例えば、すっかり夜に身を預けた頃
立ち上がることすら億劫な暗闇の淵から
引き留めるような閃きが湧いてくる
明日には期限切れの救世主
必死に割れ目を繋ぎ合わせても
どこか歪んで褪せてしまう
そして罅割れた英雄は息絶える
その首を絞めたのは他ならぬ私なのに
感覚すらもう思い出せなくて
例えば、急かされるような五月の嵐
寝惚けた頭を横殴りに叩く風
怠惰へ誘う甘い声
例えば、見覚えのない煌めきの欠片
邪な夢を暴いて喰らう曳き網
手繰るほどに依存する虚構の海、悪意の尾
囁きが青白い喉を縊るたび、水浸しの英雄が蘇る
何度でも、死んだ魚の目をして立ち上がる
生まれなかった英雄譚に、確かに生きた亡霊
誰にも知られず、母にすら見捨てられた成れの果て
それはまだ私の背後に立っていて
痕が残るほど手首を握って、引き留めてくる
切り離された霞からは、声も想いも届かないけれど
悪い夢に苛まれるうちは、生きていこうと思うのだ
(ふとした瞬間)
4/27/2025, 11:31:22 AM