あの星のどれかがあなたかもしれないと思う。
指で星座をなぞってみる。
驚くほどにある意味では無垢だったあなたは、きっと星座の名前も知らなかっただろう。
あなたとの日々は切なさと暖かさに満ちていた。
あなたがくれたすべてを、わたしはこの先もずっと忘れない。
夜の風は静かに柔らかく、まるであなたのよう。
もう安心よ、と直接言えたなら。
ただ穏やかに過ごせたなら。
何億もの星に埋もれたあなたが、静かにこちらを見つめている。
貝殻を集めて瓶に詰めた。
振ると聴こえる海の音。
きみの足が砂浜を歩く音。
目を閉じて、光に透けるきみの髪を思い出す。
夏は過ぎ去った。
白昼夢の季節が幻のように霞んでゆく。
白い貝殻は入道雲の抜け殻だ。
きみは夏みたいなひとだった。
きみの目に一瞬閃いた、あのきらめき。
きみの命のきらめき。
ぼくの右の指先から流れ込んだそれは、
心臓まで辿り着いて鼓動を速める。
きっときみは知らない。
きみの二つのブルーグレーが燃える瞬間を。
炎は熱いほど青い。
ぼくは眩しさに瞬きした。
あのきらめきの向こう側にある命は、
太陽よりも熱く燃え盛っている。
今日、ぼくは海まで歩いた。
急いでいたから速足で。
海はあなたに繋がっている。
水面のきらめく青色が、あなたの瞳を思わせる。
照りつける日差しは、あなたの焼けた肌を思わせる。
あなたがどんなに美しかったか。
ぼくの永遠の憧れは、ついに伝説になってしまった。
魅力的だったあなたの笑顔。
真似をして片頬をつり上げる。
海がよく似合うひとだった。
少しだけ泣くために、今日ぼくは海まで来たんだ。
あなたにさよならを言う前に。
空模様はご機嫌斜めだ。
昨日まで降っていた雨を引きずって、灰色の曇り空。
だけど、ぼくは最高の気分だった。
隣にきみがいる。
きみはタバコをふかしている。
ぼくらの間のわずかな隙間を潮風が吹き抜けていく。
たぶん、きみが先に行くだろうとわかっていた。
まだ火のついたままのタバコ。
今日は雲が多いから、迷わずに登っていける。
先に海の話をしていてくれ。
なあ、きっとぼくらの海の話がいちばんに違いないよ。