飽和人

Open App
3/15/2026, 9:39:28 AM

死期が近い人間の傍に降り立って最期を看取った後に魂を回収する、この一連の流れが死神の仕事。必ずしも黒いローブをはおり、三日月型の鎌を手に持っているわけではなく、姿形は変幻自在。幼いこどもの姿で活動するやつとか、なんなら愛くるしい犬猫の姿でこの世に来るやつだっている。とは言っても必ずしも人前で姿を現し、正体を明かすわけではなく、基本的に人の目には映ることなく淡々と仕事をこなすのみ。なお、例外として稀に死を迎える少し前に俺たち、死神の姿を認識する人間もいる。

俺の目の前で清潔そうなベッドに身を預けている人の良さそうな老婦人、彼女は例外に当てはまる人間らしい。

「あなたはだぁれ?どちら様かしら?」
「死神。」
「ああ、迷子になってしまったわけではないのね。...お迎えに来てくれたのかしら。」

彼女は俺を怖がるわけでもなく寂しげな、それでいてどこか安心したような返事をした。

「怖くないので?」
「ええ、ちっとも怖くはないわ。早く連れて行ってくれるのであれば、それほど嬉しいことはないわ。」
「...もう一度くらい、子どもとかお孫さんの顔とか、せめて友だちや同級生、なんなら知り合いとかご近所さんの顔を見たいとかあるんじゃあ。」

不思議そうな表情を向けられた。そりゃそうだよな。死神だっていう男がなんで自分のことを気遣うようなことを言うのだろうって、言葉にされなくともなんとなく思っていることが分かる。彼女は小さな笑みを携えながら、しかし寂しそうな声色で、

「...悲しそうな顔は見たくないもの。どうせならこう、嬉しそうな顔とか満面の笑みを目に焼き付けた後に、お別れを告げる前にひっそりと息を引き取りたいわ。」

体も思うように動かないからね、と付け足して俺のことを真っ直ぐと見据えた。

「それにあの子たちの顔を見ることはできたわ。しかもとびきりの笑顔をよ。また会いに来るからねって約束が果たせないのは、心苦しいけれど。それでもいい終わり方でしょう?」

だからお願いね、と俺の目を見て告げた後に眠るように安らかな目を閉じた。

生気のない色をした、でも満足気な微笑をたたえた顔だった。

3/12/2026, 7:43:50 AM

平日は同じ時間に起床、夜になれば就寝。毎日同じくらいの時間、間隔を空けて朝食、昼食、夕食を摂り、稀に間食を挟む。何か大きな変化があるわけでもない、いたって普通の日常。非現実的な何かが怒ることを期待しつつも、事故や事件、災害などはお断りしたいと願う今日この頃。どこもかしこもずっと平和かと問われれば答えは否だ。平和な日々に浸かって時間が溶けゆくままに怠惰に過ごす自分と、貧困や周りの環境、果てには戦争の最中でもがき苦しむ人だっている。私はいつまで変わらないことを信じていられるのだろうか。今この瞬間ですら、いつもの日常が壊れない保証なんざどこにもないのに。

3/11/2026, 9:45:20 AM

愛と平和は同時に成り立つものなのだろうか。平和のために知らない誰かの愛を殺し、愛のためにどこかの平和を侵すこともあるのに。

3/2/2026, 8:55:24 AM


「自分がしたくてやったことだから。」
「これは私のエゴだから。」

どうして己のしたいことだと言えるのだろうか。他人への献身を、慈善を、なぜ己の欲望のように語ることができようか。

2/23/2026, 10:02:31 AM

太陽のような

陽の光はいろいろなものを照らし、さまざまな役割を担う。朝の時間であれば、誰かの部屋に掛かったカーテンの隙間から微かなを差し込ませ、目を覚ました住人によって開けられた後は窓ガラスからより多くの光を滑り込ませ、部屋の中を照らしながら新しい一日の始まりを告げるだろう。南の位置まで移動した太陽が、次は西へと移動する昼の時間帯であれば、学校の広いグラウンドと、建てられてからそこそこ年季が入った校舎を照らし、欠伸を噛み殺しながら昼食後の授業と格闘している窓際の席に座る生徒A君を、心地よい睡眠へと誘おうとしているのかもしれない。晴天時であれば、青空の下で植物たちを照らし光合成を行わせながら、風に揺られ流れてくる雨雲の恩恵を待ち侘びているのかもしれない。親が子を育てるように、交代で植物をすくすく成長させる役割を持っているとも言えるのだろうか。

そのどれでもない、人を照らす、太陽のような人がまれにいる。例えるのであれば花びらを光に透かすようなイメージだとでも言えばいいのだろうか。人のいいところを見習い、影にいる人を陽の下に連れ出す人が。極端な善し悪しで断定するのではなく、見方を変えて短所を長所に変えてしまうような。自分にとっては難しい、視点を変えて見ることができる人は、太陽のようにほんのりと温かくて眩しすぎるくらい輝いて見えた。

Next