11/29「冬のはじまり」
息が白い。
「冬だねぇ…」
「え」
北国生まれの彼氏が意外そうに眉を跳ね上げる。
「雪降ってないのに?」
「え」
今度はあたしが眉を跳ね上げる。
「雪なんて滅多に降らないよ。降ったら電車止まるし」
「え? クリスマスとか積もらないの!?」
「うーん、雪ちらつくことはあるけど」
「東京のホワイトクリスマスとか嘘っぱちじゃん…」
「まあでも、寒いは寒いよ?」
ダウンの胴と袖の隙間に腕を回してぎゅっと組む。ちょっとあったかい。
「とりあえず、健康で冬越えような」
「だな」
付き合って一年目。どんな冬が待っているやら。
(所要時間:8分)
11/28「終わらせないで」
先生の弾くしっかりとした低和音。それにリズム良く乗せる俺のスタッカート。
先生と連弾曲を弾く。俺のここ最近の一番の楽しみだ。
素早く楽譜をめくる。もう最後のページだ。心地よい時間が終わってしまう。
以前、終わるのがつまらないと言えば、また次の曲を覚えればいいと先生は笑った。でも俺は、今の曲も過去の曲も、いつでも、永遠に先生と弾いていたい。
―――俺が取り憑かれているのは、一人では決して出せないピアノの織り成す美しい音色なのか、それとも。
(所要時間:9分)
11/30/2023, 12:13:17 AM