擦り切れた記憶の彼方
置き去りにされた最初の宝
愛を失い、心を失い、傷を知覚出来ないまま
時を止めていた罪の結晶
それでも懸命に手を伸ばした君へ
私は何度でも伝えよう
失ったものを取り戻す
手にしたものを守り抜く
私たちは何も違わない
いつか骨になるなら、同じ色に燃え上がる
両手を繋いでまずは一歩
息を吸って、言葉を紡ぐ
歪んだ一筆だろうと、世界は作れる
ゼロから君に伝えよう
何もかも落としてしまった君に、私の全てを
例え君が英雄でも悪魔でも
繰り返し愛を与えたいんだ
君は時折ただ静かに
ひとえにひとえに涙を落として
塩辛い目覚めに揺れ惑う
皺だらけの温かい手を、もう形の無い思い出を
抉るように刻み付ける
忘れなくていい、これからもずっと愛していい
仮初の熱で構わないからと、祈るように手を握った
もはや廃れた名であろうと
あるいは、嘘であっても構わない
私は死ぬまで君を呼ぶよ
夜に閉ざされ、散り失せてしまいそうになったなら
柔らかな輪郭をなぞって
この声を辿って
私のそばへ帰ってきてほしい
なので私は伝えよう
昨日も今日も、きっと明日も
私は君を愛してると
(君の名前を呼んだ日)
火の粉が降る
気紛れに弾けて、流星のように
ぎらついた光を携えて、空の器に散り積もる
高く飛ばんと駆った翼は地に墜ちて
嘆き悲しむ残響すら掻き消す崩落の中
砕けてぶら下がる私の欠片を、君は泣いて拾い集めた
虚ろな瞳、乾いた髪、歪に曲がる指
燃え滓に紛れた灰すらも、君は黙って掬い上げた
作り立ての声帯から絞り出される痛哭に
その肩を叩く手も失った私は愛憎に酔い痴れて
孤独な背に、罰のように寄り添って
いつまでも、いつまでも
それは夜明け前の狂乱
ただ、覚醒に安堵する
災厄など訪れていない、終焉ならば免れた
灼けた空から届いた希望を忘れない
君はまだ安寧の沼を漂っている
温もりを確かめる、青い口付けを落として
僅かばかり丸みを帯びた頬に触れてみる
君が取り戻してきた熱、命懸けの選択
何者にも穢せない美しい翼
例え一夜の幻でも、穢すことは許されない
隠された傷を分かち合う、そんな夢なら良いけれど
窓を開ければしんしんと
私を迎える冷たい雫
立ち込める淀みを濯ぐ透明なゆらぎ
きっとまた罪を重ねるけれど
いつか倒れる日が来ようとも
あと少しだけ二人を閉じ込めていて
薄暗い檻でもここがきっと天国だから
私を呼ぶ声がする
背に飛び込む前に、振り返って両手を広げる
(やさしい雨音)
灰の積もる瓦礫から、私は生まれた
数え切れない怨嗟の声を踏み締めて
まだ温もりが残る肉塊から、産声を上げたのだそうだ
叫ぶように、祈るように
時を経て、すっかり無垢ではなくなった
降り注ぐ鉄の雨を憎み、自由に駆ける友を妬み
壊れるほど叩き付けても、もう声は聞こえない
守らなければ、救わなければ
解き放つ一矢であらねば
私に価値などないのだと
噛み付く牙は己の喉に突き立てられて
血を吐きながら、それでも私はまだ戦える
そう、証明し続けなければならない
罪に塗れた両手で飛び立ち
犠牲を踏み越えてきたその足で舞い踊る
脳が弾けてしまうまで
心臓が裂けてしまうまで
そうでなければ生きられない
かつて震えていた幼子はもう死んで
私は声を手放した
もう歌えない、君と共に奏でたかった
墜ちていく
炎の海へ、吠えることも出来ず
無機質な揺籠で瞼が落ちるのを待っていた時
雑音に紛れて届く声があった
囁くように、願うように
縛られていた私とは違う形で、不自由だった君の声
凍り付きそうだった血が再び巡り始める
どこの滝より激しく、乾いた肺を満たす空気
ああ、ああ、待ち侘びた
どうしようもなく歓喜で震える体を抱えて
君がいなければ私など生きてはいられないと知る
届け、どうか今だけは
潰れた喉から搾り出す、泥から産まれた私の声
酷く掠れた一言だけれど
空から君が降ってくる
こんな拙い声を褒め称えてくれる一羽の鳥よ
隔てる壁など何一つない
錆びた城の片隅で、真新しい朝日を迎えて
(歌)
傷だらけの手を伸ばす
戦火が揺らめく灰の下、燃え盛る森の奥
あるいは、僅かな光も届かぬ海の底
どこかに眠るはずのあなたを求めて
沈黙の空を飛び続ける
道を違えても友であり続けると誓った
並び立つならば背を預け、例え刺されても恨まない
今もそう
ぎらつく瞳の陽炎が
張り詰めた弦の乾いた声が
私を前にした時だけ和らいだこと、よく覚えている
俄かに潤み始める薄紅の頬を
偽らざるケロイドの心を
そっと撫でて抱き締めて、溺れさせてしまいたかった
きっと一夜を越えたなら、私は次も望むだろう
これが愛だろうか
これが人の、らしさというものか
応答せよ、応答せよ
約束を交わしたシリウスよ
今一度、時を動かして
氾濫する感情を知らせておくれ
この濁流を知るはあなただけ
孤独な鳥が火を招く前に
受け止めてくれるならば、どうか
応えてくれ、たった一言で良い、応えてくれよ
ただ刻まれる音の波を乱してほしい
あなたが守った蒼穹は美しいけれど
会いたい、会いたい
これが愛だと言うならば、頼むから
耳障りなノイズに、遠吠えが混じった気がした
(どうしても…)
永遠なんてどこにもない
当たり前のことで、初めから分かっていたこと
伽藍堂の瞳は何を映すか
透き通るあなたの笑顔に、今になってようやく気付く
顔を覆う程度の恥ならば晒してしまえば良かったのだ
今更いくら泣いてみても、乾いた砂が舞うばかり
両目を抉る覚悟があれば
心臓を開く決意があれば
逆巻く暗雲を切り裂く雷になれていたなら
あなたは側にいてくれただろうか
目を逸らすことをやめてしまえば案外簡単で
舌で転がす、子どもじみた甘い結論
あなたが憎かったのではない
あなたをあやめたかった訳でもない
本当は、白い首を穿つ度胸すらなくて
ただ、ただ、ひとえに繋ぎ止めたかったのだと
今ならはっきりと、雲海を開く一矢の如く
くだらない舞台で初めて見えたあの頃から
喝采も罵倒も掻き消されてしまうほど
そう、どうしようもなく私は焦がれている
与えられる愛など必要なくて
浸される栄光はガラクタに過ぎず
私はずっと、あなただけを求めていたのだと言える
まるであの太陽の花が冠する言葉
私が咲き誇る花になれたなら
あなたは摘んでくれるだろうか
白い指先に触れられる歓喜を
虚しい夢だと思いたくなくて
私は繰り返し目を覚ます
何度も生まれ、あなたのいない世界に絶望して
泡沫の理想に微睡んで、また眠る
隣に腰掛けて、私の功績を称えてくれる
あるいはただ穏やかに微笑んで、果物を分けてくれる
朝日に溶けるようなあなたの姿を
やがて月が昇る頃には、手を繋いで眠る
そんな幻想に浸っている
ねえ、愚かでしょう
みっともなく腐り、空虚に縋る吊られた男
あなたは何を思うのだろう
分かりきったこと、陽光は等しく降り注ぐ
それだけは今も憎らしい
私を見て、刃を向けて、閉ざしてしまえ
あなただけを、見つめている
(まって)