12/3「さよならは言わないで」
彼女が言おうとした言葉を遮って言った。
「必ず探しに来る。待っているといい」
にやりと笑うと、彼女は今にも涙のこぼれそうだった目を見開いた。
「でも…」
「なに、婆さんになる前には見つけ出す。もし婆さんになったってあんたはきっと綺麗だ」
巫女としてこの森に暮らすこととなる彼女。踏み入れたら最後、この森から出ることは叶わない。
「必ず探しに来る」
もう一度、彼女の心に強く押し付けるようにそう言った。
(所要時間:7分)
12/2「光と闇の狭間で」
「こ…の、力を……」
奴はゆっくりと、私の方に手を伸ばす。
「弟、に……」
唐突に理解した。
奴が魔物化したのは、すべて病弱な母親と弟のためだ。群れで暮らし、仲間同士の治癒を行う魔物がいる。その力を取り込んだのだ。
「……可愛そうに」
剣を構える。倒すしかない。倒せ、という命令だ。
何が、正しいのだろう。
その命令を出したのは、この1年で権力の座についた、奴の弟だというのに。
(所要時間:8分)
12/1「距離」
小さい頃の話。よく一緒に遊ぶ近所の悪ガキどもがいた。
と言っても、小さなあたしは彼らについて歩くのがやっとで、見様見真似で遊びの真似をするばかり。ろくにできてはいなかった。
その割にませっ子だったのか、彼らの中にちょっと好きな子がいた。
雨上がりのある日、水たまりをジャンプする彼らの後について、あたしもジャンプ。あたしの足の長さは水たまりの直径には足りず、着地で滑って思いっきり尻餅をついた。
「うわっ、汚え!」
憧れのお兄ちゃんはそんな言葉を吐いて走り去り、2〜3人が後について行った。
ぽつんと残されたあたしに、いつも目立たないお兄ちゃんが、少し迷った挙げ句に手を差し伸べた。
「大丈夫?」
まあ色々略するけど、それが今の彼氏です。
(所要時間:9分)
11/30「泣かないで」
「なあ…泣かないでよ…」
そう言っても、君は泣きじゃくるばかりだった。
二日燃え続けた村はようやく鎮火し、帝国の兵士たちがうろついているのがこの山から見える。俺を探しに来たんだ。わかっていた。竜を味方につければ、一つの軍に相当するから。
「大丈夫だよ。俺が守るから…」
尻尾で君の頭を撫でた。
「なあ…泣かないでよ…」
肺から血と共に漏れ出る空気で、声はひどく小さかった。
あれから七年。もう立派に成人しようというのに、君は泣きじゃくるばかりだ。
「大丈夫だよ。君は一人で生きられるから…」
君を守れたから、俺はそれでいいのに。
(所要時間:8分)
12/4/2023, 8:32:39 AM