M氏:創作:短編小説

Open App
10/24/2023, 11:03:58 AM

『N.162533.f.p.β.V』

彼女は酷く冷たく淡白に名を呼ばれた
彼女の名前は“N.162533.f.p.β”
最後に“V”と言うアルファベットは無かった

『これはね、しっぱいさくっていみなの』

各々が好きなクレヨンを使って
白い画用紙を染めてる中
姉である彼女はそう言っていた

『ぶいってよむの、べるしっしぐっていみなの』

よく喋る彼女は唇を尖らせながら説明してくれる
度重なる実験が不成功で終われば自分達は失敗作
行くべき道は処分…死あるのみだ

『だからがんばらなきゃね』

そう笑っていたのはつい先日だ
数時間前までは優しく見つめていた茶色の瞳が
嫌に苦しげに姉を睨んでいる

『サイ』

自分は彼に逆らえない
そう教え込まれたからだ
でも無意識に身体が動いていた

『サイ、退きなさい』

姉の前に立って自分よりも背の高い彼を睨む
退いたら連れて行かれてしまう
それが何より怖かった

『サイ…』
『わたし…しっぱいさくなの…?』

男の声を遮るように震えた声が零れる
そちらを見やればお揃いの瞳が濡れていた
ため息を吐かれる回数の方が多い彼女の結果を
一番知っていたのは彼女自身だ

「しょーた、サイは…」
『ああ、N.162533.f.p.β.V。お前は失敗作だ。』
「しょーた!」

自分が失敗作だと言われるよりも辛いと思うのは
許されない感情かもしれない
無感情に動く生物兵器として生きるに相応しくない

『サイ、これ以上騒ぐのならお前もだ。』

静かな時間が流れる
長く長く感じて
息も止まったように感じる

『サイ…』

沈黙を一番に遮ったのは彼女だ
震える手でギュッと患者服を握られる
床に送っていた視線を上げた彼女は苦しげに笑った

『サイは…せいこうさくで…いてね…』

絞り出した声を最後に彼女は立ち上がり
自分の横をゆっくりと歩いて
彼の手を握った

「…おねえちゃん…」

彼女は振り返らない
彼は苦しげに歯を食いしばるばかりだ

「…まって…」

扉が閉じていく
彼は静かに視線をこちらに向けて

『こうするしか無いんだ』

そう残して扉を閉めた
床にポロポロと涙が零れる

「…いかないで…」


題名:行かないで
作者:M氏
出演:🎲🔔👨🏻‍💻


【あとがき】
束の間の休息の後編であり
過ぎた日を想うの前編であり
私の名前の前編でもあります
束の間の休息では出演者全員がほのぼのとした絡みを見せてくれました
過ぎた日を想うでは出演者である彼女の未来の話を
私の名前では出演者である弟の未来の話です
彼は双子の事をきちんと見ていました
それと同時に板挟みになったのも確かです
彼女もそれ相応に苦しかったでしょう
でも家族と呼ぶに相応しい人が居たのです
長い年月がそれを憎しみの記憶に変えただけで
弟も姉を忘れてはいません
ですがそれを思い返す程の感情も無いのです
全員苦しんで悲しんで…でも生きるしか無かったから未来がある
辛いなぁ…

10/23/2023, 6:12:12 PM

荒くなった息
重たい足取り
逃げてるはずなのに怖くは無い
いや怖い
まるで鬼ごっこをしてて
捕まっても特に痛い思いをしないと言うか
それが大前提で分かってて
そんな中鬼に見つかって追われてる感じ
雑居ビルより一回り大きい感じのビルで
迷路みたいな道を走って
自分はやっぱり誰かに追われてて
階段を降りたら捕まると思って
とりあえず登って
学校みたいな階段を登って
扉を開けたらやっぱり学校みたいな屋上があって
トイレの鍵を閉める感覚で屋上の扉を閉めて
プールとか何重にもある柵とか
そんなの気にせず登っては飛び越えて
鍵を誰かがガチャガチャと開けようとしてて
振り向いたらお父さんが居て
まぁ他にも大人が居たんだけど
あの人だって分かるのがお父さんで
自分と目が合ったらなんか叫んでたから
『パパは僕の事作って良かった?』って
大声で叫んでから最後の柵を飛び越えたら
「馬鹿な事をするな」ってぼんやり聞こえて
お父さんってあんな声してたんだとか
お父さんってあんな顔してたんだとか
そんな事を考えてたら
目が覚めた
ボサボサになった髪を撫でて欠伸して
ボーッとした脳みそのままタバコを吸う為にベランダに出て
空気が凄く冷たいのに陽は暖かくて
空は異様に綺麗だった


題名:何処までも続く青い空
作者:M氏
出演:?????????????????????


【あとがき】
夢を見ました
忘れないうちにネタにしとこうと書きました
M氏は自分が思った以上にファザコンです
飛び降りてしまおうと考えてた時に懸命に鍵のしまった扉を開けようとした父親を見てめっちゃ笑顔になりました
寂しかったです辛かったです殴られたくなかったです愛されたかったです普通の家族らしく居て欲しかったです
夢の中の自分は救われたのか分からないけど
久しぶりに父親の顔を見て“パパ”と呼べた気がします
ザッと15年ぶりくらい
嬉しかったです

10/22/2023, 10:51:24 AM

「コレは〜…寒い」
「コレ着てたな〜」
「ヤダコレ型崩れてる〜絶対お父さんが洗濯したやつだ〜」
「コレ可愛い〜うちセンス良!」
「こっちは着そうだけどこっちはな〜」
「うちってワンピ着ないんだな〜」
「え?最近ハマってるメイクに合わん」
「去年どんな顔してたっけ?」
「うっわぁ嫌〜そうだこういうのしてた」
「コレ今年も着よ〜」
「ぁ゛、んぃ〜コレあんま似合わんって言われてたやつ〜」
「でも可愛いんだよな〜」
「いや、メイクちょっと変えれば行ける?」
「アクセ買っちゃお♡」
「コレ欲しい服に合うもんな〜」
「可愛い!採用!」

『瑛梨〜?アンタいつまでやってんの〜』
「ごめん!今めっちゃノッてきたからご飯後で!」
『早く食べなさいよ〜』
「はーい!お母さん!着ないのって古着に売って良い?」
『従兄弟にお下がりしても良いんじゃない?』
「あーそっちもあるか〜じゃあ分けとくから残ったのは売っちゃうね〜」
『そうしなー』

「んでこっちは着るやつでアレは着なくて」
「今年流行りの色なんだっけな〜」
「ヤダすっごい可愛いの売ってる〜欲し〜」
「また買いに行こ!」

「お母さん着るやつ1回洗濯して〜!」
『アンタ少しは自分でもやりなさいよ』
「家に居るうちはお願い♡」
『仕方ないわね〜』
「ありがと〜」
『やっとくから早くご飯食べなさい』
「はーい!」


題名:衣替え
作者:M氏
演出:🍤


【あとがき】
会話だけの小説は初めて書きましたね
こんな服かな、あんな服かなって皆様が想像を楽しめる範囲の会話にするのは難しいかったです
ですが日常会話で“多分こうしてるのかな”が伝われば良いですね
出演してくれた彼女のようにオシャレさんな人は衣替えも一苦労しそうです
M氏は服に無頓着な方なので着れれば何でも着ますね
周りに似合うよと言われたら“じゃあコレにするか”くらいで
着れるうちはどんなに流行りに合わなくても着ます
なんならジャージでも着てろよと言われた時に学校指定ジャージを着てたくらいです
オシャレさんな事をしてないので表現が難しく書くのも少し一苦労でした本当に
読んで頂きありがとうございました

10/21/2023, 11:45:30 AM

愛されたい
ただそれだけだった
この願望が強いのは母の血なんだろう
男に懸命に贈るラブコールを
冷めた視線で貫くのはいつもの事

ヒステリックに皿を割る
私は悪くないと叫ぶ
キーキーと甲高い悲鳴が響く
小さな声では彼女を振り向かせる事も出来ない

『そうよ、あの人』
『あの人との子よ』
『きっとそうよ』

ブツブツと独り言を語る母
その姿を横目に小さな手でカップ麺にお湯を入れる
白髪混じりの黄緑色の髪
元は自分と同じ色だった

寂しい

『どうして出ないの』
『もういい、メールで…』
『いつも電話には出ないんだから…』

携帯に指を滑らす息の荒い女の姿
あんまり見ていて気持ちの良いものでは無い
でも他に見るものが無い

使いづらい大人用のフォークで持ち上げた熱い麺を
尖らせた唇で懸命に息を吹きかける
まだ熱いけど食べれる範囲だ

『ひめ!ひめちゃん!こっちにおいで!』
「あっつ…!」

唐突に腕を引っ張られる
カップ麺が倒れてテーブルだけじゃなく床も汚した
服も汚れたしスープがかかった手がヒリヒリする

『ちょっと!何やってんの!』
『早く行かなきゃいけないのに…』
『さっさと着替えて!』

手当をされる事もなく自室に押し込まれる
今までもこうやって外に連れ出される事はあった
父親に会えるよと言われて
でも誰も居ないし来てくれない
その度に母はヒステリックになって家で物を壊す

どうせ誰も来ないのに…



寒空の下で母と待つ
寒くとも母は手を繋いでくれない
両手はずっと携帯を弄る為に使われている

指先を擦り合わせて掌に息を吐く
ふわふわと白い吐息が揺れる
また数時間も待つのかな

眠いしお腹も空いたし
寒いよ辛いよ
誰か助けてよ

ふわりと背中が暖かくなる

指先を暖める事に夢中で下げていた視線をあげた
銀色の髪を緩くまとめて
赤い切れ長の瞳視と線が交わる
長い睫毛や整った顔立ち
柔らかな笑顔

『寒いかったでしょ?。』

背中が暖かいのは目の前に居る彼が自分の着ていたコートを貸してくれたからだ
彼はわざわざ視線を合わせる為にしゃがんで
長身に合わせた丈の長いコートが地面に触れるのも気にせず己に貸してくれた

『遅れてごめんねハニー。』

大きな手で冷えた頬を包んで
少しばかり伸びた自分の髪に触れて
肌の色も髪の色も瞳の色も
全部違う自分を優しく抱き締めた

『その子“緋姫(ひめ)”って言うの。アナタの子でしょ?』

彼は擦り寄ろうとする母に視線を向けずに
自分を軽々と抱き上げた
ポンポンと厚手のコートに包まれた背を撫でながら

『もちろん、このコは私の子供です。』

低音の優しい声が耳に響く
貴方の子供と言われた事は沢山あった
代わる代わる違う人に見せられて

貴方の子供
貴方の子供
貴方の子供

母にも言われた事が無かった
“自分の子供”と認められる事が一度も無かった

『█████』

彼は涙を零す自分に何かを言ってくれた
何年か経ってあの時の言葉の意味を知れた
日本語で“泣かないで、愛しい我が子”と言う意味

母の気持ちが分かった気がした
愛されてるのは酷く嬉しくて酷く不安になる事
愛しているのは酷く楽しくて酷く苦しい事

あの人に愛されてるのは僕だけだよ

アナタだけを愛してる
自分だけのモノになってくれないアナタを
ずっと盲信して叫び続ける
僕を救ったのも壊したのも愛したのも
全部アナタだと


題名:声が枯れるまで
作者:M氏
出演:🧷


【あとがき】
自分の子じゃないと否定された事はありますか?
逆に否定した事はありますか?
言われなくとも気づいてしまった事はありますか?
言ってなくても思った事はありますか?
人間は愛情が無いと生きられず、そして歪みます
出演してくれた彼は誰にも認められずに物心をつけました
冷めた感情を胸に諦めてばかりでした
そんな心に一粒でも一滴でも
ぬくもりが産まれてしまったら
縋りたくなりますし盲目になりますし
独占欲が産まれて不安になってしまいます
愛される事は幸せであり不幸である
不幸と分からない程にずっと幸せで居続けるなんて
不可能なんですよね
難しいですね

10/20/2023, 12:16:07 PM













『初めまして』













此処で出会えたのも何かの縁
アナタの時間をワタシにください
画面越しに見るアナタの顔

『いつも眺めさせて貰っています』

細い手足がなぞる身振り手振り
こんな文字列じゃ伝わりはしませんでしょう
荒れて痩けた白頬をどんなに歪めても

『アナタは何も見えていないでしょう』

ええ、知っていますとも
字ばかりが描く世界とやらを
指先を緩く動かす行為で摂める

『アナタの世界に“ワタシ”は要らないのです』

ですが、そんなワタシにもですね
誰かに何かを届けたいと言う願望はありまして
貰い物ばかりがアナタの視線を左上にズラした先に貯まりまして

『贈り主が誰かなんて分かりませんが』

贈られてばかりと言うものは気が引けます
されど贈り主の見えぬ匿名の世界では
ワタシの想いも酷く一方的でしょう

『アナタが指をなぞらせるのと同じで』

運良くワタシは気分が良い
心の形を彷彿とさせるだけありますね
もし形が不快を思わせるのだとしたら

『ワタシが送る全てが刃のように鋭かったはず…』

ワタシは自分の都合に合わせて曲解します
どうか指先にはお気を付けて
感情と言うのは己では何一つ制御出来ないのだから

『アナタもきっと同じでしょう』

話が脱線しましたね
誰かに何かを贈りたいと言う気持ちは
誰かから何かを贈られて初めて抱くものです

『だから指先にお気を付けください』

アナタが抱く不快
ワタシが抱く不快
誰かが抱く不快

『今の時代は己の指先一つで決まるんですから』


題名:始まりはいつも
作者:M氏
出演:?????????????????????


【あとがき】
最後まで読んで頂きありがとうございました
生きにくい世の中ですがどうかお気を付けて
今の時代に石橋を叩く人は存在しないのですから
“転ばぬ先の杖”精神で息を吸いましょう
アナタもワタシも‪✕‬なないように

Next