一夜の夢

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8/15/2024, 12:42:08 PM

夜の海には月が溶けている。
きみが憧れていた太陽は、おれには眩しすぎた。
だからおれはこうして夜の海を眺めている。

ああ、きみはついに太陽を手に入れたらしい。
太陽が溶けた眩い海を。
きみは永遠になった。

きみの手のひらにおれが開けた穴。
おれの手のひらにきみが開けた穴。
そこからまだ、太陽が見える。

暗い夜の海で、おれは月に手をかざす。
きみの笑顔と柔らかな囁き。
昼に溶けた太陽は、夜も海を漂うだろうか。

6/28/2024, 1:42:12 PM

あれは暑い夏の日だった。
僕らは子どもだった。
永遠を無邪気に信じていた。
ずっと一緒だなんて。

耳の奥で、あの日の笑い声が弾ける。
肌を焼く日差しと青臭い草原の匂い!
手を振って別れた日々。
明日も会おうねと笑って、幻のように夏は過ぎ去った。

それでも僕の中で君たちは永遠だ。
僕はこの先も、あの夏の日を思い出す。
ずっとそばにいてほしかった。

僕は目を擦った。
たぶん都会のビルの照り返しがきつかったせいだろう。

6/14/2024, 6:28:16 PM

君はふらつきながら顔を上に向け、思い切り口を歪めた。ビール瓶を持った手を突き上げ、あいまいな空を怒鳴りつける。

「なんて空模様だ!降るか晴れるかどっちかにしろよ!」

僕はどうにもおかしくて、くすくす笑いが止まらない。
君の赤らんだ顔。くしゃくしゃのシャツ。僕のネクタイはいつのまにか、どこかへ消えてしまった。
君は僕を睨んだ。

「おい、笑うなよ。おまえも一言言ってやったらどうなんだ」
「……空に?」
「そうだよ」

僕はにやりと笑って、ぐずつく空を見上げて叫んだ。

「降るなら早く降れよ!」
「いいぞ、その調子だ」

君は満足気に僕の背中をばしばし叩く。
背中はひりひり痛んだが、僕はとても嬉しかった。
すでに君の目は半分閉じている。
空が怒って本気で降り出す前に帰ろうと、僕は君の肩を押す手に力を入れた。

6/6/2024, 3:45:40 AM

君の燃える眼差しに焼き尽くされるのが怖かった。
僕が君の姿で犯したすべての罪を、君は黙って見ていた。
僕は間違っていただろうか。

薄闇の部屋で一人、君は登れもしない螺旋階段をよく眺めていた。
タバコの煙で誤魔化せない苦しみに苛まれていた。
僕より高い体温が、命の矛盾を痛いくらいに伝えてきた。

君のすべて。
僕は君のすべてを貰った。
僕は間違っていただろうか。

君を焼き尽くした炎を燃料にして、僕は旅立つ。
君の瞳で僕は宇宙を見ている。
僕らは誰にも言えない秘密で繋がっていた。

5/27/2024, 2:21:43 PM

まだ6月だというのに、ぬるい夕暮れの空気は肌にまとわりついて不快だ。
さびれた住宅街のアパートで、僕はベランダの窓を開けた。
西陽がまともに部屋を満たして、君は目を細めた。

「眩しい」
「暑い方がいやだろ」

君の携帯が着信音を鳴らす。
運動会でおなじみの天国と地獄。
君は発信元をちらりと見て、出もせずに切った。

「誰?」
「秘密」
「なんだそれ」

君はふいっと顔を逸らす。
汗が僕の額を伝って目に入った。
天国と地獄のメロディを鼻歌で歌いながら、君は窓を閉めた。
暑いって言ったのに。

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