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1/12/2024, 3:07:59 PM

1/12「ずっとこのまま」

「ふぁ…あふ」
 大あくびをして、頭から布団をかぶる。程なくしてアラームが鳴った。
「スヌーズ」
 その一言で、スマホは従順に10分間沈黙する。布団をかぶり直して、深く深く息を吐く。最高の時間だ。ずっとこのままでいたい。
 再びアラームが鳴り、またスヌーズ。
 何度か繰り返した僕は、会社からの電話で跳ね起きる事になる。

(所要時間:4分)




1/11「寒さが身に染みて」

 おかしいな。あなたがこんなにもそばにいるのに。
 手を繋いで、体をすり寄せて、口づけして、それでも。
 寒さが身に沁みて、眠れない。
 ずっとずっと、あなたと一緒にいた。これからもきっと、一緒にいる。それなのに。
 どうしてだろう。今日に限ってこんなにも寒い。

「今朝、お祖父ちゃんが亡くなったよ。お祖母ちゃんが布団でずっと寄り添ってた。もう認知症で誰の区別もつかないはずなのに」
「…ううん。きっと、お祖父ちゃんの事はわかってると思うよ」

(所要時間:7分)



1/10「20歳」

 20歳になったら死ぬと心に決めていた。
 果たして、その20歳の誕生日。死神が現れた。黒い猫耳のフードをかぶった女の子だ。
 …いやいやいや。待ってよ。こんな子どもって。
「ナメたらアカンよ、お兄ちゃん」
 しかも関西弁って。
「子どもでも関西弁でも死神は死神やからな。今からアンタの命もらうわ。えーっと」
 ぽんぽん、と女の子はポケットを叩いて探る。
「鎌、どっかに落としてもうたわ」
 そんなデカいもの落とす?! ていうか今ポケット探してなかった?
「お兄ちゃん、探してくれへん?」
 小さな牙を見せて、死神はにぱっと笑った。

(所要時間:6分)



1/9「三日月」

 やせ細った月が、夜空を懸命に照らそうとしている。無駄な足掻きだ。まるで俺と同じ。
 月に吠える、は届かぬ願いを指すのだったか。そもそも三日月に吠えた所で御利益はなさそうだ。
 行く場所はどこにもなかった。満月の夜の直後に村は焼かれた。
 復讐をしようにも、俺一人に何ができる。ならば人間に紛れて生きるのか。心を殺して生きるのか。
 次の満月まであと十日余り。その時俺はどうするのか。心を決めなければならない。

(所要時間:10分)



1/8「色とりどり」

 赤、黄、青、白、緑。様々な国の旗がはためく。
 赤、黄、青、白、緑。様々な肌の色の種族が集う。
 開催国の竜族の長が、片方の翼を広げて開会を宣言する。歓声が沸き起こった。
 今日から一ヶ月、平和の祭典が行われる。
 子どもたちは色とりどりの旗を背負い、色とりどりの絵を描いていく。彼らが巨大な魔法紙に自由に描いた夢が、次の5年の間に現実となるのだ。
 カラフルなペンで描かれた願いは、いつもひとつ。平和だ。

(所要時間:12分)

1/7/2024, 10:33:19 AM

1/7「雪」

 雪を蹴散らしながらボールを蹴る。ドリブルからのシュート。だが雪の重さでコントロールが効かず、ゴールの手前に落ちる。
「行くぞー!」
 キーパー役の兄がボールを投げる。ヘディングで受け止めると、飛び散った雪が目に入った。
 膝までの雪が降り積もった朝、他に誰もいないグラウンド。遊び放題遊んで、大の字に寝転ぶ。雪に遮られて聴覚が消える。息は白く、空は澄んで青白い。
 小さい頃の思い出だ。
 今。雪の上に寝転んで、同じような空を見る。
 サッカー少年は、少年の時代と共にサッカーを捨てた。けれどこの雪の冷たさは、温かく懐かしい。

(所要時間:10分)



1/6「君と一緒に」

 カプセルに君を乗せ、ドアを閉めて、2基分の射出タイマーを掛ける。それから僕は隣のカプセルに入った。
 カプセルは棺。命の灯を失った君と、共に宇宙に散るのだ。死亡管理官の僕にはそう難しい事ではなかった。
 胸の上で手を組み、まぶたを閉じる。
 僕は太陽に灼かれ、この広い宇宙を彷徨うだろう。君と一緒に、永遠に。

(所要時間:7分)



1/5「冬晴れ」

「憎らしいね」
 白銀を照らす太陽に、姉貴は目を細めた。
 かつてないほどの大雪だった。村のほとんどは雪に埋もれた。家も、倉庫も、人も、何もかも。
 生き残った人々は、汗だくになって雪除けと懸命な呼びかけを続けている。もっとも、除けた雪を捨てる場所の確保もままならない状態だ。一晩中、いやそれ以上続く雪との戦いに、人々は疲れ切っている。
 昨日の猛吹雪が嘘のように、今日の空は晴れ渡っていた。
 恵みのはずの太陽と青い空を仰いで、俺はうなずくしかできなかった。

(所要時間:11分)



1/4「幸せとは」

 童話の青い鳥が身近なところにいたように、幸せって案外近くにある、というけれど。
 幸せなんてそんなにない。そんなにないものだからそれを幸せと感じるのかもしれない。
 寒い部屋に帰ってきた。ため息とともにこたつの電源を入れ、ダル着に着替えて肩まで潜り込む。
「はーーーーー」
 冷えきった体に当たる赤外線が温かい。
「あ」
 あった。幸せ。

(所要時間:7分)

1/4/2024, 9:58:56 AM

1/3「日の出」

 村中の人が広場に集まっている。一日に一度、そして年に一度の祭りだ。
 この時のために様々な肉や野菜が並べられ、輸入した動物が何頭も屠られる。村人は食べ、飲み、踊り、騒ぎ、その時を待つ。
 間もなく夜が明ける。人々が待ちわびた朝がやって来る。
 この惑星の自転は極端に遅い。地球時間で丁度365日ぶりの、日の出だ。

(所要時間:7分)



1/2「今年の抱負」

 今年の抱負は、思いを伝えること。…いや別に好きな人がいるとかじゃないんだけど。
 引っ込み思案の僕は、諦めが早い。人に対して言いたいことがあってもまず言わない。まあいいか、と思うから。
 でもそれだと、人に接する意味があんまりないな、と思った。せっかく新しい年を迎えたのだし、ちょっと新しい事に挑戦するのも悪くない。
「サカキくーん」
 呼び止められた。声をかけてきたのはショートカットの女子だ。
「あの、付き合ってください!」
 今年の抱負、「思いを伝えること」。えーと…思い…今の思い…。
「…誰だっけ?」
 まさかこんな「思いを伝える」から大恋愛に発展するなんて、僕もこの時は思わなかった。

(所要時間:7分)



1/1「新年」

「♪あーたーらしーいーとーしがきた きぼーうのーとーしーーーだ」
「元気だな…」
「折角の新年なんだからシャッキリしなよ!」
「…しゃっき〜り」
「全然してない! そもそも一年の計は元旦にありって言ってだね」
「一日ぐらいシャッキリしたところで変わらんて…」
「三日坊主でもやらないよりマシだよ」
「正月休み明けたら元通りだろ」
 そんな事を言いながら、並んで初詣に行くところだ。今年もよろしく、相棒。

(所要時間:8分)

12/31/2023, 10:44:30 AM

12/31「良いお年を」

「よいおで〜す」
「としおで〜す」
「「二人合わせて良いお年をで〜す」」
 くだらん。くだらなすぎて笑える。
 仲間内の忘年会がまさかの大晦日で、なんとヒマ人が7人も集まった。昼間から酒が入ったカラオケルームは騒がしいを通り越してやかましい。
『お時間ですが延長されますか?』
「あ、いいです出ます〜」
「えーまだ11時じゃん!」
「馬鹿、電車なくなるだろ。オレんち田舎なんだから」
「ちぇ〜」
 残りの連中で宴会続けるわけじゃないのがうちららしい。会計を済ませて外に出る。
「じゃあね、良いお年を!」
「あと40分しかないじゃん」
「ばーか、残り何分だろうが来年はいい年にすんだよ!」
「いいこと言った!」
「いや普通」
 酔っ払いたちの笑い声がこだまする。こいつらのおかげで、今回も良い年を迎えられそうな気がした。

(所要時間:10分)



12/30「1年間を振り返る」

「今年もいい事なかったな〜」
 仕事なし。彼女なし。クリスマスもイベント何もなし。そんな年の瀬。
「でも、もうちょっとだよ」
 見た目はほんの小さな少年。こいつと出会ったのは今年の1月。そこから全ては始まった。
「まあそうなんだけどさぁ。もっとこう、楽しい1年を過ごしたかったよな〜」
 どっこいせ、と斬馬刀をコンクリートから引き抜いて構え直す。目の前の巨大な影が、吼える。
「いっちょ、やりますか」
 この世界を救う、最後の戦いを。

(所要時間:7分)



12/29「みかん」

 どうも。みかんです。
 出オチ? まあ、そうですよね。
 こたつの上にいます。今、皮をむかれてまさに食べられるところです。
 皮をむかれてもまだみかんですけど、食べられたらみかんじゃなくなりますよね。何て呼ばれるんですかね。消化されてなくなるから何でもいいですかね。
 まあ食べ物なんで食べられるのは仕方ないんですけど、ひとつだけ心残りがあるんですよね。
 美味しいのはわかってるんですよ。絶対甘くてジューシーな自信ありますから。
 でもね、食べられると、食べた人の笑顔、見られないんですよ。
 だから耳を澄ますしかないんですよね。え、みかんに耳あるのかって? 物のたとえですよ。
 んじゃ、そういうことで。

「美味しい〜!」

(所要時間:5分)



12/28「冬休み」

 冬休みは忙しい。
 学校に行ってた子どもたちが1日中家にいる。それも元気いっぱいだ。家族全員の昼ご飯も作らないといけない。
「俺も冬休み欲しいなぁ」
 そう独りごちると、妻が
「主夫の腕の見せ所だね」
 と返してきた。俺が去年言ってたセリフだ。
「ちくしょー!」
 脚にまとわりつく息子たちを担ぎ、俺は大掃除の続きに戻った。早いとこ掃除のやり方教えて戦力になってもらうしかない。

(所要時間:6分)

12/28/2023, 1:56:03 AM

12/27「手ぶくろ」

「寒い」
 口をとがらせて、僕の手袋に手をよじよじとねじ込んでくる。
「入らんて」
「じゃぁ脱げ」
「横暴」
「だって左右履いてんじゃん! 2つあるじゃん!」
「いや2つで1セットでしょうよ手袋ってものは」
「雪見だいふくだって2つで1セットだけど2人で分けるもんだろー?」
「偏見」
「そんなことない!」
「分けてくれたことないくせに」
「ぐぬっ」
 大人しくなった。ふふっと笑う。
「しょうがないな」
 右の手袋を脱いで渡し、空いた右手で手を繋いで、コートのポケットに入れてやる。
「え。これ恋人同士がやるやつじゃん」
「違うの?」
「違わない。でもさ、」
 手をスポンと抜き取られる。腕を引っ張られ、後ろから回して組んだ。
「こっちの方があったかい」

(所要時間:8分)



12/26「変わらないものはない」

 クリスマスが過ぎ、年の瀬が来る。今年も世の中は目まぐるしく変わった。変わらないものがあるとすれば、俺のくたびれた生活ぐらいだ。
 長い溜息をつくと、LINEの呼び出し音が鳴った。高校の時の憧れだった先輩からだ。
「年末年始久しぶりに戻るんだけど、どうよ? 会わない?」
「あ、いいっすね。丁度暇してます」
「よっしゃ。積もる話もあるからさ、久々に飲みながら長話しようぜ」
「だったら俺んちでいいですよ。全然引っ越してないですし。掃除しときます」
「いいの? じゃあまた後で連絡するわ」
 通話が切れる。いつもと変わらない年末と思っていたが、少しはいい年になりそうな気がしてきた。

(所要時間:9分)

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