「この満天の星空を君に捧げる」
僕には、4人の親友がいる。いや、いたんだ。
今は3人になってしまった。
その内の一人のお話
田舎の高校を卒業して、都会の学校へ進学した僕は、その下宿先で彼と出会った。彼とはギターで仲良くなり、下宿の中で良くみんなに聞かせたものだ。
当時、尾崎豊を崇拝していた私は、「15の夜」が大好きで、洗脳する如く、当然、毎日彼に弾いて聞かせていた。
🎵盗んだバイクで走り出す 行き先もわからぬまま🎵
洗脳の結果か?彼はバイクを買った。
僕もバイクも買った。
夜になると、次の日の事も考えず、ただバイクを走らせていた。
夜の街、峠、海、彼と並んで一緒に走る。ただそれだけが楽しかった。
彼と必ず、晴れた夜にやったことがある。
バイクで街を流して、いつもの自販機の前にバイクを並べ、そこの温かい缶コーヒーを買って、乾杯し、空を見上げる事だ。
互いに違う場所で生まれ育ち、今、この場所で同じ空を見る。
何も語らなくてもいい。ただ共にいるだけで。
彼が、この世を去った今、僕の、何かがずーと欠けている。
もう一度だけ、あの夜に戻りたい。
不思議と今現在、あの時の街に僕は住んでいる。
あの時の自販機は今はもうない。
「僕は、今日も、ひとりきりだな」
ブラックコーヒー片手に、僕は空を見上げた
「この満天の星空を君に捧げる」
背中と背中で語った、あの時を懐かしみながら、
今日という日が、また、ひとつ、終わるのだった。
「もうそろそろ始まるな」
僕は、仕事中、背中を伸ばしながら遠くを見つめていた。
僕がその遠くと言う存在を綺麗と感じる様になったのは、小学生高学年だ。当時、サッカー少年の私は、ボールとゴールしか見ていなかった。ひょんなことから、親と仲のよかった近所のお兄さんから、
「君なら大丈夫だ、さあ、綺麗なトンネル、見たくない?」
と、あるところに誘われた。
深い緑、真っ青な曇りの無い青、そして深い緑の中で赤が映えている。
「さあ、行こう!」
小学生で初デビューの登山だ。しかも人があまりいない、でも有名らしい本格的な登山だ。登山靴が用意出来なかった私は、スノートレーという、ハイカットの冬履で登っていた。1000mちょい、大丈夫!
「何が大丈夫だ!」
でも、山道は続く、そこに山が、山頂があるからだ。
普段よりかなり遅いペースらしい、私に合わせてくれていた。
1歩、また1歩、そして小さな1山を超えた所で
「さあ、紅葉のトンネルの始まりだよ!」
上を、空を、樹を、何を見ていたんだろう
とにかく、周りが綺麗で、どこを見れば良いかわからない。
深緑の山の中で、雲ひとつない青空、そして、赤が綺麗な紅葉。
小学生の私には
「綺麗だなー」しか、出てこない。でもわかる。街では、決して見られない素晴らしい風景、その中に僕はいるんだ。
紅葉のトンネルは、頂上直下まで続き、途中の岩場で写真を撮ってもらった。
「もうそろそろ始まるな」
僕は仕事中、背中を伸ばしながら遠くの山を眺めていた。
赤、緑、青の風景を楽しみにしながら
あの時の写真は今も机の上に飾っている。
セピアに、紅葉しながら
「僕はいつまでフィルターが必要なのだろう」
昔、父からカメラをもらった
オリンパスのOM-10
何処へ行くにも一緒にいたものだ。いわゆる相棒。
自転車の旅、キャンプ、釣り、登山。
そして、僕は、その時しか見られない最高の1枚を求めて、レンズフィルターを購入した。
フィルターは、景色を輝かせ、彩りを素晴らしくする、感動を生む最高のツールだ。
仕事が忙しくなった頃、相棒が逝った。
同時に今度は、自分にフィルターをつけた。
希望と言うフィルターだ。
頑張ればなにかが見える
頑張ればなにかが開ける
でも、いつしか違うフィルターをつけていた。
安定、安寧、静観 ネガティブフィルターだ。
「僕はいつまでフィルターが必要なのだろう」
フィルターを外して、違う人生を見てみよう
フィルターを外して、広い世界を見てみよう
そして、今度は
真っ青な、広い青空の様な、どこまでも地平線が見渡せる
そんなフィルターをつけて人生を見てみたい。
さあ、目をつぶって、明日を迎えよう。
きっと、明日は何かがかわるから。
「仲間になれなくて、 仲間になりたくて」
必死に人生をもがいていた
必死に人生をさがしていた
これでいいのか、ここじゃないのか
登山は、人生に例えられる。
歩く早さ、歩く距離、登り、下り、分岐点。そして、登山道ではない道。
僕の登山はソロ中心である。いわゆるボッチだ。
家族との経験もあったが、社会人になってからは、ボッチだ。
だから、仲間と山に行くのが羨ましい。一緒に景色に感動し、頂上での食事、食後のコーヒーと、もしかしたら頂上でウイスキーと洒落込めるかも。
だから、友が欲しかった。
山友が、出来ない理由は、簡単である。
単に誘えないからだ。
仕事に悪者になってもらうのは申し訳ないが、朝早く、夜遅く。休日の予定も立てられない。そんな仕事。
そんな僕に、予定を合わせる人も、合わせられる人もいない。
頑張って、山友ができた時があったが、やっぱり、予定が合わない。
一生に登ってくれた人にこう言われた。
「山仲間だね、また行こうね!」
僕の心の中に、いつもの言葉が浮かびあがった。
たぶん、仲間になれないだろう
必死に人生をもがいていた
必死に人生をさがしていた
これでいいのか、ここじゃないのか
いつか、人生を見つけられる様に
いつか、人生を変えられる様に
いつか、仲間と一緒にいられるように
僕は今日もひとりで登っている。
雨と君
「君が好きだ」
望む事が出来ない、100%叶う事の無い、そんな恋。
僕の数少ない趣味で、奇跡的に出会った恋。いや、恋と呼べるかもわからない。2000メートルの山の上での出来事は、全ての事象を感動に結びつける。
お互い景色に感動し、咲き乱れる高山植物に魅了され、そんな君に僕も魅了された。
一目惚れ?どうなのだろう。決しておしゃれな姿ではない。君は山メーカーの物を纏ってはいなかっただろうし、どこかで転んだんだろうと思う様な泥だらけの登山靴。ぐしゃぐしゃな髪で、日焼け止めの流れた跡もあった。
最初は知らない者同士だったけど、君の「大丈夫?」から始まった僕の恋。
思えば、雨だから君と出会えたのだろう。
思えば、雨だから君を好きになったのだろう。
雨露の滴る君が綺麗だ
泥だらけの道を笑顔で話す君が素敵だ
突然の雨、あの時、僕が転んでいなければ、君と話す機会も無かった。下山までの君との時間は一生の宝物。
でも宝物は出してはいけない。決して絡む事が望めないお互いの人生。
雨と君
雨降りの山は、いつも思い出すだろう
「君が好きだ」って