で売った奴に買われて、幸福な記憶にすりかわる。
誰かの幸せに寄与して、私にはがっぽり金が入るんだから、win-winの関係でいいじゃないか。

ある日、また記憶を売りに行った。ダイヤの指輪が欲しいと言う妻の願いを叶えるため、まとまった金が必要だからだ。
記憶を吸い取ってもらって、金を受け取る。
そして店を出たところで、ふと立ち止まった。
はて、ダイヤの指輪が欲しいと言ったのは、誰だったろう?

2025/03/26 記憶

3/25/2025, 12:08:44 AM

「もう二度と相棒は持たないって決めてるんだよ」
戦場で見かけた戦いぶりに惚れ込んで、手を組まないかと、酒場で呑んでいるところに押し掛けると、彼は私にそう吐き捨てた。
そういう言い方をするということは、前には相棒がいたってことだろう。独りより二人のほうが生存率が上がるだろうに。
意気込む私の襟首を、酒場のマスターがむんずと掴んで引きずり、彼から離れたところで、苦渋に満ちた顔で告げた。
「あいつの相棒は、あいつをかばって死んだんだ。古傷を抉り返すんじゃあない」
その言葉に、脳裏に蘇る光景があった。

『おまえはオレの最高の相棒だ。二人で世界のてっぺんを目指そうな!』

傭兵には到底向かない優しい性格なのに、剣を振るう私に付き合って、共に戦場へ出て。
初陣であっけなく逝った幼馴染。
あの時、もう二度と他人を巻き込むまいと誓って、独りで戦場を駆け、それなりに名の知られる傭兵になった。
だけど幼馴染はもういない。
グズグズ引きずるのはあいつも望まないところだろうから、新しい相棒を探し続けて、やっと私の目にかなう相手を見つけたのだ。

「私は諦めないよ」

マスターに不敵に笑み返す。
私は彼を相棒にすることを諦めない。次の戦場で見せつけてやろう。
私はおまえの隣に立つに相応しい実力の持ち主だと。
もう二度と、おまえに喪失感を味あわせないと。

倒れる時が来たら、一緒だと。

2025/03/25 もう二度と

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