一夜の夢

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4/14/2024, 1:07:19 PM

神様へ近づこうと手を伸ばした天使は、その翼を焼かれて地に落とされてしまうらしい。

神様が手を伸ばしたくなるほど魅力的な悪魔になれば、落ちてきた神様を地獄の業火で堕落させられるだろうか。

神様へ近づいた罰を。
悪魔に手を伸ばした罰を。

僕らは共に背負って、燃え尽きた翼で地を這おう。

4/12/2024, 3:49:55 PM

遠くの空へ行くのだろう。
鳥の群れを見上げてあなたはそう言った。

翼があれば、今にも飛び去ってしまいそうに軽やかなのに。
背負ったものの重さで飛べないわたしと手なんか繋いでいるから。

あなたもいつか、遠くの空へ行くの。
たずねたわたしの手を、あなたは握り直した。

きみがいるから、ぼくは地上の生き物でいられるんだ。
微笑むあなたの目が鳥を見失ったのを見て、わたしはひどく安心した。

3/21/2024, 11:10:44 AM

「君と出会う前に、どうやって酸素を吸ってたか忘れたんだ」
「僕もだ」

二人ぼっちの僕らは、お互いがいないと呼吸すらもままならないんだ、きっと。
ずっと一緒にいるなんて、そんなの当たり前すぎて二人とも言わない。
僕は君が旅立ったすぐ後に、同じ場所へ飛び立つ。
君もそうだろ?

煌めく銀河の果て、星々を抜けて、なんにもないその先まで、僕らは飛んで行くんだ。

「さっさとしろ、置いて行くぞ」

僕は目を細めた。
乱暴な口調のわりに、いつだって君は遅い僕を待っていてくれる。
重い荷物を下ろした僕らはどこまでも自由だった。

2/29/2024, 12:20:32 PM

あなたと過ごした最後の夏は、暑くて、息が詰まって、うんざりするほど苦しかった。
最後まであなたは、わたしの目を見つめているフリをして、その先のどこか遠い場所を見ていた。
ねえ、わかっていたの。わたし。

二人の小さな家を出て、小さな壺だけ持って、それから、列車に乗って北に向かった。
寒くて冷たい北の海に、白く細かなあなたのカケラを撒いた。
海に背を向けて、ようやく泣いた。

わかっていた。
すぐ泣く女が嫌いなこと。
わかっていたの。
臆病でいたいこと。
だからわたし、ちゃんと隠せていたでしょう。

幸せだった。
そう言ったら、あなたがわたしから去っていくことも、よくわかっていた。

2/18/2024, 1:54:01 PM

穏やかな春風が、伸びすぎた前髪を揺らしていった。
春のにおいがする。

何度となくこの窓から眺めた街を、今日僕は離れる。
振り返れば、なかなか幸せな日々だったと言えるんじゃないだろうか。
開け放した窓の外からは、よく晴れた青空が見えた。

愛しき今日にさよならを。
明日になれば、もう戻らないこの街を懐かしく思うだろう。
人々の声で賑やかな通りも、風に翻る鮮やかな洗濯物も、夕暮れに灯る暖かな明かりも、ぜんぶお別れだ。

新しい街は海の近くにある。
春のにおいに潮の香りが混ざるのを想像して、僕は目を閉じた。

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