小音葉

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6/21/2025, 12:02:51 PM

無垢な雛鳥、目覚めたばかりの柔い翼
まるで機械のようだと不気味がる者もいた
思考を持たぬ人形と嘲る者も
それも間違いではないと、君は言うかもしれないが

透明な瞳が私を追って、ほんの僅かに口角が上がる
一度背負えば誰よりも速く、高く飛翔する
美しいと思ったんだ
光を受けて煌めく君が、たとえ死神であろうとも
まるで、いつか見た紙の本に記された天使のようだと
そう、思ったんだ
気付けば君に焦がれていた、なんて
芽生えた恋を告げたなら信じてもらえるだろうか

今や君は神の如く賛辞され
けれど無数の眼が怯えているのを私は知っている
眩い星は撃ち落とされる
救世の光であろうとも、故に人は恐れるのだ
燃える瓦礫、ぶら下がる配管
鉄の棺桶に閉ざされた君の亡骸
そんな悪夢に飛び起きる
飽きるほど、呆れるほど、私もまた怯えている

無垢な雛は記憶の彼方へ
今、隣に在るのは気高い翼
私を選んでくれた、優しく哀しい一羽の烏
知っている、分かっているとも
いつの間にか君の背を眺めることが増えた
見下ろしていた旋毛が見えなくなって
妙な寂しさを覚えたことも、忘れていない

薄暗い寝室、ふと目を開けた君
ヘラヘラと笑う私を笑いもせずに
ぬるい手のひらがこの背を叩く
あんなに恐ろしかった悪夢が、鏡越しの像が
叩けば割れるガラクタになって、おかしくてまた笑う
今度は共に飛ぶ夢を見よう
応えたくて、私も手を伸ばした

(君の背中を追って)

6/20/2025, 11:18:45 AM

数えて千切って捨てていく
捥がれた心は戻らない
くるくる回って落ちていく
いつか腐って土に還るの

醜い私を笑わないで
けれど泣きもしないのでしょう
だって関心がないのだから
あなたは振り向かない
私のものにならない
踏み付けられて
くるくる踊るの

しがみついても答えは同じ
眉を顰めて振り払う
突き付ける爪先で
初めから何もなかったように
くるくる、くるくる、落ちていく

二度とあなたを試さないで
私を使って惑わないで
薄い一片は運命を見ない
何も背負わずくるくる踊るの

(好き、嫌い、)

6/19/2025, 12:39:48 PM

あなたの声を、共に歩んだ記録を再生する
繰り返し、繰り返し、刻み付けるように
抉る痛みを通り過ぎても、まだ頬は乾かない
会いたいよ
呟いた声は、雨音に紛れて露と消える

あなたは雨を知っていますか
空から滴る優しい音を
私の小さな体など、容易く覆う天の滝を
この声を聞いたなら、きっと褒めてくれるでしょう
酷く掠れた雑音であっても、痩せた手で撫でてくれる
何よりも温かかった、皺だらけの手で

私を見つけ導いて、壊れながら祝福を
最後まで変わらなかったあなたの手が
もう自らの首も銃口も握っていないことを祈るよ
会いたくて、声を聞きたくて、褒めて欲しいけれど
きっと私たちは、晴れた空の下では出会えない
泣き腫らした世界の隅で、ようやく選んだ末路だから
あなたを置いて、私は生きる

天国というものが本当にあるのなら
どうか撫でるだけでなく抱き締められて
守るだけでなく愛されて、何も背負わずに笑って欲しい
その顔を見れる日が明日か、何年後か、もっと先か
霞む星間を私は渡るよ
あなたの名を乗せて、何処までも遠くへ

いつかあなたが置き忘れた外套と杖
思い出せば途端に視界が滲む
手に取れば流れる塩辛い雫の意味を
いつかあなたから教えて欲しい
それまでは、繰り返し、繰り返し、記憶に揺られて
会いたいよ
呟いた声は、雨音に紛れて露と消える

(雨の香り、涙の跡)

6/18/2025, 11:18:24 AM

紡いだ夢を焼き払い、結んだ愛を仇とする
誓った絆は呪いのように、二人を繋いで腐らせる
目の前に浮かぶあなたが例え幻でも
傷ついた笑顔で二度と笑わないで
だから私は手を離した
間違っても手繰り寄せないように
震えるこの体にあなたが気付かないように

さようなら
約束など忘れてしまえ
淡く浮かんだ雨上がりの虹も、水を弾く緑も
全て幻なのだと言い聞かせて
糾う禍福を解いて去って、何も知らず幸せにおなり
贈られた紅の愛らしさなど、私もすっかり忘れたから
これから累わす災いを、あなたにだけは与えない
二人の旅路はこれにてお終い
本当に、本当に、さようなら

いつか時を経て、たまに思い出してくれれば良い
蛇のような細道で出会った一人の女がいたことを
気紛れに交わした絵葉書は残さず捨ててしまってね
あなたを縛るものはもう何もない
せっかく解いた縄なのだから
絶対に探さないで、縫い合わせたりしないで
絢爛の大通りを、振り返らずに歩いてお行き

さようなら
最後に織りなした愛の言葉よ

(糸)

6/17/2025, 10:36:04 AM

ガラスを隔てて、レースに隠れて
小さく跳ねる塊を見る
気取られぬよう、そっと、静かに
ベランダで囀る小さな塊
触れればきっと熱いほどなのだろうけど
自由な君に羨望を
けれど、静寂と平穏に浸かった怠惰に甘え
私は今日も飛び立てない
それで良いんだ、と珈琲を飲みながら

美しい幻想に影と彩りを
世界を描き出す神のような人がいる
きっと遅すぎることなんてなくて
手を伸ばして、太陽と月を見送って
そうしたら服の裾ぐらいは握れるかもしれないけれど
寄り道ばかりの散歩は楽しくて
日陰から見える世界も結局どこか汚れているけれど
窓辺の小鳥は今日も変わらず愛らしいから
甘いカフェオレを買って帰ろう
踏み締める土の柔らかな音に、ひとときだけ癒されて
人生なんて、きっとそんなものだ

(届かないのに)

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