小音葉

Open App

彼はその日、言い付けを破り
純白のヴェールを自ら脱ぎ捨て、太陽を見初めた
生まれる前から愛していた
落ちてからは夢にまで見た
例え、瞬く間に灰燼と化しても構わない
願わくば、灼熱の手背に口付けを
愚かな蛍火に一瞥を
そうして燃ゆる心の導くまま、誓いを叫んでみたかった
小さな背に刺さる、甲高い声が聞こえる
ああ、またしても届かない
また今日も、僅かな逢瀬に胸を焦がして
月明かりに稚拙な物語を委ねて
眠れない夜を重ねていく

彼女は愛していない
少なくとも、部屋の片隅に蹲る宝のことは
彼女は既に選んでしまった
異なる色の冠、その輝きと安寧に魅入られて
寄せては返す恐れが消えずとも
無垢の瞳に見上げられる度に
ただ一度の過ちを射抜く糾弾、置き去りの純愛を
飲み下した罪禍で爛れた喉は
もう二度と愛を紡がず、極光を拒むだろう
それでも彼女を愛している
かつて抱かれた、細い腕と涙を覚えている
じきに夜が明ける
穿つような鋭い朝日よ、夢に輪郭を与えておくれ
まだ黒い半身がいるならば、駆けねば立ち行かぬ

遥か遠い記憶の湖底
閉じ込めた西陽と二人の指先
交わしたはずの約束、小さく頷いた光明を
浮上する
まだ、立ち上がれる
決意の流星は、深海の大魚を引き連れて
空の彼方へ旅立った

(影絵)

4/19/2025, 11:14:02 AM