ひろ

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「もうそろそろ始まるな」

僕は、仕事中、背中を伸ばしながら遠くを見つめていた。

僕がその遠くと言う存在を綺麗と感じる様になったのは、小学生高学年だ。当時、サッカー少年の私は、ボールとゴールしか見ていなかった。ひょんなことから、親と仲のよかった近所のお兄さんから、
「君なら大丈夫だ、さあ、綺麗なトンネル、見たくない?」
と、あるところに誘われた。

深い緑、真っ青な曇りの無い青、そして深い緑の中で赤が映えている。

「さあ、行こう!」
小学生で初デビューの登山だ。しかも人があまりいない、でも有名らしい本格的な登山だ。登山靴が用意出来なかった私は、スノートレーという、ハイカットの冬履で登っていた。1000mちょい、大丈夫!
「何が大丈夫だ!」
でも、山道は続く、そこに山が、山頂があるからだ。
普段よりかなり遅いペースらしい、私に合わせてくれていた。

1歩、また1歩、そして小さな1山を超えた所で

「さあ、紅葉のトンネルの始まりだよ!」

上を、空を、樹を、何を見ていたんだろう
とにかく、周りが綺麗で、どこを見れば良いかわからない。
深緑の山の中で、雲ひとつない青空、そして、赤が綺麗な紅葉。
小学生の私には
「綺麗だなー」しか、出てこない。でもわかる。街では、決して見られない素晴らしい風景、その中に僕はいるんだ。

紅葉のトンネルは、頂上直下まで続き、途中の岩場で写真を撮ってもらった。

「もうそろそろ始まるな」

僕は仕事中、背中を伸ばしながら遠くの山を眺めていた。

赤、緑、青の風景を楽しみにしながら


あの時の写真は今も机の上に飾っている。
セピアに、紅葉しながら

9/10/2025, 9:14:58 PM