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1/12「ずっとこのまま」

「ふぁ…あふ」
 大あくびをして、頭から布団をかぶる。程なくしてアラームが鳴った。
「スヌーズ」
 その一言で、スマホは従順に10分間沈黙する。布団をかぶり直して、深く深く息を吐く。最高の時間だ。ずっとこのままでいたい。
 再びアラームが鳴り、またスヌーズ。
 何度か繰り返した僕は、会社からの電話で跳ね起きる事になる。

(所要時間:4分)




1/11「寒さが身に染みて」

 おかしいな。あなたがこんなにもそばにいるのに。
 手を繋いで、体をすり寄せて、口づけして、それでも。
 寒さが身に沁みて、眠れない。
 ずっとずっと、あなたと一緒にいた。これからもきっと、一緒にいる。それなのに。
 どうしてだろう。今日に限ってこんなにも寒い。

「今朝、お祖父ちゃんが亡くなったよ。お祖母ちゃんが布団でずっと寄り添ってた。もう認知症で誰の区別もつかないはずなのに」
「…ううん。きっと、お祖父ちゃんの事はわかってると思うよ」

(所要時間:7分)



1/10「20歳」

 20歳になったら死ぬと心に決めていた。
 果たして、その20歳の誕生日。死神が現れた。黒い猫耳のフードをかぶった女の子だ。
 …いやいやいや。待ってよ。こんな子どもって。
「ナメたらアカンよ、お兄ちゃん」
 しかも関西弁って。
「子どもでも関西弁でも死神は死神やからな。今からアンタの命もらうわ。えーっと」
 ぽんぽん、と女の子はポケットを叩いて探る。
「鎌、どっかに落としてもうたわ」
 そんなデカいもの落とす?! ていうか今ポケット探してなかった?
「お兄ちゃん、探してくれへん?」
 小さな牙を見せて、死神はにぱっと笑った。

(所要時間:6分)



1/9「三日月」

 やせ細った月が、夜空を懸命に照らそうとしている。無駄な足掻きだ。まるで俺と同じ。
 月に吠える、は届かぬ願いを指すのだったか。そもそも三日月に吠えた所で御利益はなさそうだ。
 行く場所はどこにもなかった。満月の夜の直後に村は焼かれた。
 復讐をしようにも、俺一人に何ができる。ならば人間に紛れて生きるのか。心を殺して生きるのか。
 次の満月まであと十日余り。その時俺はどうするのか。心を決めなければならない。

(所要時間:10分)



1/8「色とりどり」

 赤、黄、青、白、緑。様々な国の旗がはためく。
 赤、黄、青、白、緑。様々な肌の色の種族が集う。
 開催国の竜族の長が、片方の翼を広げて開会を宣言する。歓声が沸き起こった。
 今日から一ヶ月、平和の祭典が行われる。
 子どもたちは色とりどりの旗を背負い、色とりどりの絵を描いていく。彼らが巨大な魔法紙に自由に描いた夢が、次の5年の間に現実となるのだ。
 カラフルなペンで描かれた願いは、いつもひとつ。平和だ。

(所要時間:12分)

1/12/2024, 3:07:59 PM