小音葉

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4/6/2025, 11:20:30 AM

蒼天の下、宿願は成就した
かくして自ら砕いた羅針の欠片を見下ろしている
鮮烈な光は影を招くと言うけれど
真白く在らねば生きられず
祈る度に剥がれ落ちた
手繰る程に遠ざかった
透き通ることを誓う遥かな歳月の果て
鏡を見つめ返す瞳が消えた
傾く世界に、私だけが見えない

まだ鋭い栄冠がこの胸に突き刺さって
指の隙間から噴き出す鬱屈が沁みて
不浄の枢、垂れて滲む朱殷を見せたくなかった
かつて見た空を瞳に宿したあなたにだけは
ただ誇れる気高い光で在りたかった
柔らかなその手を取って導く風になりたかった

汚濁の海が足下に迫る
触れないで、離れて、優しいあなた
もはや呑み慣れた、舌の痺れた私とは違う
どうか捨て置いて、忘れてしまえと喉を枯らしてでも
あなたを毒に浸したくない

それなのに、瞬刻、溢れる歓喜の吐息
馬鹿な人、愛しいあなた
ずぶ濡れになって、息を切らして、血を流しても
抱き締める腕の何と温かいこと
痛みは露と散り、汚濁を顧みず、罪禍を射抜く
剣でもなく、矛でもなく、言葉に宿るあなたの献身
正邪錯綜してこそ畢生の路と肯う背の力強さよ
私が選んだ出会い
最上の幸福をこの胸に抱いて

泡のように浮上する
朝が来ても弾けないで
あなたと歩む、肩を並べてまだ歩み続ける

(新しい地図)

4/5/2025, 12:23:36 PM

おやすなさい
閉じる世界に祝福を
万感交到る青い歳月に決別を
別れを告げる唇、眠る貴方と鳴らす最後のノイズ
それだけで良い
膨れた願いに潰れるより早く、舞台へ発つから

二度は無いと思っていた
わざと落とした心を拾ってくれた
貴方に背を向けて、私は飛翔してみせる
まるで断頭台、醜い一羽を晒す光線
それでも、誰より気高く美しく
だって、私は貴方に愛されたから
それ以上は必要ない

鳥になれずとも、蕾のままの想いを乗せて
魚になれずとも、涙の河を遡り
光風霽月の一矢となろう
一人きりのパソドブレで、貴方から旅立つ

さようなら
この言葉を以て、夜明けに散る夢見草

(好きだよ)

4/4/2025, 10:59:28 AM

身体中を這う呪い
望まれる傀儡に、底無しの闇を孕む人形に
ささめく鱗翅は耳障り
冷えた灯火が震えて叫ぶ
音も無く吐き出す渇望
花曇、迷えど消えぬ影一つ
故に、ただ生きたいと

水面に揺らぐ陽光と、空を舞い散る淡い春
縁側に並んで座り、他愛の無い話で転げて笑った
暮れなずむ木漏れ日の記憶
ひとひらの少女が消えてしまわないように

掴んだ指先から溢れて燃え上がる
あなたが選んだ剣の形
天秤を叩き壊した手でただ一人、私の手を取る
焼き払う夢の後先に
小さな苗が出づるでしょう
無垢なる徒名草
例え私に明日がなくとも
曙に見た薄紅の吹雪を、あなたと共に

(桜)

4/3/2025, 12:15:28 PM

二人きり、赤い宇宙を漂う
星屑を瞳に宿した君は美しく
天の川を渡る時は瞬く間に過ぎて
一千年の旅は恐ろしいけれど
約束をよすがにまた会える
そんな夢を見ていたんだ

針山に横たわる僕は
今日も喉に刺さる棘に呻いて
鈍く垂れる醜悪さに飽いた素振り
這いずる蒼白な手は蜘蛛のよう
知らず踏み潰す靴裏を睨んでみては
俯くカンテラになりすます
声は枯れても泉へ歩まず
この首を括っていたのは僕自身だった

夢じゃないよ、と
声がする
流れる塵となって浮上する
僕が、君が

満ちる
迸る、心臓が

極光を捲れば夜明けが駆け込んで
君の見つけた光を拡散して
真昼の宇宙は万華鏡のように
二人の踊る銀河を照らした

速度を増して落ちていく
白い体に火をつけて、金烏玉兎にも勝る凄絶を
世界に焼き付く爆発を
僕らの開闢を刻むとしよう
もう戻れない、戻らない
覚悟は良いかな

(君と)

4/2/2025, 11:36:13 AM

太陽の雫、地に落ちた光芒
幻想より美しい真実があると知った黎明の頃
あなたと過ごした蒼穹の日々
あまりに短かった燦然たる嘉月は
昇る泡より夢のようで
弾けないように、消えないように抱き締めるけれど
焦がれた心が灰になって
もう、届かない
あなたを追い返した掌が、氷のように冷たくなって
まだ伝えていないのに
砕けてしまう
薄れてしまう
幼い頃に見た蜃気楼のように
存在しなかった、なんて、それこそ空事なのに

私が、あなたへの想いが、雪解けと共に崩れて消えて
麓へ流れ着いたのなら、やがて花が咲くだろうか

誰もが忘れた聖なる地にて
枯れた一枝を掬い上げて
どうか今度は連れて行って
重力の檻を超えた先であなたと踊りたい
満月も恥じらう連理の枝となり未到の星まで

まだ暗い寝台で目を覚ましたら
馴染みの絶望が頬を撫で、淡い月へ手を伸ばすよ

(空に向かって)

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