M氏:創作:短編小説

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『N.162533.f.p.β.V』

彼女は酷く冷たく淡白に名を呼ばれた
彼女の名前は“N.162533.f.p.β”
最後に“V”と言うアルファベットは無かった

『これはね、しっぱいさくっていみなの』

各々が好きなクレヨンを使って
白い画用紙を染めてる中
姉である彼女はそう言っていた

『ぶいってよむの、べるしっしぐっていみなの』

よく喋る彼女は唇を尖らせながら説明してくれる
度重なる実験が不成功で終われば自分達は失敗作
行くべき道は処分…死あるのみだ

『だからがんばらなきゃね』

そう笑っていたのはつい先日だ
数時間前までは優しく見つめていた茶色の瞳が
嫌に苦しげに姉を睨んでいる

『サイ』

自分は彼に逆らえない
そう教え込まれたからだ
でも無意識に身体が動いていた

『サイ、退きなさい』

姉の前に立って自分よりも背の高い彼を睨む
退いたら連れて行かれてしまう
それが何より怖かった

『サイ…』
『わたし…しっぱいさくなの…?』

男の声を遮るように震えた声が零れる
そちらを見やればお揃いの瞳が濡れていた
ため息を吐かれる回数の方が多い彼女の結果を
一番知っていたのは彼女自身だ

「しょーた、サイは…」
『ああ、N.162533.f.p.β.V。お前は失敗作だ。』
「しょーた!」

自分が失敗作だと言われるよりも辛いと思うのは
許されない感情かもしれない
無感情に動く生物兵器として生きるに相応しくない

『サイ、これ以上騒ぐのならお前もだ。』

静かな時間が流れる
長く長く感じて
息も止まったように感じる

『サイ…』

沈黙を一番に遮ったのは彼女だ
震える手でギュッと患者服を握られる
床に送っていた視線を上げた彼女は苦しげに笑った

『サイは…せいこうさくで…いてね…』

絞り出した声を最後に彼女は立ち上がり
自分の横をゆっくりと歩いて
彼の手を握った

「…おねえちゃん…」

彼女は振り返らない
彼は苦しげに歯を食いしばるばかりだ

「…まって…」

扉が閉じていく
彼は静かに視線をこちらに向けて

『こうするしか無いんだ』

そう残して扉を閉めた
床にポロポロと涙が零れる

「…いかないで…」


題名:行かないで
作者:M氏
出演:🎲🔔👨🏻‍💻


【あとがき】
束の間の休息の後編であり
過ぎた日を想うの前編であり
私の名前の前編でもあります
束の間の休息では出演者全員がほのぼのとした絡みを見せてくれました
過ぎた日を想うでは出演者である彼女の未来の話を
私の名前では出演者である弟の未来の話です
彼は双子の事をきちんと見ていました
それと同時に板挟みになったのも確かです
彼女もそれ相応に苦しかったでしょう
でも家族と呼ぶに相応しい人が居たのです
長い年月がそれを憎しみの記憶に変えただけで
弟も姉を忘れてはいません
ですがそれを思い返す程の感情も無いのです
全員苦しんで悲しんで…でも生きるしか無かったから未来がある
辛いなぁ…

10/24/2023, 11:03:58 AM