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12/12/2023, 12:28:06 AM

12/11「何でもないフリ」

 ずっとずっと好きで、好きで、好きで、大好きで。
 手を繋いだり、抱きしめたり、抱きしめられたり、キスしたり、その先も何度も想像してる。
 今だって、机に頬杖をつきながら、アイナの横顔を盗み見て、想像してる。
「ん?」
 気づかれた。にっこり笑う。
「どしたの、アイナ。急にこっち見て」
「いや、なんか視線感じた気がして…。まあ気のせいか」
 想像だけじゃとっくに物足りない。いっそ気づいてくれればいいのに。

(所要時間:8分)



12/10「仲間」

 ろうそくの灯りの下、複数の男に囲まれ、1枚の紙とにらみ合いながら、親指の先をナイフで傷つけた。
 金が必要だった。どうしてもだ。そのためになら何でもする。連れて来られたのがここだ。
 血判状に指を押し付ける。向かいに座っていた男が、紙を取り上げる。
「これであんたは、抜けられない」
 無表情だった男が、ニイッと笑った。
「よろしくな、兄弟」

(所要時間:6分)



12/9「手を繋いで」

「大丈夫、怖くない」
 そう言われて、おずおずと手を出す。中途半端に伸ばした手を、キロと名乗った少年は掴んだ。
「行くよ」
 引っ張られて歩き出す。
 スマホを見ていてうっかり落ちたマンホールの底に広がっていた世界。地下世界か、あるいは異世界なのだろうか。
 不安はいっぱいだが、キロの手は温かかった。

(所要時間:6分)



12/8「ありがとう、ごめんね」

 拾った時は、ほんの小さな子猫だった。
 初めてミルクを飲んでくれた時は、本当にほっとしたっけ。
 だんだん近くに来てくれるようになって、体を擦り寄せてくるようになって。
 甘えた声も出してくれるようになった。
 仕事で凹んだ日も、恋人と別れた日も、キミがいてくれたから頑張れた。
 キミと出会ってからずっと、キミは家族だった。

「…お隣さんの家に警察が…」
「…強盗が入ったらしくて…」
「…亡くなったとか…」

 今まで、ありがとう。
 置いて逝って、ごめんね。

(所要時間:8分)

12/8/2023, 8:50:09 AM

12/7「部屋の片隅で」

 部屋の片隅で、私は息を潜めている。
 何としても食糧を確保して「巣」に戻る必要があった。「巣」には子供や若者、年寄りたちが、全部で30ほど。皆、私を待っている。
 そして何より、私のお腹には、あの人の子どもがいる。かつて毒ガスでやられたあの人の、大事な子どもが。
「いたぞ!」
 見つかった。私は全力で走る。
「くらえ! ゴ○ジェット!!」
 プシューーーーーーーーーー
「仕留めた?」
「多分! ビニール袋持ってきて! メスだったら卵持ってるかも知れないから」
「えー、ゴミ箱にコイツいると思ったらイヤすぎる。トイレに流せば?」
 そんな会話を遠くに聞きながら、私の意識は途絶えた。

(所要時間:9分)



12/6「逆さま」

「はちにんこ」
 聞き慣れない言葉に振り向くと、宙に少年がぶら下がっていた。
「?界世のまさ逆、ここ」
「ええと、いや、君が逆さまなんだと思うよ」
 少年はきょとんとして首を傾げる。
「かなちっどは界世のくぼ。かっそ」
「え。えー、上? いや、下かな?」
 適当なことを言うと、
「イバイバ。うとがりあ」
 そう手を振って、少年は空に落ちていった。
 彼が無事に帰れるといいんだけど。

(所要時間:8分)



12/5「眠れないほど」

 ドンドンドン。
 来た。借金取りだ。
「ブチ殺すぞこの野郎!」
 ドアの外から二〜三人のドスの効いた男の声。布団をかぶって震えるしかできない。
 鍵はかかっているはず。かかっているはずだ。
 だが、ガチャガチャと乱暴にノブを回す音の後、なぜかドアは乱暴に開いて―――
 目を覚ました。
 汗だくだった。部屋はしんとして、外も虫の声すらない。時計を見る。午前1時。
 ああ。今夜も、眠れないほど怖い夢を見た。

(所要時間:8分)



12/4「夢と現実」

 夢は夢。現実とは区別をつけろ。そう言われてきた。
 プロバスケットボール選手になりたかった。部活に入り、中学で大会に出、親の反対を押し切ってバスケの強い高校に入った。
 プロにはなれなかった。それが、現実。
 今、私は子どもたちにバスケを教えている。
 プロを目指す子どもたちを全力で鍛え、応援する。これが現実から生じた、瓢箪から駒みたいな、私の夢。

(所要時間:6分)

12/4/2023, 8:32:39 AM

12/3「さよならは言わないで」

 彼女が言おうとした言葉を遮って言った。
「必ず探しに来る。待っているといい」
 にやりと笑うと、彼女は今にも涙のこぼれそうだった目を見開いた。
「でも…」
「なに、婆さんになる前には見つけ出す。もし婆さんになったってあんたはきっと綺麗だ」
 巫女としてこの森に暮らすこととなる彼女。踏み入れたら最後、この森から出ることは叶わない。
「必ず探しに来る」
 もう一度、彼女の心に強く押し付けるようにそう言った。

(所要時間:7分)



12/2「光と闇の狭間で」

「こ…の、力を……」
 奴はゆっくりと、私の方に手を伸ばす。
「弟、に……」
 唐突に理解した。
 奴が魔物化したのは、すべて病弱な母親と弟のためだ。群れで暮らし、仲間同士の治癒を行う魔物がいる。その力を取り込んだのだ。
「……可愛そうに」
 剣を構える。倒すしかない。倒せ、という命令だ。
 何が、正しいのだろう。
 その命令を出したのは、この1年で権力の座についた、奴の弟だというのに。

(所要時間:8分)



12/1「距離」

 小さい頃の話。よく一緒に遊ぶ近所の悪ガキどもがいた。
 と言っても、小さなあたしは彼らについて歩くのがやっとで、見様見真似で遊びの真似をするばかり。ろくにできてはいなかった。
 その割にませっ子だったのか、彼らの中にちょっと好きな子がいた。
 雨上がりのある日、水たまりをジャンプする彼らの後について、あたしもジャンプ。あたしの足の長さは水たまりの直径には足りず、着地で滑って思いっきり尻餅をついた。
「うわっ、汚え!」
 憧れのお兄ちゃんはそんな言葉を吐いて走り去り、2〜3人が後について行った。
 ぽつんと残されたあたしに、いつも目立たないお兄ちゃんが、少し迷った挙げ句に手を差し伸べた。
「大丈夫?」
 まあ色々略するけど、それが今の彼氏です。

(所要時間:9分)



11/30「泣かないで」

「なあ…泣かないでよ…」
 そう言っても、君は泣きじゃくるばかりだった。
 二日燃え続けた村はようやく鎮火し、帝国の兵士たちがうろついているのがこの山から見える。俺を探しに来たんだ。わかっていた。竜を味方につければ、一つの軍に相当するから。
「大丈夫だよ。俺が守るから…」
 尻尾で君の頭を撫でた。

「なあ…泣かないでよ…」
 肺から血と共に漏れ出る空気で、声はひどく小さかった。
 あれから七年。もう立派に成人しようというのに、君は泣きじゃくるばかりだ。
「大丈夫だよ。君は一人で生きられるから…」
 君を守れたから、俺はそれでいいのに。

(所要時間:8分)

11/30/2023, 12:13:17 AM

11/29「冬のはじまり」

  息が白い。
「冬だねぇ…」
「え」
 北国生まれの彼氏が意外そうに眉を跳ね上げる。
「雪降ってないのに?」
「え」
 今度はあたしが眉を跳ね上げる。
「雪なんて滅多に降らないよ。降ったら電車止まるし」
「え? クリスマスとか積もらないの!?」
「うーん、雪ちらつくことはあるけど」
「東京のホワイトクリスマスとか嘘っぱちじゃん…」
「まあでも、寒いは寒いよ?」
 ダウンの胴と袖の隙間に腕を回してぎゅっと組む。ちょっとあったかい。
「とりあえず、健康で冬越えような」
「だな」
 付き合って一年目。どんな冬が待っているやら。

(所要時間:8分)



11/28「終わらせないで」

 先生の弾くしっかりとした低和音。それにリズム良く乗せる俺のスタッカート。
 先生と連弾曲を弾く。俺のここ最近の一番の楽しみだ。
 素早く楽譜をめくる。もう最後のページだ。心地よい時間が終わってしまう。
 以前、終わるのがつまらないと言えば、また次の曲を覚えればいいと先生は笑った。でも俺は、今の曲も過去の曲も、いつでも、永遠に先生と弾いていたい。
 ―――俺が取り憑かれているのは、一人では決して出せないピアノの織り成す美しい音色なのか、それとも。

(所要時間:9分)

11/28/2023, 12:08:34 AM

11/27「愛情」

 やめてほしいな。勘違いしちゃうから。
 その優しさはいつだって優しさにすぎなくて、決して愛情じゃない。嫌になるほど知っている。
 ほんと、そういうとこ。あんたのことなんか大嫌い。

 何で毎回こんなに優しくしてると思ってるんだ。
 ずっとずっと一緒にいるのに、一番近くにいるはずなのに、手も繋がせてくれない。
 お前だけなのに。この、鈍感。


(所要時間:6分)



11/26「微熱」

 何度計っても、37度2分を超えない。体はだるいのに、体温計は免罪符にはなってくれなそうだ。
「会社休みたいなぁ…」
 いっそインフルとか発症しちまえー、と思うも、一人暮らしでアレはそれはそれでつらい。
 布団から出ないとそろそろ遅刻しそうだ。仮病使っちゃおうか。38度あるんですー、とか。いや今って熱あったら証明書とか提出いるんだっけ? いらないよね?
「よし、休も!」
 余りまくった有給を使うなら今だ。微熱は相変わらずだけど、そう決めると体は現金で、スッと布団から起きられた。
 さて、丸一日引きこもってゲームでもするかー。

(所要時間:10分)



11/25「太陽の下で」

 照りつける太陽の下、傘をかぶって畑仕事をしている祖母に、そっと近寄って声を掛ける。
「ばあちゃん、俺…」
「知っとるさ。東京さ行くんだろ」
 腰を伸ばして、祖母は日焼けした顔でにかっと笑った。
「なあに、寂しかぁないさ。お天道様の下にいるのは一緒だ。頑張れや」

 ビル街のふもとで、太陽を仰ぐ。
 この空はいつだって、故郷につながっている。

(所要時間:8分)



11/24「セーター」

 首周りを包むような、…何て言うんだ。タートルネックは違う気がする。こう、首のあたりを折り返して着るタイプのセーターが、好きだ。
 いや、俺が着るんじゃなく。
 彼女が可愛すぎて、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の真逆を行ってる。彼女可愛きゃセーターまで可愛い。
 彼女がそのセーターを着て、その小さな顔が小首を傾げるとか。襟?に細い指が触れたりするとか。もうね、最高。ヘキだ。
 流行とかそういうのには疎いけど、このセーターはなくならないでほしい。そして、冬にはこのセーターを着てずっと隣りにいてほしい。
 …いや、それって彼女を流行遅れにしちゃうかなぁ。うーん、難しい。

(所要時間:8分)

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