小音葉

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5/1/2025, 11:38:30 AM

悉くを攫い、あるいは踏み躙った嵐を憎んだ
いつだって理不尽に、強引に
お前が齎した偽りの安寧
祝福された世界、約束された未来
それは腐った果実のようなもの
お前の掌に滴る暴虐の色を知っている
善良な仮面の裏で、牙を剥く獣の顔を知っている
お前が喰らい尽くした肉の味を忘れるな

顔のない悪魔が咽び泣く
例え微風であろうとも、憎き嵐へ繋がるならば
屈辱すら砕かれる花になどなるものか
錆びた心臓から溢れ出す、咽せ返るような憎しみが
全てを滅ぼしてしまえるなら
ああ、けれどそれは結局同じこと

引き絞られる臓腑を連れて歩いた
まるで嵐のようだ
溢した涙が薙ぎ払う
静止の声は咆哮となって
連鎖する崩壊の中心で、お前はもう止まらない
人はそう簡単には変わらない

丸裸になった大地で並んで寝転ぶ
取り止めのない悪態と、たまに溢れる呆れた笑みが
きっと何よりも愛しかったのに
あと少し花が愚鈍であったなら
あと少し風が狡猾であったなら
滑稽な夢を振り払う、ヒヤシンスと春嵐

(風と)

4/30/2025, 12:39:52 PM

輝ける未来を焼き尽くし
慟哭する屍を踏み越えて
震える細腕で天を狩り
亡者達の声を背負いながら、あなたは一人
世界を照らす導きの星となった

それは美しい物語
残酷な運命に打ち克つ、選ばれた犠牲
ご都合主義の与太話
世界はあなたを呑み、生き長らえて
そうして忌々しい平和を浪費する
当然のように、私も

沸騰する怒りも、胸を穿つ哀しみも
まるで仕舞い込んだ玉匣
いつしか額に収まる記憶
遠く識る彼方の夢へと成り果てて
老いた体では旅立てず
凪いだ心には何も集わず
遥か栄光は雲を掴むように拡散する

こうして今日も、私は一人
地に縫い止められて、ただあなたを見上げるのみ
あなたの旅路を這って綴る

(軌跡)

4/28/2025, 11:34:26 AM

壊れた月の残骸が、今も路傍に転がっている
物言わぬ岩はやがて忘れられて
冴え渡る白銀は初めから存在しなかった
蜃気楼のように
旅人の心にのみ焼き付いて、終焉まで連れ添うのか
鏡の向こうから
淀んだ眼差しが絡み付いて、寝怖る耳に垂らす災禍
繰り返し責める、まるで波長の合わない声
お前は誰だ
そう叫ぶ時だけは親友になれた

奇怪な足取りで探る息遣い
空になった肺を毒で満たして
剥き出しの頭で粗末な穢れを炙り出しては
自己満足に酔い痴れて
駄菓子のように脆い言葉で、爛れた愛を包んで贈る
臓腑も骨も弾丸に、膿んだ口元から吐き出す日々

もう懲り懲りだ
飽き飽きだ
草臥れた霊をぶら下げて
だから私は戸を叩いた

崩れる体で登る大輪を見つめる
足が落ち、もう立ち上がることは叶わない
澄んだ空気は罪を糾さず、されど沈黙もせず
風に紛れて詩を紡いだ
腕が落ち、胴が落ち、それでも空は果てしなく
純白の綿は贖いを求めず、空を滑り肥えていく
慰めでもなく、咎めるでもなく
等しく降る涙を蓄えて、山を越えて咲くまでは

残る頭は一句も残さず
石に揉まれて砂になって
微かな残り香だけを預けて眠る
白鳥だけが全て見つめていた

(夜が明けた。)

4/27/2025, 11:31:22 AM

例えば、すっかり夜に身を預けた頃
立ち上がることすら億劫な暗闇の淵から
引き留めるような閃きが湧いてくる
明日には期限切れの救世主
必死に割れ目を繋ぎ合わせても
どこか歪んで褪せてしまう
そして罅割れた英雄は息絶える
その首を絞めたのは他ならぬ私なのに
感覚すらもう思い出せなくて

例えば、急かされるような五月の嵐
寝惚けた頭を横殴りに叩く風
怠惰へ誘う甘い声
例えば、見覚えのない煌めきの欠片
邪な夢を暴いて喰らう曳き網
手繰るほどに依存する虚構の海、悪意の尾
囁きが青白い喉を縊るたび、水浸しの英雄が蘇る
何度でも、死んだ魚の目をして立ち上がる

生まれなかった英雄譚に、確かに生きた亡霊
誰にも知られず、母にすら見捨てられた成れの果て
それはまだ私の背後に立っていて
痕が残るほど手首を握って、引き留めてくる
切り離された霞からは、声も想いも届かないけれど
悪い夢に苛まれるうちは、生きていこうと思うのだ

(ふとした瞬間)

4/26/2025, 11:03:04 AM

願い続けた終焉に、今更抗う愚か者
罵声にこそ背を押され、軽やかな跳躍を
そうして宙に体を投げ出したなら
因果の滓も届かぬ孤独な星へ
透き通るあなたを連れて、どうか消えないようにと
握り締めた手を、同じ強さで返す熱がある限り
恥じぬ強さと愛しさを
ただ一つ揺るがぬ証明の為、立ち上がれたのだろう

私は今、銀河の波間を漂う亡霊
軋む音色を口遊み、潰えぬ愛を想って揺蕩う魚
あなたを守る岩、あなたが守る花
誰もが黄金の粒子に溶けて旅立ってしまった
あなたもそう、遥か昔
ただ幸あれと願う、私だけを呪った微笑みで
残火の慟哭は今も焼き付いて
せめて私を憎んでくれたならどれほど良かったか
暗闇に身を浸しても尚、この身を焦がす天の瞳

ゆえに私は宙を行く
もはや惑わぬ愛の証明
それは呪いのようで、祈りのようで
永遠をも飲み込む覚悟で、私はあなたのみ望む
慈悲ではなく執着を
博愛ではなく偏愛を
船出の代償に、それ以外の全てを手放そう
光なき旅路は罰に非ず、即ち空劫のしじま
欠片からやがて大輪へ、私はあなたを取り戻す

いつか目覚めるあなたが失意の涙を流しても
宙より暗い海淵に沈んでも
分け合った熱の理由は色褪せないのだから

(どんなに離れていても)

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