12/11「何でもないフリ」
ずっとずっと好きで、好きで、好きで、大好きで。
手を繋いだり、抱きしめたり、抱きしめられたり、キスしたり、その先も何度も想像してる。
今だって、机に頬杖をつきながら、アイナの横顔を盗み見て、想像してる。
「ん?」
気づかれた。にっこり笑う。
「どしたの、アイナ。急にこっち見て」
「いや、なんか視線感じた気がして…。まあ気のせいか」
想像だけじゃとっくに物足りない。いっそ気づいてくれればいいのに。
(所要時間:8分)
12/10「仲間」
ろうそくの灯りの下、複数の男に囲まれ、1枚の紙とにらみ合いながら、親指の先をナイフで傷つけた。
金が必要だった。どうしてもだ。そのためになら何でもする。連れて来られたのがここだ。
血判状に指を押し付ける。向かいに座っていた男が、紙を取り上げる。
「これであんたは、抜けられない」
無表情だった男が、ニイッと笑った。
「よろしくな、兄弟」
(所要時間:6分)
12/9「手を繋いで」
「大丈夫、怖くない」
そう言われて、おずおずと手を出す。中途半端に伸ばした手を、キロと名乗った少年は掴んだ。
「行くよ」
引っ張られて歩き出す。
スマホを見ていてうっかり落ちたマンホールの底に広がっていた世界。地下世界か、あるいは異世界なのだろうか。
不安はいっぱいだが、キロの手は温かかった。
(所要時間:6分)
12/8「ありがとう、ごめんね」
拾った時は、ほんの小さな子猫だった。
初めてミルクを飲んでくれた時は、本当にほっとしたっけ。
だんだん近くに来てくれるようになって、体を擦り寄せてくるようになって。
甘えた声も出してくれるようになった。
仕事で凹んだ日も、恋人と別れた日も、キミがいてくれたから頑張れた。
キミと出会ってからずっと、キミは家族だった。
「…お隣さんの家に警察が…」
「…強盗が入ったらしくて…」
「…亡くなったとか…」
今まで、ありがとう。
置いて逝って、ごめんね。
(所要時間:8分)
12/7「部屋の片隅で」
部屋の片隅で、私は息を潜めている。
何としても食糧を確保して「巣」に戻る必要があった。「巣」には子供や若者、年寄りたちが、全部で30ほど。皆、私を待っている。
そして何より、私のお腹には、あの人の子どもがいる。かつて毒ガスでやられたあの人の、大事な子どもが。
「いたぞ!」
見つかった。私は全力で走る。
「くらえ! ゴ○ジェット!!」
プシューーーーーーーーーー
「仕留めた?」
「多分! ビニール袋持ってきて! メスだったら卵持ってるかも知れないから」
「えー、ゴミ箱にコイツいると思ったらイヤすぎる。トイレに流せば?」
そんな会話を遠くに聞きながら、私の意識は途絶えた。
(所要時間:9分)
12/6「逆さま」
「はちにんこ」
聞き慣れない言葉に振り向くと、宙に少年がぶら下がっていた。
「?界世のまさ逆、ここ」
「ええと、いや、君が逆さまなんだと思うよ」
少年はきょとんとして首を傾げる。
「かなちっどは界世のくぼ。かっそ」
「え。えー、上? いや、下かな?」
適当なことを言うと、
「イバイバ。うとがりあ」
そう手を振って、少年は空に落ちていった。
彼が無事に帰れるといいんだけど。
(所要時間:8分)
12/5「眠れないほど」
ドンドンドン。
来た。借金取りだ。
「ブチ殺すぞこの野郎!」
ドアの外から二〜三人のドスの効いた男の声。布団をかぶって震えるしかできない。
鍵はかかっているはず。かかっているはずだ。
だが、ガチャガチャと乱暴にノブを回す音の後、なぜかドアは乱暴に開いて―――
目を覚ました。
汗だくだった。部屋はしんとして、外も虫の声すらない。時計を見る。午前1時。
ああ。今夜も、眠れないほど怖い夢を見た。
(所要時間:8分)
12/4「夢と現実」
夢は夢。現実とは区別をつけろ。そう言われてきた。
プロバスケットボール選手になりたかった。部活に入り、中学で大会に出、親の反対を押し切ってバスケの強い高校に入った。
プロにはなれなかった。それが、現実。
今、私は子どもたちにバスケを教えている。
プロを目指す子どもたちを全力で鍛え、応援する。これが現実から生じた、瓢箪から駒みたいな、私の夢。
(所要時間:6分)
12/3「さよならは言わないで」
彼女が言おうとした言葉を遮って言った。
「必ず探しに来る。待っているといい」
にやりと笑うと、彼女は今にも涙のこぼれそうだった目を見開いた。
「でも…」
「なに、婆さんになる前には見つけ出す。もし婆さんになったってあんたはきっと綺麗だ」
巫女としてこの森に暮らすこととなる彼女。踏み入れたら最後、この森から出ることは叶わない。
「必ず探しに来る」
もう一度、彼女の心に強く押し付けるようにそう言った。
(所要時間:7分)
12/2「光と闇の狭間で」
「こ…の、力を……」
奴はゆっくりと、私の方に手を伸ばす。
「弟、に……」
唐突に理解した。
奴が魔物化したのは、すべて病弱な母親と弟のためだ。群れで暮らし、仲間同士の治癒を行う魔物がいる。その力を取り込んだのだ。
「……可愛そうに」
剣を構える。倒すしかない。倒せ、という命令だ。
何が、正しいのだろう。
その命令を出したのは、この1年で権力の座についた、奴の弟だというのに。
(所要時間:8分)
12/1「距離」
小さい頃の話。よく一緒に遊ぶ近所の悪ガキどもがいた。
と言っても、小さなあたしは彼らについて歩くのがやっとで、見様見真似で遊びの真似をするばかり。ろくにできてはいなかった。
その割にませっ子だったのか、彼らの中にちょっと好きな子がいた。
雨上がりのある日、水たまりをジャンプする彼らの後について、あたしもジャンプ。あたしの足の長さは水たまりの直径には足りず、着地で滑って思いっきり尻餅をついた。
「うわっ、汚え!」
憧れのお兄ちゃんはそんな言葉を吐いて走り去り、2〜3人が後について行った。
ぽつんと残されたあたしに、いつも目立たないお兄ちゃんが、少し迷った挙げ句に手を差し伸べた。
「大丈夫?」
まあ色々略するけど、それが今の彼氏です。
(所要時間:9分)
11/30「泣かないで」
「なあ…泣かないでよ…」
そう言っても、君は泣きじゃくるばかりだった。
二日燃え続けた村はようやく鎮火し、帝国の兵士たちがうろついているのがこの山から見える。俺を探しに来たんだ。わかっていた。竜を味方につければ、一つの軍に相当するから。
「大丈夫だよ。俺が守るから…」
尻尾で君の頭を撫でた。
「なあ…泣かないでよ…」
肺から血と共に漏れ出る空気で、声はひどく小さかった。
あれから七年。もう立派に成人しようというのに、君は泣きじゃくるばかりだ。
「大丈夫だよ。君は一人で生きられるから…」
君を守れたから、俺はそれでいいのに。
(所要時間:8分)
11/29「冬のはじまり」
息が白い。
「冬だねぇ…」
「え」
北国生まれの彼氏が意外そうに眉を跳ね上げる。
「雪降ってないのに?」
「え」
今度はあたしが眉を跳ね上げる。
「雪なんて滅多に降らないよ。降ったら電車止まるし」
「え? クリスマスとか積もらないの!?」
「うーん、雪ちらつくことはあるけど」
「東京のホワイトクリスマスとか嘘っぱちじゃん…」
「まあでも、寒いは寒いよ?」
ダウンの胴と袖の隙間に腕を回してぎゅっと組む。ちょっとあったかい。
「とりあえず、健康で冬越えような」
「だな」
付き合って一年目。どんな冬が待っているやら。
(所要時間:8分)
11/28「終わらせないで」
先生の弾くしっかりとした低和音。それにリズム良く乗せる俺のスタッカート。
先生と連弾曲を弾く。俺のここ最近の一番の楽しみだ。
素早く楽譜をめくる。もう最後のページだ。心地よい時間が終わってしまう。
以前、終わるのがつまらないと言えば、また次の曲を覚えればいいと先生は笑った。でも俺は、今の曲も過去の曲も、いつでも、永遠に先生と弾いていたい。
―――俺が取り憑かれているのは、一人では決して出せないピアノの織り成す美しい音色なのか、それとも。
(所要時間:9分)
11/27「愛情」
やめてほしいな。勘違いしちゃうから。
その優しさはいつだって優しさにすぎなくて、決して愛情じゃない。嫌になるほど知っている。
ほんと、そういうとこ。あんたのことなんか大嫌い。
何で毎回こんなに優しくしてると思ってるんだ。
ずっとずっと一緒にいるのに、一番近くにいるはずなのに、手も繋がせてくれない。
お前だけなのに。この、鈍感。
(所要時間:6分)
11/26「微熱」
何度計っても、37度2分を超えない。体はだるいのに、体温計は免罪符にはなってくれなそうだ。
「会社休みたいなぁ…」
いっそインフルとか発症しちまえー、と思うも、一人暮らしでアレはそれはそれでつらい。
布団から出ないとそろそろ遅刻しそうだ。仮病使っちゃおうか。38度あるんですー、とか。いや今って熱あったら証明書とか提出いるんだっけ? いらないよね?
「よし、休も!」
余りまくった有給を使うなら今だ。微熱は相変わらずだけど、そう決めると体は現金で、スッと布団から起きられた。
さて、丸一日引きこもってゲームでもするかー。
(所要時間:10分)
11/25「太陽の下で」
照りつける太陽の下、傘をかぶって畑仕事をしている祖母に、そっと近寄って声を掛ける。
「ばあちゃん、俺…」
「知っとるさ。東京さ行くんだろ」
腰を伸ばして、祖母は日焼けした顔でにかっと笑った。
「なあに、寂しかぁないさ。お天道様の下にいるのは一緒だ。頑張れや」
ビル街のふもとで、太陽を仰ぐ。
この空はいつだって、故郷につながっている。
(所要時間:8分)
11/24「セーター」
首周りを包むような、…何て言うんだ。タートルネックは違う気がする。こう、首のあたりを折り返して着るタイプのセーターが、好きだ。
いや、俺が着るんじゃなく。
彼女が可愛すぎて、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の真逆を行ってる。彼女可愛きゃセーターまで可愛い。
彼女がそのセーターを着て、その小さな顔が小首を傾げるとか。襟?に細い指が触れたりするとか。もうね、最高。ヘキだ。
流行とかそういうのには疎いけど、このセーターはなくならないでほしい。そして、冬にはこのセーターを着てずっと隣りにいてほしい。
…いや、それって彼女を流行遅れにしちゃうかなぁ。うーん、難しい。
(所要時間:8分)