12/7「部屋の片隅で」
部屋の片隅で、私は息を潜めている。
何としても食糧を確保して「巣」に戻る必要があった。「巣」には子供や若者、年寄りたちが、全部で30ほど。皆、私を待っている。
そして何より、私のお腹には、あの人の子どもがいる。かつて毒ガスでやられたあの人の、大事な子どもが。
「いたぞ!」
見つかった。私は全力で走る。
「くらえ! ゴ○ジェット!!」
プシューーーーーーーーーー
「仕留めた?」
「多分! ビニール袋持ってきて! メスだったら卵持ってるかも知れないから」
「えー、ゴミ箱にコイツいると思ったらイヤすぎる。トイレに流せば?」
そんな会話を遠くに聞きながら、私の意識は途絶えた。
(所要時間:9分)
12/6「逆さま」
「はちにんこ」
聞き慣れない言葉に振り向くと、宙に少年がぶら下がっていた。
「?界世のまさ逆、ここ」
「ええと、いや、君が逆さまなんだと思うよ」
少年はきょとんとして首を傾げる。
「かなちっどは界世のくぼ。かっそ」
「え。えー、上? いや、下かな?」
適当なことを言うと、
「イバイバ。うとがりあ」
そう手を振って、少年は空に落ちていった。
彼が無事に帰れるといいんだけど。
(所要時間:8分)
12/5「眠れないほど」
ドンドンドン。
来た。借金取りだ。
「ブチ殺すぞこの野郎!」
ドアの外から二〜三人のドスの効いた男の声。布団をかぶって震えるしかできない。
鍵はかかっているはず。かかっているはずだ。
だが、ガチャガチャと乱暴にノブを回す音の後、なぜかドアは乱暴に開いて―――
目を覚ました。
汗だくだった。部屋はしんとして、外も虫の声すらない。時計を見る。午前1時。
ああ。今夜も、眠れないほど怖い夢を見た。
(所要時間:8分)
12/4「夢と現実」
夢は夢。現実とは区別をつけろ。そう言われてきた。
プロバスケットボール選手になりたかった。部活に入り、中学で大会に出、親の反対を押し切ってバスケの強い高校に入った。
プロにはなれなかった。それが、現実。
今、私は子どもたちにバスケを教えている。
プロを目指す子どもたちを全力で鍛え、応援する。これが現実から生じた、瓢箪から駒みたいな、私の夢。
(所要時間:6分)
12/8/2023, 8:50:09 AM