12/25「クリスマスの過ごし方」
「クリスマスに恋人と過ごすのって、欧米から見るとだいぶ変なんだって」
「へぇー。ああ、あっちだと家族と過ごすんだっけ?」
「らしいよ。まあ確かに、クリスマス来るから恋人作って、クリスマス終わったら別れるとか、冷静に考えると変だよね」
「うん。じゃあ別れるのやめとく?」
「やめとくか」
「そうだね。来年もよろしく」
(所要時間:4分)
12/24「イブの夜」
「やれやれ、今年も忙しいな、っと」
そう言ってご主人様は次のプレゼントのデータを再生させる。
今どきは煙突もないし、ソリを止める場所もない。上手く枕元にプレゼントを置けても、朝に不審物があったと両親から通報されることもある。
だから、僕たちはもっぱらバーチャル世界から、いい子たちにプレゼントを贈りに行くんだ。今の子は学校も遊びもみんなそうだから。
子どもたちそれぞれの使う「部屋」に、おもちゃを転送していく。僕は隣でアドレスと転送ルートを確保するのが仕事。
明け方前には配り終えて、しょぼしょぼの目を瞬かせ、曲がった腰を伸ばす。
子どもたちの笑顔が楽しみだ。
(所要時間:10分)
12/23「プレゼント」
娘へのプレゼントなんて、今更思いつかない。
再婚した妻の勧めで贈ってみる事にしたが、娘の好みなど見当もつかなかった。
「余計なものもらうよりは、結局現金が一番なんじゃないか? それかお前が選んで渡すとか」
「それはそれ、これはこれ」
妻がぽんぽんと肩を叩く。
「最初から大当たりする必要はないと思うわよ」
「いや、そんなことないだろ…」
しぶしぶネットショッピングサイトを開く。何だったかのメーカーの化粧品だかを買いたいと言ってた気がするが、まるで思い出せない。
妻が笑う。
「そうやって考えることが、あなたにとって大事かもしれないから」
エスパーではない俺は、彼女の心中の言葉を聞き取るすべはない。
(所要時間:9分)
12/22「ゆずの香り」
「ふんふふ〜ん♪」
鼻歌交じりにフォークでざくざくと万遍なく穴を開け、お風呂の蓋を開ける。白い湯気の上がる湯船に放り込んで、また蓋を閉める。
週末のクリスマスイブのためのチキンを仕込んで、
「そろそろいいかな?」
脱衣所で脱いで風呂場に入り、
「寒っ!」
壁に熱いシャワーをかけて温める。
「さて、お待ちかね★」
風呂の蓋を取ると、ふわりと柚子の濃い匂い。
「ん〜、いいね!」
最高にゴキゲンな冬至!
…あ、カボチャ煮付けたのに食べるの忘れてた。
(所要時間:7分)
12/21「大空」
7機の戦闘機が基地を発つ。あの中のひとつに、あいつがいる。
病弱で何もできない俺の代わりに、あいつは飛行機乗りになった。国のために人を殺すなんてできる性格じゃなかったのに。
大空に飛び立っていく機体を見守り、そっと無事を祈る。ここから長く生き別れる事になるのを知らずに。
(所要時間:6 分)
12/20「ベルの音」
ジリリリリリリ…チン。
今時珍しいベル式の目覚まし時計の音。隣の部屋からだ。幸いこっちの方が早起きだから気にならないが、騒音だと言われても仕方ないんじゃなかろうかと毎度思う。
そしてある休みの日、異変は起こった。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリ…
止まる気配がない。隣人が起きないということだ。
まさか。最悪の想像が頭をよぎる。大家のばあちゃんに電話を入れ、鍵を開けて中に入ってもらうと―――
ベッドから半分ずり落ちた女が、爆睡していた。ゆり起こして話を聞くと、彼氏が浮気していたとかで酒を飲みすぎて目覚ましに全く気づかなかったらしい。あるのかそんなこと。
「付き合ってくださいよぉ…」
べそをかきながら女が言うと、大家さんはあらあらお邪魔ね、とにこにこしながら部屋を出ていった。いや、「付き合って」って、愚痴とかにだろ普通。あらぬ誤解が広まらないことを祈りつつ、俺は頭を抱えた。
(所要時間:12分)
12/19「寂しさ」
休日。窓の外の天気はいい。にも関わらず、頭から布団をかぶって私はひたすらごろごろしていた。
にゃーお、と鳴きながら隙間から猫が入ってくる。
「ねね子ぉ〜、お前だけだよぉ〜」
情けない声を出して捕まえてぎゅっと抱きしめる、はずが逃げられた。そうですか嫌ですか。
彼氏と別れた。物の減った部屋の中はガランとしている。私の心の中もだ。
寂しいと思うのは何だか悔しい。かと言って認めないわけにも行かない。無気力。
まあ、今日一日ぐらい、あいつのことを考えながらごろごろしてやろうじゃないの。明日からは綺麗サッパリ忘れてやるんだから。
絶対忘れてやるんだからね!
(所要時間:7分)
12/18「冬は一緒に」
「今年も行く?」
「行きます? いいッスよ」
そんなわけで後輩とやって来たのは、一面の氷の湖。ドリルで氷に穴をあけ、釣り糸を垂らす。折りたたみの小さな椅子に座ってしばらく待てば、小さな釣り竿の先がチョチョイと動いた。引き上げる。
冬の陽光を反射して白く光る細長い魚が、2匹、3匹。ワカサギだ。
「いいッスね! オレも釣りますよ〜?」
「気合い入れたって釣果はそう変わらんだろ」
「そんなコトないッスよ! 今夜は唐揚げとビールで決まりッス!」
「いいねぇ」
ジョッキを打ち合わせる音と、熱々のワカサギの唐揚げを口に入れる瞬間を想像をしながら、思わず笑みがこぼれた。
(所要時間:9分)
12/17「とりとめもない話」
電車ってさあ、どこまで行けるのかな。線路ってどこまで敷いてあるんだろ。スリーナインみたいに空中に浮いてて飛んで行けるとこあったら面白いな。どこまで行きたい?
あれってその後は線路ないんだっけ? でも駅があるってことは、通るとこ決まってるんじゃない? 自由に行けるわけじゃないんじゃないかな。
まあどこで降りるか決めるだけでも楽しそうじゃん。えーと、なんか鳥がいっぱいいるとことかあったよね。
多分それ宮沢賢治混じってる。
そんな話をするの、結構楽しいんだよね。この関係、好きだなぁ。
(所要時間:6分)
12/16「風邪」
伝染せば治るって言うからさぁ、なんて言いながらアタシを布団に引っ張り込もうとする。待て待て、アタシが風邪引いてアンタが治っても、誰がご飯とか作るのよ。
コンビニ飯でいいって? いやいやいや。そんなん金が続かないでしょ。そもそも働いてんのアタシなんだし。ていうか病院行きなよ。
薬飲むのがイヤ? 拗ねた顔したってだーめ。
めんどくさい? そんなこと言ってないで体大事にしなよ。
ダメ男の相手をしていたら、大きなくしゃみが一つ出た。
(所要時間:6分)
12/15「雪を待つ」
春を待つ草花のように。
夏を待つ虫たちのように。
秋を待つ渡り鳥たちのように。
私は冬を待ち、雪を待つ。
降り積む雪をふわりと巻き取り、結晶を解いて糸を紡いで、ひとつの衣を織り上げる。
それは新しき年の神のための、毎年の捧げ物。
その衣を纏った神は、生き物を十分に眠らせ休ませて、春を迎えさせるのだ。
私は冬の巫女。
この年の終わりも、雪の衣を織り上げる。
(所要時間:9分)
12/14「イルミネーション」
小さい頃に見たイルミネーション。こんなに美しいものがこの世にある、という事に感動した。
学生の時に見たイルミネーション。友人4人で来たけど、恋愛ごとでこじれた女の子が泣き出してそれどころじゃなかった。
大人になって見るイルミネーション。毎年寒い中でこんなに電球を取り付ける業者さん大変だなぁと思う。
じいさんになった時に見るイルミネーションは、どんな風に見えるんだろうな。
雪で転んで骨折しないように、少し鍛えておくとするか。
(所要時間:6分)
12/13「愛を注いで」
ミニサボテンを買った。
前回は枯らしてしまって弟に散々からかわれたけど、今回はちゃんと調べた。案外、水を多めにあげてもいいものらしい。
小さなじょうろも買った。これで水をやって、ゆっくりと愛を注いで、花を咲かせるんだ。そうしたら、今の彼氏ともきっと一生上手く行く!っていう願掛け。
「楽しみだな〜」
にこにこしながら水をやる毎日は、あっという間に過ぎ去って―――
「…根腐れ…」
「愛が重いんじゃない?」
(所要時間:5分)
12/12「心と心」
葬儀が終わり、片付けをしている時、孫の一人が話しかけてきた。
「おじいちゃん、大往生だったね」
「そうだねぇ」
「おばあちゃん、あんまり気を落とさないでね」
心配そうに身をかがめて、孫が顔を覗き込む。
「大丈夫。片方が天国にいても、心と心はつながってるものですよ」
「そっか…。じゃあ、私はこれで戻るけど、元気でね」
孫の背中を見送り、窓の外を見る。
「夫婦ですもの、心と心はつながってるものです。…ねえ、おじいさん?」
『ああ。なにせ、お前さんはエスパーだからな』
「あら、天国でも余計なことバラしちゃ嫌ですよ?」
(所要時間:7分)