あったかいのって人に触れた時と、その記憶を整理してる夢の中だって思ってる。
最近、大きな地震があって、気持ちの悪い揺れと不協和音な警報で目を覚ました。暗闇の中で何も見えない。それなのにモノが落ちていく荒々しい音だけが警報とリンクしていた。体が強ばって動かない。上手く息ができない。誰も助けてくれない。怖い…何もできない無力さだけが増してただひたすらに揺られているしか出来なかった。
揺れが止まっても体が冷えて震え出していることが自分でもわかった。息をしようと必死にもがいてもがいて……聞き覚えのある着信音が鳴った。誰かも確認せず電話に出る。
「工藤…大丈夫か!?」
「…ゲホッ…さと…ゴホッ…せん…せ…ゴホッゴホッ」
安心はしたけれど…どうしても息ができずにやっとの事で先生の名前を呼んだ。
「今家か?待ってろ、今から行くから」
なんで先生は私の連絡先、知ってるんだっけ?なんで先生は私の家、知ってるんだっけ?鍵だって…あぁ、そっか。私が佐藤先生の事が好きすぎて先生に連絡先も合鍵も全部押し付けちゃったんだ。私が子供っぽい事ばっかするから先生きっと怒ってるかなー。
どのくらい経っただろう。私は息ができないまま気絶でもかましてしまったらしい。部屋の明るさに目を覚まして、佐藤先生が私の手を握ってくれていた。
「起きたか。怪我してないか?どっか悪いとことかないか?」
先生を見るなり私は涙が溢れて止まらなかった。先生に泣きついて治まるまでずっとずっと赤ちゃんみたいにあやしてもらった。
「泣き終わったかー俺びしょ濡れなんだけど…っておい!顔を埋めるな、冷てぇよ」
「今ブサイクなんで顔見ないで下さい…」
「わーったよ…さっき、なんかあったか」
「……パニックになって、息ができなくなってそのまま気失っちゃった」
「こっち向いてみ…俺は工藤が辛い時は先生として守るから…無理すんな」
「先生…グスッやっぱり結婚してくれませんか?」
「んなブサイクな泣きっ面で言われても応えられねぇよ」
「ほっへ、ひっはるお、やえてくあさい…せんせー!」
「案外おもろい顔しやがって」
「先生酷い!でもそういう所も大好きです」
沈黙が流れて先生は私のことを見つめてる。佐藤先生の目に私が映ってるのがどこか安心させてくれた。
「先生…キスは……ダメですか」
「アホか。教師と生徒の一線…工藤ん家来てる時点で超えてんな笑」
「そうですね、私も欲張りすぎました…反省しま…」
温かくて優しくて。先生が短く唇を重ねた。
「これで満足か…ほら、部屋も片付けておいてやったから俺帰るわ…明日、ちゃんと学校来いよ」
離れようとする先生に私はまた小さなワガママを言った。
先生がゆっくり振り返って今度はゆっくり、もっと優しく口づけをした。
「ありがとね、しゅんすけ」
「ばーか、俺の名前呼ぶな。明日からちゃんと先生付けろよ」
そうして私はまた深い眠りについた。先生が握ってくれた手の温もりと触れた唇のぬくもりを…もう一度だけ繰り返して。
題材「ぬくもりの記憶」
12/10/2025, 12:04:58 PM