【風のいたずら】
毎日寒い。
雪が降ったから尚更。
それでも外に出なくては行けなくて。
何のいいことがあるのかと毎日思う。
そんな時風か私の目の前を掠めた。
その寒さで思わず目を閉じた。
あっ、そう思ったときには遅かった。
転ぶ!とそう覚悟していたのに。
その痛みは何時まで経っても訪れなかった。
ぎゅっと閉じた目を開いてみる。
「大丈夫ですか?」
「えっ、」
頭上で声がして見上げると青年の顔が。
一瞬の出来事で頭の整理が追い付かず私はフリーズしてしまう。
「何処か痛いところは?」
「…い、いいえっ!」
「そう。なら、俺は行きます。滑るから気を付けて。じゃあ」
それだけ言い残し青年は颯爽とこの場を離れていく。
しばらく私は呆けたまま、あっ!と。
「…お礼、ちゃんと言ってない」
また、会えるかしら。
その時は改めてお礼を言おう。
こんな出逢いがあるなら、冬の寒さも少しだけ我慢できるかな?
【透明な涙】
この世に感情がないものは本当に存在しているのだろうか?
生命以外にもきっとそれは存在していて、きっと言葉なく涙を溢しているのではないだろうか。
きっと私のように、ショーウィンドーの中から何時もあの人を見てる。
叶うはずのない恋。
だって私はただの着せ替えのお人形。
新作が出る度私は衣装替えをする。
あなたは何時も私の前を素通りするだけ。
だけど一度だけ、私の前で立ち止まった。
その時初めてあなたを間近で見たの。
背の高いあなたは私に屈むと綺麗な瞳をして私を見てた。
そして私は恋に落ちた。
あなたは知らない。
私があなたを好きなこと。
あなたに恋をしていること。
だから今日も私は涙を流す。
誰にも知られない、透明な涙を。
【あなたのもとへ】
空の上からずっと地上を見ていた。
私の仕事は正しい行いをした人間の魂を死神から受け取り天国へと導く。
だけど、正しい行いってどう言うことなのなのだろう。
何が間違っていて、何を基準として正しい行いなのか。
正直私にはわからなかった。
だから知りたいと思った。
もっと人間のことを深く。
もうすぐ私は神様に一つだけ願いを叶えてもらえる。
仕事のノルマを達成するからだ。
これで私は地上に降り立てる。
神の使いでなく、人間として。
そしたら少しは人間のことを理解することが出来るだろうか。
不安と迷い、興奮と欲望が私を突き動かしていた。
【そっと】
耳元で君は囁いた。
「あの時、キスしてくれたら良かったのに」
そう君は悪戯に微笑んだ。
【まだ見ぬ景色】
何処までも広い世界が目の前にはあった。
僕はそれを見つめ自身の掌を見た。
可能性は一つじゃない。
それでも一歩踏み出せないのは、僕の心の弱さなのか。