小音葉

Open App
4/3/2025, 12:15:28 PM

二人きり、赤い宇宙を漂う
星屑を瞳に宿した君は美しく
天の川を渡る時は瞬く間に過ぎて
一千年の旅は恐ろしいけれど
約束をよすがにまた会える
そんな夢を見ていたんだ

針山に横たわる僕は
今日も喉に刺さる棘に呻いて
鈍く垂れる醜悪さに飽いた素振り
這いずる蒼白な手は蜘蛛のよう
知らず踏み潰す靴裏を睨んでみては
俯くカンテラになりすます
声は枯れても泉へ歩まず
この首を括っていたのは僕自身だった

夢じゃないよ、と
声がする
流れる塵となって浮上する
僕が、君が

満ちる
迸る、心臓が

極光を捲れば夜明けが駆け込んで
君の見つけた光を拡散して
真昼の宇宙は万華鏡のように
二人の踊る銀河を照らした

速度を増して落ちていく
白い体に火をつけて、金烏玉兎にも勝る凄絶を
世界に焼き付く爆発を
僕らの開闢を刻むとしよう
もう戻れない、戻らない
覚悟は良いかな

(君と)

4/2/2025, 11:36:13 AM

太陽の雫、地に落ちた光芒
幻想より美しい真実があると知った黎明の頃
あなたと過ごした蒼穹の日々
あまりに短かった燦然たる嘉月は
昇る泡より夢のようで
弾けないように、消えないように抱き締めるけれど
焦がれた心が灰になって
もう、届かない
あなたを追い返した掌が、氷のように冷たくなって
まだ伝えていないのに
砕けてしまう
薄れてしまう
幼い頃に見た蜃気楼のように
存在しなかった、なんて、それこそ空事なのに

私が、あなたへの想いが、雪解けと共に崩れて消えて
麓へ流れ着いたのなら、やがて花が咲くだろうか

誰もが忘れた聖なる地にて
枯れた一枝を掬い上げて
どうか今度は連れて行って
重力の檻を超えた先であなたと踊りたい
満月も恥じらう連理の枝となり未到の星まで

まだ暗い寝台で目を覚ましたら
馴染みの絶望が頬を撫で、淡い月へ手を伸ばすよ

(空に向かって)

4/1/2025, 10:36:08 AM

それはまるで瞳を奪う無形の糸
凪の日の鏡面、あるいは鉄の樹海の窓辺から
誰でもないあなたを見つけた
両手に収まる無限の宙
時も空間も越えてどこまでも私を運ぶ方舟
どうにか生まれて息をして
あなたとの出会いを待ち侘びていた
運命と呼ぶ他ないでしょう

初めて空を飛んだ感涙も
地面に叩き付けた憤慨も
泡沫と翳る郷愁も
いつか圧殺した夢幻と狂想さえも
あなたはきっと与えてくれる
知らず私は溶け切って、泳いで渡る無人の庭
ただ一つの安寧、変え難い孤独
息吹く滸とイムソニア
今宵はどうか、手を繋いで
その真っ直ぐな背を撫でるまで離さないでいてね

新しい世界、あるいは失われた世界へ至る鍵
あなたのことを知りたくて
隅々まで繰り返し、摘んで返して降り積もる
雪のように、冷たく優しく包んでほしい
紙の塔に今日も恋する

(はじめまして)

3/31/2025, 11:33:41 AM

ああ、薄情者
千切れた糸を手繰り寄せ
結んで開いて繋ぎ合わせた絆なのに
勝手に芽吹き、出ずる日蕾む花となり
咲いた季節を知らせもしない、なんて
恩知らず
玉響の囀りがあまりに愛らしいから
願いを聞いてやったのに
重なる掌と薄紅の頬に祝福を
どこへでも、どこまででも行ってしまえ

見慣れた顔に、見慣れぬ猫背
浮かべた三日月、虚ろな瞳
宵を渡らず、鏡は満たず
やれやれ、振り子の真似事と思いきや
珍妙な客を連れている
下手な芝居にも飽いた頃、小指で払えば囂々、絶叫
永く在っても嫌いは嫌い
恥じて帰せよ、招かれざる者
わざわざ曲げる骨などなかろうに
浮き立つ足で颯の如く、去ってしまえ

微睡みの戸を叩く、まるで咆哮
見下ろす旋毛は蒲公英
付き合いの長い石畳が拗ねている
時を経ても尚、堅牢が過ぎる頑固者
根を下ろすには硬かろう
瞬く逢瀬は手牡丹のように
幼少の砌、書き殴った与太と忘れよ
この手は母に非ず、父に非ず
まして恋ふらく月でもなく
昼想夜夢に耽る酔狂と思え
羽ばたいたなら戸を閉じて、幸多からんことを祈るのみ
海も山も越えて行け、誰も知らぬ頂まで

縁を辿り訪れたなら
今が最後
自らの足跡をなぞること勿れ

(またね!)

3/30/2025, 11:15:05 AM

まだ夢に見る、遠い昔の英雄譚
黄金色の風に撫でられて
輝ける未来の為に戦ったあの頃
目指した世界がここにある
悔いも怒りも持たずに終わり
今度は当然のように愛されて
何者でもない、ただの私を持て余す

彼もまた、何者でもない一人として
花嵐に紛れ、どこかで生きていると良い
愛に膿んだ運命を投げ捨て
張り詰めた弦のような矜持など忘れて
凡百の花弁に埋もれていれば良い
どうか最後まで木漏れ日の端で隠れていて
それでも美しく香るのだろうが

きっと出会うべきではない
蕾を持たない、ただ落ちる日を待つ無色の棒切れ
この体は既に宿花を手放した
病める葼と笑われる、しがない花売り
かつて謳われた星、射抜かれ朽ちた成れの果て

西陽の合図に立ち上がれば、疾る光明と風が鳴る
久方振りの来訪を告げる鐘の音
慣れた台詞を弾く邂逅に、吐息が震えて
閉ざされた園は、今、地平の彼方まで透き通る
望まれた世界がここにある
遥か時を超えて初めて、絡めた小指の温もりよ

(春風とともに)

Next