人生ゆたか

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10/13/2025, 4:23:01 AM

西の森の奥深くには、大きな大きな大木が一本植わっている。樹齢は、我と同じ歳約2000年余り
その大木の下では、石を積上げられただけの墓とは
に付くわ無い物が建っている。
そこには、我より先に先客が訪れたのだろう。色とりどりの薔薇の花束や百合の花束、野花で作られた花束や
花の冠が供えられていた。
これらの花束は、かつて我と共に暮らし世界中の人類を護るために闘った今は亡き仲間の子供達の其の儘末裔達が毎年毎年此処へやって来ては花を供えてくれる。
花を供える者達は、誰の墓なのか?聞かされていない。
ただ、「毎年10月13日には西の森の奥深くへ」と
代々語り継がれる。それらは、不思議な事に決して
破られること無く毎年必ず花が供えられている。
不意に、枯葉を踏む足音が聴こえ振り返ると今も、一人の女性が花束を持ち我の方へと向かって歩いて来た。

目が合うと、お互い軽く会釈をし我は邪魔をせぬように
端に避けた。彼女が持っていたのはガーベラの花束だ。
それは、真紅色の鮮やかな色の花束だった。

(…彼女も、この花が好きだったな)

そんな事を考えながら、ボーっと女性の様子を眺めていた。花が供えられ両手の掌を合わせ、そして女性は立ち上がり又、我に軽く会釈を済ませ元来た道を帰っていった。彼女も又…我の仲間の末裔なのだろう。
不老不死の我とは違い、仲間達は普通の人間だった。
共に世界中の人類を悪魔から護るために闘い、そして
目の前で幾年も幾年もの間に仲間が死んでいった。
仲間が一人、また一人と毎年入れ替わっていったが
それも、長くは続かなかった。ついには共に闘う仲間も
我を含め十数人しか残らなかった。
それでも、懸命に闘い続けた。人々を守る為に…

何のために闘い、何のために我らは行き続けるのか?

我も仲間達も、この疑問と共に行きてきた。
《彼女と出逢うまでは…》

彼女と出会ったのは、此処だった。
この西の森の奥深くの大木の下、彼女は一人で大木を見上げていたのだ。そして、見たことのない髪の色と
見たこともない変わった洋服を着ていた。ただ…
その横顔だけは何処か覚悟が決まった様な顔をしていた
不思議な雰囲気の女…それが、第一印象だった。

彼女は、我が枯葉を踏む足音に気が付き此方を見た。
薄い緑色の瞳を持つ彼女…その瞳の色は美しく吸い込まれそうな感覚を覚えた。しばらく見つめ合った後に
彼女は、落ち着いた声でこう話した。

『私は、早風春 今日から貴方も共に世界中の人類を
護るために、この世界に来た女よ』

何、訳が分からない事を話す女だ?っと、反論しようとしたが…真っ直ぐに見つめる瞳と度胸と覚悟と言葉に
嘘がないことが瞬間的に分かった。

(この人と共に、世界を周る旅が始まるんだ…)


今から約2000年前、我はハヤカゼハルと云う異国の世界から来た名前の女と此処で出逢い、そして…彼女が年老いて死んだ後に此処に自らの手で埋めた。
年老いた彼女をお姫様抱っこで抱えた
その身体は冷たくそして小さかった。
彼女の好きなガーベラ数本を彼女の身体の上に置いてやり…我は自らの手で彼女の身体の上に土をかけたのだ。
彼女は息引き取る前、自室のベットに横たわったまま
我と手を繋いでいた。ふと、彼女は我の目を見て
途切れ途切れに小さな声でこう話した。

『私が死んだら…私の身体は棺に入れないで…
そのまま土の中へ…私は…あの…
………大木の一部になるわ…』

それだけ話すと、彼女は…ゆっくりと瞼を閉じ
そのまま二度と目を覚まさなかった。
我は、言いつけどおりに彼女の身体をお姫様抱っこで
抱きかかえ西の森の奥深くの大木へ向かった。
誰も居ない森を奥へ奥へと歩き進める。
人に無表情や冷酷と言われている我が、道中で静かに涙を零したのはこれが最初で最後だった。


…埋葬が終わってから、更に2000年が経った。
時が経ち彼女の身体は朽ち果て、そして自然の力で彼女は本当に大木の一部になった。
彼女が居た証を示す為に、我は仲間に末裔まで代々語り継げよ決して途切れさせるな。と、言った。

《毎年、10月13日に西の森の奥深くへ》
《大木の下に花を供えよ》

10/10/2025, 3:35:20 AM

《※続:静寂 〜 一目惚れ編 〜》

雲高く天気は晴れ、そして青空が美しいこの日
季節は秋だが、10月と云うのに夏の草木の緑がまだ美しさを保ち育っている、この摩訶不思議な気候の中
俺、秋風吹は今日も荻窪第2図書館へと歩いて向かう。
よく自分の外見で判断されるのだが、端から視れば自分は❝チャラそう❞と、思われるし言われる。
その理由は、2つ。
1つ、服装が派手&ギャップ萌(?)
2つ、自分の声が艶っぽくセクシーすぎる…だそうだ。
幼馴染曰くどうやら俺は男女関係なく皆、吹に恋に堕ちる!…とか、悪魔や魔王と陰で呼ばれているらしい。
今日も、考古学の講義を受けていて自分の隣の席に座っていた、対して話したことも無い男子大学生に告白された。…勿論、丁重にお断りしたが何とも言えない気持ちのまま昼食の時に食堂で共に食事をとっていた幼馴染にこの話したら爆笑された。

正直…断る事と人に好かれる事にうんざりとしていた。
暗い気持ちのまま1人で大学を飛び出し賑わう町中を歩いていた。上着のポケットに入っていたスマホが鳴った取り出して、画面を見ると幼馴染から遊びの誘いが来たが…今日は、そんな気にもなれなかったから

《今日は帰るよ。また今度誘ってくれ》と、返信

〜♪

<分かった。気をつけて帰れよ>


…こういう時にしつこく誘ってこない幼馴染に感謝だ。
彼のこういう性格は嫌いじゃない。
少しだけ、暗い気持ちが何となく晴れた気がした。
しかし、このまま家に帰るのも…っと思った俺は、ふと
久しぶりにお気に入りの図書館へ行こうと考えた。

「…うん…今日は、荻窪第2図書館へ行こう。」

彼処の図書館は、周りに花や草木が多く植えてあり自然の中に建っている図書館だ。おまけに静かで心が落ち着いて…ゆっくりと本が読める。
大学から歩いて少し裏通りを歩き20分の距離にその図書館は有る。
秋の陽気を感じつつ、ゆっくりと歩いて図書館へ向かう
今日は、何を読もう?そんな事を考えていると、十数メートル先の図書館の入り口付近で、マリーゴールドが植わっている花壇に水やりをしている男性が1人

(見たことが無い人だな…)

背は、俺よりも高く。歳は…20代後半ぐらいだろうか?
第一印象は、派手よりも地味な服装を着ている人だな…
っと、思っただけだった。
彼のワキを通り過ぎる時に、軽く挨拶を済ませ入り口へと入ろうと扉に手をかけた時にふと、好奇心からか彼は一体どんな顔をしているのだろう?と、気になりチラリと横目で見てみた。
少しタレ目で、左耳に小さなピアスを付けていて…
花を見つめる優しげな眼差しと小さな声で俺の好きな外国の歌を楽しそうに鼻歌で歌っている声と中性的な横顔に俺は…恥ずかしい話だが一目に恋に堕ちてしまった。

数秒見つめた後、ハッと我に返り冷静を装いつつ図書館へと入っていったが自分の心臓がバクバクと煩く脈を打っていた。人に想われる事が多いが、人を想う事をしなかった自分が初めて誰かに恋をした瞬間だった。

(また、此処に来たら彼に会えるだろうか…?)

10/8/2025, 3:34:23 AM

「静寂」と、云う言葉が似合う人が
今…私の目の前に居る。
その人は毎日同じ時間に此処に現れ
入口から離れにある窓辺の決まって毎日同じ席に座り
此方に背を向け本を読んでいた。
この人を良く見かけるようになったのは、ここ半年
あまりだと思う。
勤め先でもある此処、荻窪第2図書館の司書をしている私は、子供の頃からの長年の夢だった
《本にかこまれて仕事をする》を実現でき今は毎日が
楽しい。世間は、本を読まずにスマホに触れる事が多くなった。だが…その反面、昔と変わらず紙の本を愛する者も実は結構多いのだ。年配の方、子供、女性、男性
入れ替わり立ち代わりに荻窪第2図書館へやって来ては
本を借りて家へ帰る人、席に座り本を読む人実に様々
図書館特有の静寂な雰囲気も、私は気に入っている。
受付の席に座り仕事をしつつ、人間観察をするのが
私の日課でもある。

その日も変わらず、普段と同じように時間の流れがゆっくりと進む荻窪第2図書館に、その人は現れた。
くしゃくしゃの黒い髪の毛に、襟付きの半袖の白シャツを開け黒のインナーを見せ、黒のスキニーパンツに
ブランド物のお洒落なサンダルとベルトをしている男が
目の前を通り過ぎ、あの席へと向かっていた。
彼に対する第一印象は、❝チャラ男❞
とっても、苦手なタイプだ
もし、煩くしたら此処から追い出して出禁にしてやる。

…と、意気込んでいたが彼は服装がチャラ男だが
根は常識があるらしく、ただ静かに本を読んでいた。
そして、毎日必ず午後15時になると荻窪第2図書館へとやって来る。同じ席に座り図書館が閉まる時間まで
ずっと本を読んでいるのだ。
次第に私は、この人は何の本を読んでいるのだろう?と、気になり出した。今日返却された本を台車に載せ本棚へと戻す際、台車を押しながらさり気なく彼のワキを通る時にチラリと横目で見て見る。
タイトルまでは読めなかったが、どうやら洋書のようだ
書かれている文字が日本語では無かったからだ。
あいにく私は、外国語の文字が読めないから…この人が読んでいる本が何の本なのかまでは分からなかったが
洋書が好き?な事だけは分かったから良しとしよう。
そのまま、彼のワキを台車を押したまま通り過ぎた。
彼の視線にも気が付かぬまま、私は本棚が並ぶエリアへと足を進めた。

秋の陽気を感じられる季節がおとずれる。
10月に入ったのだが、まだ暑い日がある今年の秋
秋と云う季節がなくなるんではないか?説も出ている
そんな日に、私は今日も荻窪第2図書館の受付席に座り
ボーっと、人が居ない図書館の中を眺めていた。
今日は、10/09の午後15時半を過ぎた頃なのだが平日にも関わらず珍しく図書館に人が居ないのだ。
いつも静寂な図書館が余計静かで少し寂しい気がする
仕事をしようにも、今日は返却された本は無いし…
本棚の整理は午前中に終わってしまったし…
棚の掃除も床の掃除も終わってしまったし…
やる事がなくなってしまった私は、こうして受付席に座りボーっと、しているしか無くなってしまったのだ。

もう…今日は誰もこなそうだし図書館を閉めて帰ろうかなー…などと、考えていたら図書館の入り口の扉が静かに開いた。外の風と共に金木犀の香りが図書館の中に入って来て、室内は良い香りに包まれていた。
何気なく、入り口の方へと顔を向けると3週間ぶりにチャラ男の服装の彼が本を片手に入ってきたではないか
今日は、チャラ男服では無く普通のお洒落な服装だった
如何にも彼女とデートをして来ました!って感じの服装
髪もセットしてあるし…今日は眼鏡もしてるし…
あまりジロジロと人を見るのは失礼だから、彼を見つめるのを止め自分の手元に有る貸し出し帳とパソコンの電源を入れてお仕事モードに入った時だった。

『あの…』

声を掛けられ頭を上げた時だった。目の前に先程入って来た彼がカウンターの反対側に立ち私に声を掛けてきたのだ。その声は、予想していたより斜め上の声の低さ…
そして…艶っぽくセクシーだ。
女でも男でも恋に堕ちそうになるその声に少しドキリとし心臓が跳ねる。
彼にバレないように、平常心を保ちつつ

「こんにちは、本の返却ですか?それとも貸し出しですか?」

と、私は笑顔で対応をする。
彼は、私の笑顔を見て少し言い淀んでいたが覚悟を決めたのか真っ直ぐに私の目を見て、少しだけ震える声でこう語る。

『…貴方に恋をしてしまいました。貴方の心も…
此方で貸し出す事は出来ますか?』


私が勝手に想像をしていた静寂と云う言葉が似合う彼は、実は本当はただの普通の何処にでも居る恋する男の人だった。

9/29/2025, 11:37:29 AM

私の視える世界は…すべて白黒に映る
幸せそうな生活も
楽しそうな人々も
美味しそうな食事も
花の色も
空の色も
海の色も
好きな人の肌の色も

私の視える世界は…すべて白黒だ。


「この服どう??」
目の前の彼女は、試着した洋服を着ている
ヒラヒラのおとぎ話に出てくるお姫様みたいな
ワンピースを着て、くるりと一回りする

『うん、素敵だと思う』
色が分からない私は、ワンピースの形とヒラヒラ感と
彼女の表情を良く観察して答える
当たり障りのない答えを用意しニコリと微笑むようにしている






……正直に答えると、
本心は凄く面倒くさいなと感じている
貴女のワンピース姿とか、ぶっちゃけどうでもいい
けど、❝人付き合い❞と言う名の付き合いをしないといけない
人と極力関わりたくない私にとっては、ただ苦痛
そして、精神的拷問だと思っている
かれこれ、2時間…私は買い物に付き合っている
……訳では無い
たまたま、街で会ってしまって流れでこうなった
さっさと。帰りたかったが捕まってしまったのだ
さっきから、似たような服をとっかえひっかえしている
彼女を見ながら

この行動は無意味だ
…と、彼女にバレないようにため息を吐いた


あぁ…今、私が見てる世界は実に白黒だ
うんざりとした感情を抱きながら
クソつまらない代わり映えのしない光景を眺めていた


「さっさと、終わんねぇかな…(ボソッ)」

9/13/2025, 8:25:12 AM

「夏樹!!」
バンッと、激しく窓を開ける音と元気な声と
勢いよく部屋に飛び込んでくる人物。時刻は17:18
猛暑が去り秋の涼しく過ごしやすい空気が開けた窓から入ってくる。せっかく…漫画本を読みながら、床に寝そべってくつろいでいた処だったのに…
寝そべったまま、顔だけを開け放たれた窓の方に向ける。そこには、幼馴染の少年が目をキラキラと輝かせながら窓辺の縁に足をかけ部屋に入ってくる体勢をとっている。
……と、言うか既に彼は俺の部屋に入ってきているが正しい。

家がお隣さん同士の同い年の同じ学年の俗に言う
幼馴染…名は、春加瀬 秋風(はるかぜしゅう)
名前に季節の春と秋が入っている男で、春一番のような…台風のような男で急に現れては、台風のようにその場を去っていく…賑やかで、元気すぎる
栗毛の色の髪を持つそんな男だ。

『…なに?』

ゆっくりと起き上がりながら読んでいた漫画本を閉じ
秋風の方を見る。彼は、窓を閉め振り返ると
あのな!あのな!っと、元気に話し始める。
俺は漫画本を本棚にしまいながら、さも当たり前のように、組み立て式の簡易テーブルを取り出し組み立てクッションを2つ用意し胡座をかいて座った。
秋風は、キラキラと瞳を輝かせながらクッションの上に座りニコニコと笑顔で此方を見ていた。

『………秋風…今度は何した?』

「なっ!……なんで?」

『…勘』

そう、答えると彼は罰が悪そうな顔をした。
秋風が、俺の部屋に乗り込んでくるときは反省文を書くか授業で先生に当てられるかの2択なのは昔から変わらない。彼は、渋々背負っていたリュックサックのチャックを開け中から原稿用紙を取り出した。

『反省文か…(ボソッ)』

「んえっ!?ちっ違うよ!?」

『じゃあ…何?』

「これは…その…」

しどろもどろに話す彼だが、中々話そうとしない。
俺は、ニコッと口元は笑っているが目は笑っていなく
秋風の顔を見つめていた。
早く答えろ。と、その不気味な笑顔から読み取れる。
この笑顔を見て、うっっ。と、声を上げると
観念したかのように、ようやく理由を話し始めた。

「夏樹…おっ……俺…」

『……。』

「俺……。」

『……。』

「…………。」

『…早く話せよ』

「俺が書いた小説が…学校新聞に載るんだって!!」

興奮冷め止まぬ感情をむき出しにし秋風は、テーブルから身を乗り出し俺に語る。
彼の昔からの夢でもある小説家になる事。この第一歩が
学校新聞に記載される事から始まる。
事の発端は、新聞部の1人が記事を探す為に校内を回っていた時のこと図書室のテーブルの上に置き忘れていたCampusノートを見つけ持ち主を知る為に中を開いた。
だが、名前は記載されていなくただ文章だけが綴られていた。それは、授業で使用するノートでは無く趣味であろう小説のノートだったのだ。
無我夢中で読んでしまった…っと、のにち彼は秋風に語っている。そいつは、新聞部部長へ伝えたらしく
翌日には、部長直々が秋風の元へと出向き
ノートにでは無く学校新聞に載せてみないか?と、声を掛けられた。……と、熱く語っていた。

『…良かったな』

冷静なフリをして秋風の頭をグシャグシャに撫で回した
気持ちは、犬の頭をナデナデするかの様に…ふわふわの
彼の栗色の髪を撫でる。

(相変わらず、ふわふわな髪質だな…)

やめろー!っと、口では言いながらも何処か嬉しそうにされるがままの秋風の様子を眺めしばらく楽しんだ後
撫でる手を止め、飲み物を取りに行くから待っていろ
と、声をかけ立ち上がる。

「おっ…おうっ!俺…」

『…烏龍茶だろ?』

振り返りながら、応えると彼は嬉しそうに頷く。
その嬉しそうな顔を見た後部屋の扉を開け一階の台所へと向かうのだった。
赤面している秋風が自分の頭を触っていたことも知らずに…。

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