人生ゆたか

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「夏樹!!」
バンッと、激しく窓を開ける音と元気な声と
勢いよく部屋に飛び込んでくる人物。時刻は17:18
猛暑が去り秋の涼しく過ごしやすい空気が開けた窓から入ってくる。せっかく…漫画本を読みながら、床に寝そべってくつろいでいた処だったのに…
寝そべったまま、顔だけを開け放たれた窓の方に向ける。そこには、幼馴染の少年が目をキラキラと輝かせながら窓辺の縁に足をかけ部屋に入ってくる体勢をとっている。
……と、言うか既に彼は俺の部屋に入ってきているが正しい。

家がお隣さん同士の同い年の同じ学年の俗に言う
幼馴染…名は、春加瀬 秋風(はるかぜしゅう)
名前に季節の春と秋が入っている男で、春一番のような…台風のような男で急に現れては、台風のようにその場を去っていく…賑やかで、元気すぎる
栗毛の色の髪を持つそんな男だ。

『…なに?』

ゆっくりと起き上がりながら読んでいた漫画本を閉じ
秋風の方を見る。彼は、窓を閉め振り返ると
あのな!あのな!っと、元気に話し始める。
俺は漫画本を本棚にしまいながら、さも当たり前のように、組み立て式の簡易テーブルを取り出し組み立てクッションを2つ用意し胡座をかいて座った。
秋風は、キラキラと瞳を輝かせながらクッションの上に座りニコニコと笑顔で此方を見ていた。

『………秋風…今度は何した?』

「なっ!……なんで?」

『…勘』

そう、答えると彼は罰が悪そうな顔をした。
秋風が、俺の部屋に乗り込んでくるときは反省文を書くか授業で先生に当てられるかの2択なのは昔から変わらない。彼は、渋々背負っていたリュックサックのチャックを開け中から原稿用紙を取り出した。

『反省文か…(ボソッ)』

「んえっ!?ちっ違うよ!?」

『じゃあ…何?』

「これは…その…」

しどろもどろに話す彼だが、中々話そうとしない。
俺は、ニコッと口元は笑っているが目は笑っていなく
秋風の顔を見つめていた。
早く答えろ。と、その不気味な笑顔から読み取れる。
この笑顔を見て、うっっ。と、声を上げると
観念したかのように、ようやく理由を話し始めた。

「夏樹…おっ……俺…」

『……。』

「俺……。」

『……。』

「…………。」

『…早く話せよ』

「俺が書いた小説が…学校新聞に載るんだって!!」

興奮冷め止まぬ感情をむき出しにし秋風は、テーブルから身を乗り出し俺に語る。
彼の昔からの夢でもある小説家になる事。この第一歩が
学校新聞に記載される事から始まる。
事の発端は、新聞部の1人が記事を探す為に校内を回っていた時のこと図書室のテーブルの上に置き忘れていたCampusノートを見つけ持ち主を知る為に中を開いた。
だが、名前は記載されていなくただ文章だけが綴られていた。それは、授業で使用するノートでは無く趣味であろう小説のノートだったのだ。
無我夢中で読んでしまった…っと、のにち彼は秋風に語っている。そいつは、新聞部部長へ伝えたらしく
翌日には、部長直々が秋風の元へと出向き
ノートにでは無く学校新聞に載せてみないか?と、声を掛けられた。……と、熱く語っていた。

『…良かったな』

冷静なフリをして秋風の頭をグシャグシャに撫で回した
気持ちは、犬の頭をナデナデするかの様に…ふわふわの
彼の栗色の髪を撫でる。

(相変わらず、ふわふわな髪質だな…)

やめろー!っと、口では言いながらも何処か嬉しそうにされるがままの秋風の様子を眺めしばらく楽しんだ後
撫でる手を止め、飲み物を取りに行くから待っていろ
と、声をかけ立ち上がる。

「おっ…おうっ!俺…」

『…烏龍茶だろ?』

振り返りながら、応えると彼は嬉しそうに頷く。
その嬉しそうな顔を見た後部屋の扉を開け一階の台所へと向かうのだった。
赤面している秋風が自分の頭を触っていたことも知らずに…。

9/13/2025, 8:25:12 AM