【もう二度と】
出逢うことはないと思っていたの。
なのに-。
「先輩!今日からお世話になります!」
「後輩くん…図書室では静かに」
「すんません!」
「もう…言ったそばから」
「えへへ」
彼は私の中学時代の後輩。
まさか高校生になってまで彼が後輩になるなんて思いもしなかった。
「先輩、これはどこっすか?」
「ああ、それはあっちの棚」
「これは?」
「それはこっち」
そうこうして月日が経って彼も少しずつだけど仕事を覚えて、少しは図書委員らしくなったかな。
「先輩?」
「!?」
「どうしたんすか、ぼーっとして?
まさか具合でも悪いんすか!?」
「う、ううん。大丈夫だから離れ…っ」
思ったより後輩の彼との距離が近くて私は脚立の上から落ちそうになる。
「あぶないっ!?」
「あっ」
そう言うかいなか私は足を踏み外した。
「(倒れるっ!?)」
そう覚悟をして目を閉じた。
が。
「あれ…痛く、ない?」
私は脚立から落ちたのに全く痛くなかった。
その代わり。
「いててっ…先輩?
怪我とかしなかった?」
「あっ…!?」
私のお尻の下敷きに後輩くんはされていた。
「ご、ごめんなさっ…!今退け…っ」
「いいよ」
「えっ…?」
私は急いで退けようとしたが、下から腕が伸びてきて私の体を抱き込んだ。
「先輩、俺先輩が好き」
「…!?」
「この高校に入ったのも先輩に会いたかったからだよ」
「どうして…?」
「先輩はずっと俺の憧れだったんだ」
「!?」
「ねえ、先輩?
少しは俺の事、男として意識してくれる?」
そう言って後輩くんの彼は悪戯っ子のような笑顔で私を見上げたのだった。
【曇り】14
フラワーガーデンを後にしてしばらくしてふと空を見上げれば、さっきまで晴天だった空は灰色に染まりもう少ししたら雨でも降ってきそうだった。
「幸先悪いな…」
私は木の陰に背を寄せ少し休む事にした。
?「こんにちは。可愛いお嬢さん」
「…」
また出た。
声がした方を見上げればそこには赤紫と紫の縞々(しましま)のまるで囚人服を彷彿させるよな服を着た青年が木の上から私を見下ろしていた。
「…私に何の用?」
?「用があるのは君の方なんじゃないのかい?」
「声をかけてきたのはあなたでしょ?」
?「僕はチェシャ猫だよ、お嬢さん」
「名前なんて聞いてないわ」
何だか会話がちぐはぐと噛み合わない。
一体この青年は何者なのか。
頭から猫の耳、お尻からは長い毛並みの尻尾が生えている。
まるでお伽噺に出てくる猫のよう。
「あ」
そうか、この世界はあの世界の中なのかもしれない。
そう言われれば、これまでのへんてこな人達のことも頷ける。
だけどあれはあくまでお伽噺の世界。
現実にあるなんてそんなこと有り得るのか?
チェ「考えてるね?そうここはあの世界の世界。だけどあの世界のようであの世界じゃない」
「あの世界じゃない?」
チェ「そうさ」
「なら、どういうせか…」
チェ「ここを真っ直ぐ行けばイカレ帽子屋達が御茶会をしているよ?」
「そうなのありがとうって今はそうじゃな…いない?」
さっきまで木の上からに何処かにやにやと人をバカにしたような面を見せてた青年はいつの間にかいなくなってしまっていた。
「今のは一体何だったの…?」
私は不思議と首をかしげ、取り敢えず真っ直ぐ行ってみることにした。
ただ、別れ際また会おうと言われなかったことにほっとした。
【bye bye…】13
「…」
どうしてここの住人は自己主張が激しいのか。
?「「デイジーは包まし屋さんなんだから!」」
パ「「「パンジーはカラフル!」」」
?「「「菫は清楚…」」」
?「「「向日葵は見てると元気になるわ!」」」
?「「「華やかさと言ったらダリアよね」」」
ローズ「お止めなさいお前達。はしたないわ。…高貴で気品溢れる薔薇の前では誰しもひれ伏すもの」
花達「「「は!?」」」
ローズ「…あら、何か言いたそうね?」
「…もう行っても良いかしら?」
正直花の小競り合いに時間を割くのは少々割に合わない。
どうでもいい。
まだ言い合を続ける花達に背を向ける。
と。
「ん?」
トントンと何かに背中をつつかれた。
?「私(わたくし)の姉妹達が五月蝿くてごめんなさいね。私は白百合。ここのフラワーガーデンの統率者です。」
「…」
思わず息を飲んだ。その花は純白に身を包みそれでいてその花が歩く度とても甘い香りが辺りに拡がっていた。
白百合「また是非いらしてください。その時はきっとあの子達ももう少しレディーらしい振る舞いも出来てると思うから」
「あ…」
まただ。また胸の辺りがチクりと痛んだ。
どうしてこの言葉を聞くと胸が締め付けられるように痛むんだろう。
私は何か大事なことを忘れてる?
そう思うけれどそれ以上何かを感じることはなく私はフラワーガーデンを後にした。
【君と見た景色】
春、桜咲き誇るあの丘で僕は君と出逢った。
高校に入学したての僕達はまだ大人になりき
れないあどけない顔をしていたね。
振り返った君。
頭上からははらはらと桜の花びらが降ってい
た。そこに立つ君はまるで桜の精のようだっ
た。
夏、夏服を身に纏(まと)った君。
額から流れる汗が妙に大人びていて放課後一
緒に勉強した日はそれどこではなくドキドキ
と胸の鼓動が煩(うるさ)かった。
秋、青々しかった緑の葉達も、朱。黄色。オレン
ジと彩りを飾り、春とは違った紅葉、いちょ
うが辺りに溢れた。
君の横顔はもうすっかり大人の女性に見えた
た。もう友達ではいられない。
冬、最後の季節。受験。僕達は別々の進路に進む
。君とはもう毎日一緒には過ごせない。寂し
さが僕の心を暗くさせる。
もう言ってしまおうか?
この言葉に出来ない愛おしさを君に。
そして、再び季節は巡る。
君をこの手にぎゅっと抱いて、また新しい季節を過ごす。
【手を繋いで】
ベッドに眠る妻の横顔は昔出逢った頃のままに綺麗だった。
思えば毎日寂しい想いをさせていたのだろう。
それでも私の前ではいつだって明るく元気な笑顔を絶さなかった。
私に気負いをさせないために。
そんな私は毎日仕事ばかりで家庭を振り返る事はなかった。
家事も子育ても妻に任せっきりで。
一緒に過ごしたのさえ手で数えるくらいだ。
だけどこんな私の傍にこの歳になるまでずっと寄り添っていてくれた。
それなのに。
あの日の君との約束を私は忘れて君は独り天国へと旅立った。
「本当に私はダメな夫でしかなかったな。」
私はそっともう目を醒ますことのない妻の手をそっと握った。
「年を取っても僕と手を繋いでいて欲しい」
私が君に送った、最初で最後のプロポーズ。
君ははにかみながら目に涙を浮かべていたね。
「近いうち私も君のところへ逝くだろう。その時、もう一度君に言うよ。その時は」
僕とまた手を繋いでくれますか?