喉なのか心なのか、カラダの何処かが乾き切っていて自分を満たすモンを探しとった。内側から何かを強く欲していてでも探せど探せど見つからん。夢やって気付いてようやく目を覚ました時にはもう熱中症やってん。
『不在着信11件』
画面を2度ほどタップすると半日は既に過ぎとって誰からか電話がこんなに来とった。
両親は仕事第一の人間やし私も高校生なったからほとんど家にいない。慣れとる、一人ぽっちなんか。あぁ、余計な事考えとったらまた眠ぅなってもうたわ。自分ん事はまた起きてから考える事にするわ。
つめた…い。なんや、私ん部屋こんなに涼しゅうなっとったかいな。
「あ、起きた?メシは食えそう?まず水分か…」
「佐藤。。。なんでおんの?」
「なんでって、いくら俺ん事避けてても電話だけは出てくれた奴が出なかったら心配くらいするやろが。鍵は開いとったから勝手に上がらせてもろうた」
「あ…佐藤やったんか。ごめん、迷惑かけたわ。あとは一人でできるけん、もう帰ってええよ」
「アホぉ!弱っとる時くらい俺頼れよ。何をそんな強がっとーと?俺はお前に死なれるのが1番困んねん」
死ぬって、んな大袈裟な笑 ただこんな時まで本気になってくれる佐藤に少しだけ頼もしさを感じてしもうたかもしれん。たった少しのたった一言の頼もしさ。結局私を動かすんはいつも佐藤やったんね。
「なぁ、佐藤。本当に迷惑かけるわぁ、これからも」
「…おう」
「この前の返事やけどさ、付き合おっか、私達」
「はっ!?………お前熱中症で頭沸いたんか!!?」
「なんや、付き合わんでええの?」
「いやいやいやいや…ホンマに?俺でええん?」
「ええから言っとんのよ。よろしく頼むわ、佐藤」
多分、この関係が追い求めていたものかもしれん。私を満たす事ができるんはきっと佐藤だけやんな、保証なんてないけど。心の拠り所であって欲しいよ、これからも。佐藤、アンタにはホンマに……やっぱなんでもあらへん。
題材「オアシス」
アオイハル。誰もが平等に得られる機会の中に存在するたった数年。人生の何分の1にも満たない青春時代。
田舎や、田舎。360°見回してみてもなーんもない。そら、住宅が集まっとーとこにはスーパーだのドラッグストアだのはあるけども。私が住んどるとこには都会だと100m間隔くらいに建っとるコンビニさえないんじゃもん。つまらんよ、つまらん。
ただ、変わらんことと言えば私が通っとー高校の授業内容とかだけじゃろね。
「皆さんいいですか。ここは進学校なんですよ、進学校。言動には十分気を付けなさい」
なんて先生達は言っとるけど、本当の進学校は自分達で進学校なんていわんじゃろ。なんちゅーわかりやすい自称進なんだか。
まぁ、でも自称進とは言っても授業の進度は十分早いしまぐれで受かった私にはとてもじゃないけどついていけん。努力はしとるがどうにもならん。
青春。私もしてみたいなーなんてちょっと贅沢じゃろか。なーんもできとらん私には夢のまた夢やろね。って最近まで思うてたんじゃけど、中学ん時の同級生の佐藤って奴に告白されたんよねー。ほんまに夢見とるみたいじゃ。
『返事待っとるから。出来れば直接聞きたい』
既読無視。私も随分性格悪いもんじゃ。返信打とうとしても体は動かんし出来れば会いとーない。中途半端な私がもっと佐藤を傷付けることなんて目に見えとるから。
アンタのことは嫌いじゃないよ。ただな、ただ……
また続かん言葉を頭ん中で考えとる。青春なんていうんが楽しいだけじゃなくてお互いにこんなに苦しいなんて分からんかった。佐藤ん奴が堂々としとったあんなん、初めて見たんに。
このままじゃダメなんかな、お互い。
また私の性格の悪さが滲み出た音がした。
題材「青く、深く」
カランカラン。どこかでラムネのビー玉が鳴り響いていた。その音が次第に近づいてくる…涼し気なその音が。
ー次の停車駅は…前。お出口は左側です。お降りの際はー
どのくらい電車に乗っただろう。私の最寄りまではまだ気が遠くなる程乗っていなければいけないというのに。田舎の電車。帰宅ラッシュとはズレた時間帯には乗客は少ない。通り過ぎる景色は田んぼばかりで見飽きた稲は青々として風になびいていた。ボーッと眺めているとまた瞼が重くなって眠りにつく。隣に寄りかかれるような人は乗っていない事に少し寂しさと切なさを感じた。
カランカラン。その音がラムネのビー玉だって一瞬でわかった。どの音とも違うそのはっきりした音が心地良い。
目を覚ますと男子の制服が目に入った。少しだけ目線を上げるとそこには中学の頃の同級生がいた。
「佐藤。ごめん、寄りかかってた」
「いいよ、別に。俺がやったんだし。まだ眠いなら寝てろよ」
「あ、ラムネ」
「飲み物切らしたから買ったんだよ」
「ひと口ちょーだい」
「俺の飲みかけだから嫌だろ。我慢してろ」
「佐藤そんな事気にするような奴じゃなかったんに…成長したねぇ。彼女でもできたんか?」
「うっせ…いねーよ」
「じゃ、もらうー」
ひと口。冷たい液体が喉を通り過ぎた。
最寄り駅に着いて電車から降りるとぬるくなった風を浴びながら並んで歩いた。
「彼女はいねーけど、好きな奴ならずっと変わんねぇよ」
「へぇ。青春だねー。その子、一途で男前な佐藤に好かれて幸せじゃろね」
次第に歩くスピードが遅くなって佐藤はそこに立ち止まった。
「どしたんね?足でもつったんか?」
ピシッと私を指さして迷いのない目が私を捉えた。
「俺が好きだったのはずっとお前だったんよ。だから無理にとは言わんけどお前の彼氏になりたい」
部活で焼けた肌。夕日に照らされたからか滲んでる汗と奥まで透き通った瞳。こんなんやったっけな、中学ん時。私が知ってるんはもっと小柄でただ大人しい奴だったんに。
カランと音を立てたラムネの瓶が鼓動を加速させてるように感じた。今年の夏は寂しさなんか忘れられる、そんな気がした。
題材「夏の気配」
※同性愛が苦手な方はスクロールして頂いて構いません。
もしも君が女の子じゃなかったら、私は君の事を好きだと堂々と言えていたのだろうか。
この辺りでは相当偏差値が高いと言われている高校に入学したのはいいけれど、全くもってついていける気がしなかった。どいつもこいつも頭の良さしか重視しない奴らが集まった学校なのだから。まぐれで合格した私は場違いなんだ。つまらない。授業を受けて挨拶をしてご飯を食べてまた授業。
そんな時だっただろうか。私が君に出会ったのは。髪が短くて丸眼鏡の似合う可愛らしい子だった。運動部らしき君が壮行式で着ていた正装は女の子とは思えないカッコ良さと強さを放っていた。すぐに本能が反応した。あの時感じた衝撃は嘘じゃない。名前も知らない君を好きになってしまったんだ。
それから少し経ち、君のクラスや名前、勉強やスポーツの事についてたくさんの情報が入ってきた。完璧だった君が私は少しだけ羨ましかった。それに比べたら、私は到底君の隣に立てる存在じゃなかった。
それからというもの、君を見かけては負の感情と抑えきれない好意とが混ざりあって口も開けない重苦しい状態が続いた。その度に君は決まって誰かと楽しそうに談笑して愛嬌のある笑顔を見せていた。
ずっと考えていた。もしも君が…もしも君が…って。でもそのもしもが叶うことはない。無謀だ。いっそ私が変われば君は振り向いてくれるんじゃないのかとも思った。それでもきっと関係は変わらないんだ。本来出会うはずのなかった君を私が見つけてしまっただけだから。
題材「もしも君が」
夢見る少女のように物語の主人公になれたなら自分は何か変われただろうか。今置かれている状況や容姿、性格が一変して、きっとハッピーエンドに終わるようなシナリオを辿っていくことになるだろう。
今の頭から指先までを含めた変わらない自分のまま主人公になるなんて事はありえないのだから。
スポットライトの当たらない隅で光を浴びる他人を横目でみる程度の人生はみんなが思うよりも平和だ。つまらないと他人の人生を羨む者もいるが、自分はそんな事を考えた事もなかった。目立たない立場にいて自己主張もはっきりとしない。周りが赤だといえばアカで右といえばミギと答える。価値とかエゴイズムだとか訳の分からないモノは存在しない。
平和。
その一言だけで、十分な人生だ。幸せなんだ。自分は特別でも可哀想でもない人間だから。
ただ…ただ、自分にもしスポットライトの当たるような人生が回ってきた時があるとするならば、その時はきっと涙を流してしまうだろう。
題材「夢見る少女のように」