息ってこんなに白かったんだろうな。
ため息を吐き出したつもりが、こんなに綺麗に濁っちまうと澄んだ空間を汚したみたいで嫌になる。教師とかいう厄介な仕事は早朝出勤残業続きでブラック企業と同じ扱い。そんでも、ガキ達の顔を見りゃなんでもチャラになるんだもんな。いいよな、青春って。
なんだかんだ考えてから車を出した。
ラジオから流れる今流行りの曲を切って、夜に似合うようなジャズ音楽を掛け流し。赤信号が静かに停止を促した。ハンドルに手をかけて最寄りのコンビニへ視線をうつす。そこには、見覚えのある青々とした教え子が一人立っていた。迷わずウインカーをあげて駐車場へ入る。彼女のもとへ一歩、また一歩近づいていく。
「あ、佐藤先生。こんばんは」
こちらに気付いてはにかんだ彼女。まだまだ未熟さが滲み出るような若々しい表情だった。
「女子高生がこんな夜遅くに出歩いてんじゃねぇよ。おっさんでも出たらどーすんだ」
「えぇー笑…そんな事あっても先生が助けに来てくれるじゃん」
「ふざけんなよ笑…あ、工藤コーヒー飲んでんのか?午後3時以降のカフェインは控えろ、成長期なんだから、って事で没収な」
「ひどーい…大人の味を楽しんでたのに笑」
「はいはい黙れ黙れー。体調は?大丈夫か」
「おかげさまで。昨日はありがとうございました。地震なんてもうへっちゃらです」
「強がんなよな、ガキんちょが。誰かに助けを求める事も学べよな」
「心配かけてすみませんー。じゃ、夜遅くなっちゃったんで帰りますね」
「待てよ。送ってく」
「先生がそういう生徒と一線超えるような言動はまずいんじゃないんですかー?笑」
「ま、その時はその時で責任とってやるよ」
「…!?え、佐藤先生、私の旦那さんになってくれませんか?結婚して下さい」
「アホ。応えてやんねえよ、学生の分際で」
「じゃあ卒業するまで告白し続けますから」
「いいから車乗れよ」
そうして俺は工藤を乗せて車を出した。殺風景だった景色がいつの間にか色彩溢れる愛おしい世界に変わった。勝手に曲を変えて歌を口ずさむ工藤はまだまだガキで、でもいっちょまえに歌が上手くて。こんな時だけ早く過ぎ去る時間を少しだけ憎くも感じた。
「ありがとうございました」
「おー、早く寝ろよな」
そう言ったものの、工藤はこちらを見つめて訴えかける。
「ダメだ、キスはしてやんねぇよ」
いつもみたいに頭を掻き回すと、少ししょげたように視線を逸らした。
「あとで電話してやるから落ち込むなって」
「佐藤先生のそういうとこ、本当に大好きー」
優しく小さい体で俺を抱きしめると工藤はそのまま家に帰った。
星たちが近づく聖夜を知らせている。澄み切った夜空を眺めながら俺は工藤に電話をかけた。
題材「夜空を越えて」
12/11/2025, 11:51:10 AM