パチパチと爆ぜる火花が夏の夜を引っ掻く。手のひらほどの小さな光。君と見るはずだった大きな花火と比べれば、ほんの微かなものだ。夜空に打ち上がる力もなく、か弱い灯りを残してポトリと地に落ちてしまう。
僕の視線に気づき、君は楽しそうに線香花火を差し出す。勝負勝負と言いながら、その頬にほんの少しのごめんねを滲ませて。君はまだ、夏風邪を引いたことを悪く思っているらしい。
いいんだよ。僕は心から思う。僕は思いの外、この2人だけの花火大会を気に入ってたりする。君の横顔を一番の特等席から見られるのだ。君の笑顔はどんな花火よりも明るくて、綺麗だった。
肩を並べて線香花火を見守りながら、僕はその輝きに願う。どうかいつまでも咲いていてほしいと。
不在を証明するのは難しいと言うが、狭い空間においてはその限りではない。例えばそう、このカバンの中だ。今朝、確かに仕舞ったはずの鍵だが、どうもその行方が掴めない。一つ横のポケットに入ったのかと探りを入れてみるがここにもない。その隣にもない。そのさらに隣も同様である。どういうことだろう。私の手が、あの硬い感触を求めて忙しなく動き回る。障害物が邪魔で片っ端から取り払う。財布、タオル、ティッシュ、などなど。これでは四次元ポケットを漁るドラえもんじゃないか。私はすっかり青ざめ、やがて一つの結論に辿り着く。それは、鍵はどこかにあるということだ。ここではないどこかに。
最初の一戟を受け止めた瞬間、お前だとわかった。
金属音を散らして飛び退った人影は怯むことなく間合いをつめてくる。続けざまの剣戟。力に逆らわず巻き込むように隙を狙ってくる。小柄な体格を生かした流れるような踏み込み。何度膝を折ろうと立ち上がってきたその脚が、脳裏の記憶と重なった。
「なぜだ!」
俺は刀を構えたまま叫ぶ。「なぜ国に逆らう!」
影は答えない。何度弾かれようが歯を食いしばって走ってくる。すでに奴の太刀筋は見切っていた。そして、奴が負けを悟っていることも。
俺はきつく柄を握った。
お前は間違っている。
里を守るため、口を糊す家族を救うために、俺たちは国を変える。そのために今、国に従わねばならない。たとえどれほど圧政を敷く国だとしても、今はただ嵐が過ぎ去るのを待つのだ。それがどうしてわからない。俺たちは、同じ父と母を持つ兄弟だというのに。
奴の刀が空を切った。軸を失った体はもう、俺の太刀を躱すことはない。ひらりと顔を覆う布がはだける。お前の目が俺の刀を捉えている。切先がお前の体に届く様を見ている。お前と交わした誓いが断ち切られる瞬間が俺たちの目に鮮明に映る。
(書いてからお題が「君」だって気づいた💦)
伸びない数字に息をつく。今日もタイムラインには名の知れたクリエイターたちの作品が並び、当然のようにk単位を出していた。
とぼとぼとリビングに降りると、
「どうした。しおれた顔をして」
裏庭から父が尋ねた。僕はなんでもない、と答えて外に目を向ける。花壇に咲く色とりどりの花が、僕を笑っているような気がした。
「いつもよく咲くね」
「そりゃあ、世話かけてるからな」
父はあっけらかんとして言う。
「咲いてみれば堂々としているが、どれもこれも繊細な花ばかりだ。土、水、日当たり、害虫、いろいろクリアしてようやく、ってもんだ」
「簡単そうに見えるけど」
「それは俺が上手くなったからだ。昔は何回も枯れた」
「そう、なんだ」
僕は少し自信がなかった。
「やめようとか、思わなかった?」
「思った」
父はちらと俺を見て、それから小さく笑う。
「でもやっぱり見たかった。こいつらがどんな花を咲かせるかをな。咲いてみれば綺麗なもんだ」
僕は立ち上がった。
「どこか行くのか?」
「絵、描いてくる」
僕はぱたぱたと階段を上がる。
瞼の裏、日の光を浴びて輝く花々が僕を待っていた。
子供の頃は書きたいものを書いていた。
ただひたすらに。迷いなんてなかった。
荒削りで、ご都合主義で、だけど伸び伸びしていて。
昔の作品を読むのは恥ずかしいけれど、
書く楽しさが伝わってくる。
今はどうだろう。
文章の良し悪しが自分なりに解るようになった。
書きたいこと、表現したいことが増えた。
だから迷いがある。不安がある。
バックスペースを触る回数が格段に増えている。
自分は成長しているのだろうか。
下手になってはいないだろうか。
時々わからなくなる。
だけど一つ言えるのは、
書く世界の広さを知ったということ。
このワクワクが続く限り、きっと前へ進んでいける。
だから今日も僕は机に向かう。
新たな発見への期待と、少しの野心を胸に抱いて。