音を立てて崩れた夢想の果てに
手を伸ばしても灰すら残らず
失くした愛を紡ぐ詩も、焼けた喉では唄えない
私の声をここに置いていく
遠ざかる足音ではなく、留まる旋律が慰めとなるように
こんなにも、こんなにも
燃え盛るような心を捨てて、私はまだ生きて行く
裏切りは鼻歌のように
小石を蹴飛ばす童のように
蜘蛛の子を散らす稲光
騒めく草原と蝉時雨
咽せ返るほどの境界にて
断ち切れない未練の重石を、私はまだ担いで歩く
振り返ってはならない
まだ、振り返ってはならない
こんなにも、燃え上がるように愛したけれど
共に行くことは出来ない
私はまだ生きて行かねばならないのだから
ここでお別れ
雨はまだ止まないけれど、洞を抜けて
爛れた告白に背を押され
本当にお別れ
空に滲む雲が見える
形を無くして燃え尽きるまで、ずっと愛していくから
私の声をここに置いていく
あなたを置いて、生きて行く
(どこへ行こう)
痛いほど弾ける炭酸によく似ていた
あなたは何もかも受け入れて
薄氷を砕いたその手で、春を呼んで抱き締める
あなたが何も背負わずいられる夢を
並んで草むらにて微睡む優しい幻を
やがて膝が笑っても、私がその背を支えましょう
水浸しになってしがみついたあの日
何気ない雑音を掻き消す、短い一言が永遠に思えた
手を振って交わす、おはよう
そして重なる名前が無冠であろうと
私はとうに誓ったのです
あなたのように受け止めて笑おうと
例え泥に汚れた足でも陽だまりの草原を歩もうと
一度踏み外したならば
刻まれた証は消せないだろうが
私がその背を支えましょう
病める日も、健やかなる日も
そして、死ごときで二人は分たれない
あなた好みの炭酸を飲み干し、星の旅路を拓く
私はとうに誓ったのです
あなたと目覚めたあの日から
天国だろうと地獄だろうと、あなたとならば永遠に
(big love!)
君の流した涙が宙へ落ちて
ひとつひとつの瞬きが
標となって人々を救ってきた
失い続けた血潮と熱を、銀の河で覆い隠して
永遠の孤独を想い眠る
どこからあの光はやってきたの
いつから私達を照らしているの
何も知らないまま、人は幸福を享受する
永遠などありはしない
その狭い視野で何を見る
限られた数で何を刻む
群れているようで誰もが孤独
砂屑に満たぬ言葉を並べては
共鳴の素振りで酔い痴れる
君が去った暗闇の名残が
夜という孤独を作った
孤独は安寧、思考の海
人を閉じ込める形無き檻
揺籃はやがて篩となり、最後は輪を描くのだろう
君は何を願ったの
君はなぜ傷付いたの
君は笑って行けたかな
地に縫い止められた私達は追うことも出来ないけれど
星辰のバラッドを君に捧ぐよ
(星明かり)
彼はその日、言い付けを破り
純白のヴェールを自ら脱ぎ捨て、太陽を見初めた
生まれる前から愛していた
落ちてからは夢にまで見た
例え、瞬く間に灰燼と化しても構わない
願わくば、灼熱の手背に口付けを
愚かな蛍火に一瞥を
そうして燃ゆる心の導くまま、誓いを叫んでみたかった
小さな背に刺さる、甲高い声が聞こえる
ああ、またしても届かない
また今日も、僅かな逢瀬に胸を焦がして
月明かりに稚拙な物語を委ねて
眠れない夜を重ねていく
彼女は愛していない
少なくとも、部屋の片隅に蹲る宝のことは
彼女は既に選んでしまった
異なる色の冠、その輝きと安寧に魅入られて
寄せては返す恐れが消えずとも
無垢の瞳に見上げられる度に
ただ一度の過ちを射抜く糾弾、置き去りの純愛を
飲み下した罪禍で爛れた喉は
もう二度と愛を紡がず、極光を拒むだろう
それでも彼女を愛している
かつて抱かれた、細い腕と涙を覚えている
じきに夜が明ける
穿つような鋭い朝日よ、夢に輪郭を与えておくれ
まだ黒い半身がいるならば、駆けねば立ち行かぬ
遥か遠い記憶の湖底
閉じ込めた西陽と二人の指先
交わしたはずの約束、小さく頷いた光明を
浮上する
まだ、立ち上がれる
決意の流星は、深海の大魚を引き連れて
空の彼方へ旅立った
(影絵)
白亜の檻にて綴られるただ一つの詩
埋もれた原稿の片隅に残されていたような
靴跡塗れの絵空事
天蓋の中で書き殴った紛い物
遠い昔、そのまた昔、踏み躙られた無辜の殻
透明な蕾は涙を啜り
虚飾の色を吸い上げて
奈落より暗い花を咲かせた
誰も知らない御伽噺
けして叶えてはならない不思議の国よ
掠れた深淵を丁寧に
何度も重ねて周到に、確かに沈めたはずなのに
溢れる雫はこの顔を溶かして
望まない祝福を、夜明け前まで染め上げる
朝が来なければ良い
彼が来なければ良い
願ってはならなかった崩壊の序章
楽園は翻り、無垢な少女は突き落とされる
黒い花は踊り狂う
ただ一つの詩を携えて
(物語の始まり)