1/7「雪」
雪を蹴散らしながらボールを蹴る。ドリブルからのシュート。だが雪の重さでコントロールが効かず、ゴールの手前に落ちる。
「行くぞー!」
キーパー役の兄がボールを投げる。ヘディングで受け止めると、飛び散った雪が目に入った。
膝までの雪が降り積もった朝、他に誰もいないグラウンド。遊び放題遊んで、大の字に寝転ぶ。雪に遮られて聴覚が消える。息は白く、空は澄んで青白い。
小さい頃の思い出だ。
今。雪の上に寝転んで、同じような空を見る。
サッカー少年は、少年の時代と共にサッカーを捨てた。けれどこの雪の冷たさは、温かく懐かしい。
(所要時間:10分)
1/6「君と一緒に」
カプセルに君を乗せ、ドアを閉めて、2基分の射出タイマーを掛ける。それから僕は隣のカプセルに入った。
カプセルは棺。命の灯を失った君と、共に宇宙に散るのだ。死亡管理官の僕にはそう難しい事ではなかった。
胸の上で手を組み、まぶたを閉じる。
僕は太陽に灼かれ、この広い宇宙を彷徨うだろう。君と一緒に、永遠に。
(所要時間:7分)
1/5「冬晴れ」
「憎らしいね」
白銀を照らす太陽に、姉貴は目を細めた。
かつてないほどの大雪だった。村のほとんどは雪に埋もれた。家も、倉庫も、人も、何もかも。
生き残った人々は、汗だくになって雪除けと懸命な呼びかけを続けている。もっとも、除けた雪を捨てる場所の確保もままならない状態だ。一晩中、いやそれ以上続く雪との戦いに、人々は疲れ切っている。
昨日の猛吹雪が嘘のように、今日の空は晴れ渡っていた。
恵みのはずの太陽と青い空を仰いで、俺はうなずくしかできなかった。
(所要時間:11分)
1/4「幸せとは」
童話の青い鳥が身近なところにいたように、幸せって案外近くにある、というけれど。
幸せなんてそんなにない。そんなにないものだからそれを幸せと感じるのかもしれない。
寒い部屋に帰ってきた。ため息とともにこたつの電源を入れ、ダル着に着替えて肩まで潜り込む。
「はーーーーー」
冷えきった体に当たる赤外線が温かい。
「あ」
あった。幸せ。
(所要時間:7分)
1/7/2024, 10:33:19 AM