いつも通りの週末。ピンポーンとインターホンが鳴ったので出ていくと従姉妹がまっさきに飛び込んできた。
「ねぇね!遊びに来たよ!」
「ふぇ?……あらー、ちーちゃんいらっしゃい」
あとからフラフラと伯母さんと伯父さんが歩いてきて、事情を聞くには育児に疲れたので今週末は面倒を見て欲しいとの事だった。そんな事なら任せろと、私は従姉妹のちーちゃんを連れて街へ出てきた次第である。
「ねぇね、ねぇね!あっち見たい!あっち!」
「よし、行くぞー!」
「ねぇね!そっちの方に可愛いキラキラしたやつある!行きたいー!」
「任せて、一緒に行こ行こー!」
とまぁ従姉妹に散々付き合ったが、午前中だけでもだいぶ体力の限界を感じた。現役高校生でもこんなに疲弊しちゃうか…恐るべし、子供よ。
「ねぇね!あっちあっちー」
「あ、こら、ちーちゃん。走っちゃダメー!」
従姉妹がつまづいて転びそうになった時、誰かがひょいと拾い上げた。
「あんまり姉ちゃん困らせんなよなー嬢ちゃん」
「はーい!おじさんありがと!」
「すみません、助かりました…って佐藤先生!」
「よぉ。見かけたから絡みに来たけど、相当疲れてんな」
「従姉妹のお世話頼まれちゃったんで…まぁ」
「そっかそっか。じゃ、俺も手伝うわ」
「そんな、大丈夫ですよ!迷惑かけちゃうので」
「ちーちゃんって言うんだったっけ?お腹、空いてるか?おじさんとご飯食べに行くか?」
「ちーちゃんお腹すいた!行くー!」
「あ、ちょっと…!」
そうして佐藤先生に助けて貰って近くのファミレスでなんとかお昼を迎えた。
「今ちーちゃんのジュース持ってくるからおじさんとお話して待っててね」
そうして、私は席を外した。
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「おじさん、1つ聞いてもいーい?」
「なんでもどうぞー?」
「おじさん、ねぇねの事好きなのー?」
「ゴホッゴホッ………どうして?」
「だってだって、おじさんのねぇねを見る目とかねぇねにする事とかパパがママにするのとそっくり!」
「……そっか…」
「ねぇねもね、おじさんといる時すごく幸せそうにしてるの!ママがパパにするのとそっくり!」
「……。ちーちゃん、おじさんとの秘密、守れるか?絶対誰にも言っちゃダメだぞ?」
「ちーちゃんは守れるよ、大丈夫大丈夫!」
「実はな、おじさんはねぇねの未来の旦那さんなんだ(小声)」
「えー!ねぇねはおじさんのお嫁さんになるのー!?(小声)」
「そうだ。だからな、ちーちゃんがもう少し大きくなったら綺麗なドレス着たねぇねを見せてやるからそれまではおじさんとの秘密だからな(小声)」
「わかった!ちーちゃん楽しみにしてる!」
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「お待たせー。ちーちゃんはりんごジュースね。先生は烏龍茶好きでしたよね?どっちがいいですか?」
「氷ある方で。ありがと」
「わぁ、ねぇねとおじさん本当に結婚してるみたい」
慌てて従姉妹は口を塞いで、私は衝撃的な台詞に驚いた。
「そうだろー?俺たちはそんぐらい仲がいいんだ」
そう言って先生は私の手を握った。突然の事で驚きはしたけど、目くばせに応じて私も手を握り返した。
「そうよ、仲良しだからね。ちーちゃんもおじさんと仲良くなれて良かったね」
なんとなくその場の空気を変えることはできたけど、私はドキドキしたままだった。
家に帰って従姉妹と遊んでいると、その日のうちに伯母さんと伯父さんが元気を取り戻したらしく引取りにやってきた。平和に戻った家で疲れが滲み出たものの、あっという間に過ぎ去った先生との時間が少し恋しくもあった。
「結婚かー…子供ができたらあんな感じなのかなー」
そうぽつりと呟いて、私は深い深い眠りについた。
※本日の題材はフリーで書かせて頂きました。
息ってこんなに白かったんだろうな。
ため息を吐き出したつもりが、こんなに綺麗に濁っちまうと澄んだ空間を汚したみたいで嫌になる。教師とかいう厄介な仕事は早朝出勤残業続きでブラック企業と同じ扱い。そんでも、ガキ達の顔を見りゃなんでもチャラになるんだもんな。いいよな、青春って。
なんだかんだ考えてから車を出した。
ラジオから流れる今流行りの曲を切って、夜に似合うようなジャズ音楽を掛け流し。赤信号が静かに停止を促した。ハンドルに手をかけて最寄りのコンビニへ視線をうつす。そこには、見覚えのある青々とした教え子が一人立っていた。迷わずウインカーをあげて駐車場へ入る。彼女のもとへ一歩、また一歩近づいていく。
「あ、佐藤先生。こんばんは」
こちらに気付いてはにかんだ彼女。まだまだ未熟さが滲み出るような若々しい表情だった。
「女子高生がこんな夜遅くに出歩いてんじゃねぇよ。おっさんでも出たらどーすんだ」
「えぇー笑…そんな事あっても先生が助けに来てくれるじゃん」
「ふざけんなよ笑…あ、工藤コーヒー飲んでんのか?午後3時以降のカフェインは控えろ、成長期なんだから、って事で没収な」
「ひどーい…大人の味を楽しんでたのに笑」
「はいはい黙れ黙れー。体調は?大丈夫か」
「おかげさまで。昨日はありがとうございました。地震なんてもうへっちゃらです」
「強がんなよな、ガキんちょが。誰かに助けを求める事も学べよな」
「心配かけてすみませんー。じゃ、夜遅くなっちゃったんで帰りますね」
「待てよ。送ってく」
「先生がそういう生徒と一線超えるような言動はまずいんじゃないんですかー?笑」
「ま、その時はその時で責任とってやるよ」
「…!?え、佐藤先生、私の旦那さんになってくれませんか?結婚して下さい」
「アホ。応えてやんねえよ、学生の分際で」
「じゃあ卒業するまで告白し続けますから」
「いいから車乗れよ」
そうして俺は工藤を乗せて車を出した。殺風景だった景色がいつの間にか色彩溢れる愛おしい世界に変わった。勝手に曲を変えて歌を口ずさむ工藤はまだまだガキで、でもいっちょまえに歌が上手くて。こんな時だけ早く過ぎ去る時間を少しだけ憎くも感じた。
「ありがとうございました」
「おー、早く寝ろよな」
そう言ったものの、工藤はこちらを見つめて訴えかける。
「ダメだ、キスはしてやんねぇよ」
いつもみたいに頭を掻き回すと、少ししょげたように視線を逸らした。
「あとで電話してやるから落ち込むなって」
「佐藤先生のそういうとこ、本当に大好きー」
優しく小さい体で俺を抱きしめると工藤はそのまま家に帰った。
星たちが近づく聖夜を知らせている。澄み切った夜空を眺めながら俺は工藤に電話をかけた。
題材「夜空を越えて」
あったかいのって人に触れた時と、その記憶を整理してる夢の中だって思ってる。
最近、大きな地震があって、気持ちの悪い揺れと不協和音な警報で目を覚ました。暗闇の中で何も見えない。それなのにモノが落ちていく荒々しい音だけが警報とリンクしていた。体が強ばって動かない。上手く息ができない。誰も助けてくれない。怖い…何もできない無力さだけが増してただひたすらに揺られているしか出来なかった。
揺れが止まっても体が冷えて震え出していることが自分でもわかった。息をしようと必死にもがいてもがいて……聞き覚えのある着信音が鳴った。誰かも確認せず電話に出る。
「工藤…大丈夫か!?」
「…ゲホッ…さと…ゴホッ…せん…せ…ゴホッゴホッ」
安心はしたけれど…どうしても息ができずにやっとの事で先生の名前を呼んだ。
「今家か?待ってろ、今から行くから」
なんで先生は私の連絡先、知ってるんだっけ?なんで先生は私の家、知ってるんだっけ?鍵だって…あぁ、そっか。私が佐藤先生の事が好きすぎて先生に連絡先も合鍵も全部押し付けちゃったんだ。私が子供っぽい事ばっかするから先生きっと怒ってるかなー。
どのくらい経っただろう。私は息ができないまま気絶でもかましてしまったらしい。部屋の明るさに目を覚まして、佐藤先生が私の手を握ってくれていた。
「起きたか。怪我してないか?どっか悪いとことかないか?」
先生を見るなり私は涙が溢れて止まらなかった。先生に泣きついて治まるまでずっとずっと赤ちゃんみたいにあやしてもらった。
「泣き終わったかー俺びしょ濡れなんだけど…っておい!顔を埋めるな、冷てぇよ」
「今ブサイクなんで顔見ないで下さい…」
「わーったよ…さっき、なんかあったか」
「……パニックになって、息ができなくなってそのまま気失っちゃった」
「こっち向いてみ…俺は工藤が辛い時は先生として守るから…無理すんな」
「先生…グスッやっぱり結婚してくれませんか?」
「んなブサイクな泣きっ面で言われても応えられねぇよ」
「ほっへ、ひっはるお、やえてくあさい…せんせー!」
「案外おもろい顔しやがって」
「先生酷い!でもそういう所も大好きです」
沈黙が流れて先生は私のことを見つめてる。佐藤先生の目に私が映ってるのがどこか安心させてくれた。
「先生…キスは……ダメですか」
「アホか。教師と生徒の一線…工藤ん家来てる時点で超えてんな笑」
「そうですね、私も欲張りすぎました…反省しま…」
温かくて優しくて。先生が短く唇を重ねた。
「これで満足か…ほら、部屋も片付けておいてやったから俺帰るわ…明日、ちゃんと学校来いよ」
離れようとする先生に私はまた小さなワガママを言った。
先生がゆっくり振り返って今度はゆっくり、もっと優しく口づけをした。
「ありがとね、しゅんすけ」
「ばーか、俺の名前呼ぶな。明日からちゃんと先生付けろよ」
そうして私はまた深い眠りについた。先生が握ってくれた手の温もりと触れた唇のぬくもりを…もう一度だけ繰り返して。
題材「ぬくもりの記憶」
秘密の標本ねぇ…悪く言えば、そうね、誰にも本気になれないってやつかしら。良くいえば恋多き乙女。まぁ、アタシは乙女っていう程純粋な子じゃないんだけど。
これは標本っていうより記録みたいなもの。アタシと恋に落ちた愚かな男たちとの思い出。少しだけあなた達に見せてあげるわ。
初恋はいつだったかしらねぇ。それこそアタシが純粋に恋とか愛とかをしていた最初で最後のストーリーだったのかも。中学生だなんてまだまだ青臭くて未熟な若造だけど、一途にボールを追っかけてる姿が妙に心に引っかかったのよ。あの頃のアタシも若かったわね…今ならそんな奴見向きもしてやらないのに。朝は誰よりも早く来て放課後は帰宅部よりも早かったわ。そんなにサッカーが好きだなんて思わないじゃない。気づいた頃にはもう汗と泥にまみれて必死に練習している彼に惚れていたわ。まぁ、実ることはなくて結局失恋したんだけどね。何が
「俺、今は部活に全力を注ぎたいんだ」
よ。あなた、アタシを振った後の週末、隣のクラスの彼女を連れて映画館へ行っていたじゃない。彼女がいるって素直に振ってくれれば良かったじゃない。まぁ、それもあってアタシが本気で好きになる事も無くなったんだろうけど。彼には感謝してるわ、もう二度と顔も合わせたくないけど。
2人目に紹介するのは観光で行った街でナンパしてきた彼。悪くないわね…なんて思いながら少し視線をやったの。だって彼はアタシと違ってとても誠実そうに見えたんだもの。彼がアタシを見たからすぐに目を逸らしてやったわ。案外真面目な人も大胆なものね。こちらに向かってきて連絡先だけ残して行ったわ。せっかくだから追加して何度かお会いしたの。真面目な会社員でとても若くて、外見もそう悪くない。俗に言う優良物件ね。彼との相性はそれなりに良かったんじゃないかしら。それでも会う度に彼はアタシとの未来を本気で考え始めた。手放したアタシも相当バカよ。あんなに素敵な方だったんですもの。お付き合いだとか結婚だとか、恋愛はそういう敷かれたレールに沿って歩まなきゃいけないもの?アタシは違うわ。好きなものを好きな時に好きなだけ追いかけるの。興味がなくなったらそれで終わりよ。強いて言うなら、そうね。やっぱり彼とは恋愛においての価値観が合わなかったのかも。それと、アタシと住む世界が違いすぎたのよ。アタシと関係を持てば傷付くのは目に見えてる。それにまだまだ彼も若いわ。アタシが将来を奪ったって恨まれるだけよ。彼にはたった一言だけメッセージを残して別れを告げたわ。メッセージはアタシと彼だけの秘密。
3人目の彼はバーで出会った落ち着きのあるお方。アタシはその時お気に入りだったバーでいつもに増して甘ったるいカクテルを少しずつ堪能していたわ。ちょうど1人振った後だったから気分もそれなりに乗ってなかったのだけど。店のドアがベルを鳴らして彼を招き入れた。店を見渡して、迷いなくアタシの隣に座ったわ。
「こんばんは。今夜は君と一杯楽しみたい気分だ」
口説き文句ね。アタシ、彼を見てわかったもの。ちゃんと消しきれてないタバコの匂いに少し混じった女の香水。アタシと同類の気配が鼻をくすぐった。
「えぇ、もちろんよ。アタシも丁度退屈してたから」
その日は店で呑んで。あぁ、もちろん、彼には抱かせなかったわよ。アタシもそんなに安い女じゃないしね。彼に「待て」を教えてやったのよ。上手くいかないのが面白くなかったんでしょうね。彼はアタシに執着し始めた。今まで数え切れない女を相手にしてきただろうけどアタシみたいに落ちない人は初めてだったみたいね。何度も「お預け」を食らわせてやったわ。本当に最低でクズでクソ野郎で汚れきっていたのよ、アタシも彼も。新しい人が出来たから最後だけは彼に抱かれてやったわ。彼との夜は確かに最高だった。でも予想外だったわ、彼がアタシに本気になっていただなんて。それでも振ってやった、今まであなたに振り回された女の子達の仇をとって。ヤニと酒と女にまみれたあなたにはアタシがいなきゃきっと気付けなかった感情よね。さよなら。
ほんの少しだけのアタシのストーリー。楽しんでもらえた?そうね、でもアタシみたいになってはダメよ。この手で選んだ穢れた道は本当につらいものだから。あなた達にはきっと素敵なパートナーが見つかるわ。大丈夫よ。ありのままの姿で真正面から向き合ってみなさい。アタシはもう少しだけ本気になれない自分を許してあげようと思うの。そう、これからの人生もアタシ達お互いに頑張りましょうね。それじゃ、また逢う日まで、アタシの可愛いパピー達。
題材「秘密の標本」
6:30に目覚ましかけてて…そんであと10分ってなって…そんでそんで……
「はよ起きんかい!」
「しょーちん……あと5分」
「もう7:00やぞ……このまま寝たら半日無駄になる事わかってんのか?」
「んんぅ……じゃあ、しょーちん起こしてよ…///」
「はいはい。姫抱っこでええ?ほら、首に腕回して」
「んふ///」
「って俺、お前の彼氏ちゃうわ!!!」
「ほな、しょーちん彼ピ、洗面所までレッツゴー!」
7:00過ぎにご飯を食べて幼馴染のしょーちんが作るコーヒーをちまちま飲んだ。
「あー、しょーちん、ソファひとりで占領してるー」
「言っとくけど、動かねぇぞ?その辺に座っとけ」
「んーそうなったら、しょーちんにダーイブッ!」
「うわっ……重いわ、アホ」
「うわ、しょーちんの腹硬ぇ…すっげぇ、めっちゃ割れてる」
「おい、あんま触んな。これ立派な性犯罪だから」
「 俺っち、しょーちんにしかこゆことしないと誓います!これで性犯罪にはならんやろ」
「てめぇが一方的に誓ってどーすんだよ!成立してないから無効な」
「はぁー?しょーちんに拒否権ないから。黙って俺っちに従って」
「セリフだけ聞けば腹黒ドS俺様系男子だな笑…うおっ」
「俺っちから逃げられると思ってる?考えが甘いんだy……って、うわぁっ」
「力で俺に勝とうなんて100年早いわ!お前これで本当に女と付き合えんのか?」
「あーあ、もう良いんだよ、そーゆーのは。俺っちにはしょーちんがいるししょーちんには俺っちがいる。っていうかしょーちんだって今彼女いないだろ」
「それは……まぁ」
「なんでだろうな。女ってホント見る目ないよな。俺っちはしょーちんの事好きだけどな」
「お前に好かれてどーすんだよ……///」
「それな〜…え?ちょっ、え、何?しょーちん照れてんの?え、待ってマジ?やば、俺っちと付き合っちゃう???」
「っ!っるーせよ、こっち見んなよ」
「いや、マジで、俺っちと付き合お。俺っち彼氏?それとも彼女?」
「それ以上言うなら力づくでブチ○す」
「わかったってば。その目、マジじゃん、許して笑」
楽しい。毎日がこうやって自分たちの時間が続けばいい。どこまでだってついていってやるよ。だって俺らは幼馴染なんだから。
題材「どこまでも」