コノハ

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【手を繋いで】

ベッドに眠る妻の横顔は昔出逢った頃のままに綺麗だった。
思えば毎日寂しい想いをさせていたのだろう。
それでも私の前ではいつだって明るく元気な笑顔を絶さなかった。
私に気負いをさせないために。
そんな私は毎日仕事ばかりで家庭を振り返る事はなかった。
家事も子育ても妻に任せっきりで。
一緒に過ごしたのさえ手で数えるくらいだ。
だけどこんな私の傍にこの歳になるまでずっと寄り添っていてくれた。
それなのに。
あの日の君との約束を私は忘れて君は独り天国へと旅立った。

「本当に私はダメな夫でしかなかったな。」

私はそっともう目を醒ますことのない妻の手をそっと握った。

「年を取っても僕と手を繋いでいて欲しい」

私が君に送った、最初で最後のプロポーズ。
君ははにかみながら目に涙を浮かべていたね。

「近いうち私も君のところへ逝くだろう。その時、もう一度君に言うよ。その時は」

僕とまた手を繋いでくれますか?

3/20/2025, 1:48:12 PM