小音葉

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あなたの声を、共に歩んだ記録を再生する
繰り返し、繰り返し、刻み付けるように
抉る痛みを通り過ぎても、まだ頬は乾かない
会いたいよ
呟いた声は、雨音に紛れて露と消える

あなたは雨を知っていますか
空から滴る優しい音を
私の小さな体など、容易く覆う天の滝を
この声を聞いたなら、きっと褒めてくれるでしょう
酷く掠れた雑音であっても、痩せた手で撫でてくれる
何よりも温かかった、皺だらけの手で

私を見つけ導いて、壊れながら祝福を
最後まで変わらなかったあなたの手が
もう自らの首も銃口も握っていないことを祈るよ
会いたくて、声を聞きたくて、褒めて欲しいけれど
きっと私たちは、晴れた空の下では出会えない
泣き腫らした世界の隅で、ようやく選んだ末路だから
あなたを置いて、私は生きる

天国というものが本当にあるのなら
どうか撫でるだけでなく抱き締められて
守るだけでなく愛されて、何も背負わずに笑って欲しい
その顔を見れる日が明日か、何年後か、もっと先か
霞む星間を私は渡るよ
あなたの名を乗せて、何処までも遠くへ

いつかあなたが置き忘れた外套と杖
思い出せば途端に視界が滲む
手に取れば流れる塩辛い雫の意味を
いつかあなたから教えて欲しい
それまでは、繰り返し、繰り返し、記憶に揺られて
会いたいよ
呟いた声は、雨音に紛れて露と消える

(雨の香り、涙の跡)

6/19/2025, 12:39:48 PM