12/20「ベルの音」
ジリリリリリリ…チン。
今時珍しいベル式の目覚まし時計の音。隣の部屋からだ。幸いこっちの方が早起きだから気にならないが、騒音だと言われても仕方ないんじゃなかろうかと毎度思う。
そしてある休みの日、異変は起こった。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリ…
止まる気配がない。隣人が起きないということだ。
まさか。最悪の想像が頭をよぎる。大家のばあちゃんに電話を入れ、鍵を開けて中に入ってもらうと―――
ベッドから半分ずり落ちた女が、爆睡していた。ゆり起こして話を聞くと、彼氏が浮気していたとかで酒を飲みすぎて目覚ましに全く気づかなかったらしい。あるのかそんなこと。
「付き合ってくださいよぉ…」
べそをかきながら女が言うと、大家さんはあらあらお邪魔ね、とにこにこしながら部屋を出ていった。いや、「付き合って」って、愚痴とかにだろ普通。あらぬ誤解が広まらないことを祈りつつ、俺は頭を抱えた。
(所要時間:12分)
12/19「寂しさ」
休日。窓の外の天気はいい。にも関わらず、頭から布団をかぶって私はひたすらごろごろしていた。
にゃーお、と鳴きながら隙間から猫が入ってくる。
「ねね子ぉ〜、お前だけだよぉ〜」
情けない声を出して捕まえてぎゅっと抱きしめる、はずが逃げられた。そうですか嫌ですか。
彼氏と別れた。物の減った部屋の中はガランとしている。私の心の中もだ。
寂しいと思うのは何だか悔しい。かと言って認めないわけにも行かない。無気力。
まあ、今日一日ぐらい、あいつのことを考えながらごろごろしてやろうじゃないの。明日からは綺麗サッパリ忘れてやるんだから。
絶対忘れてやるんだからね!
(所要時間:7分)
12/18「冬は一緒に」
「今年も行く?」
「行きます? いいッスよ」
そんなわけで後輩とやって来たのは、一面の氷の湖。ドリルで氷に穴をあけ、釣り糸を垂らす。折りたたみの小さな椅子に座ってしばらく待てば、小さな釣り竿の先がチョチョイと動いた。引き上げる。
冬の陽光を反射して白く光る細長い魚が、2匹、3匹。ワカサギだ。
「いいッスね! オレも釣りますよ〜?」
「気合い入れたって釣果はそう変わらんだろ」
「そんなコトないッスよ! 今夜は唐揚げとビールで決まりッス!」
「いいねぇ」
ジョッキを打ち合わせる音と、熱々のワカサギの唐揚げを口に入れる瞬間を想像をしながら、思わず笑みがこぼれた。
(所要時間:9分)
12/21/2023, 3:17:25 AM