【願い事】

「あ、流れ星」

君と二人で夜空を見ていたらふと君が言った。
確か今日は流星群が観られるとニュースでやってた。

「彼氏欲しい彼氏欲…あちゃー、言いきれなかった」

どうやら流れ星に願い事を三回唱えるとなんちゃらみたいな迷信を信じてやってるらしい。

「大体なぁ…流れ星が流れてる間に願い事三回は無理だぞ？仮に“かねほしい”の五文字だったとしても三回言うのに2.1秒かかるしそもそも流れ星の平均速度はだな…」

｢そういうことじゃない！！」

怒られてしまった…と俺がしょげてたら君が言う。

「そうじゃなくて、実際には叶わなくてもこういう体験自体がいいってこと！」

はにかみながらそう言う。
その表情は暗闇を照らす光のように明るく、俺の左胸を高鳴らさせる。
なるほど。
たまにはこういう非科学的なことに頼るのも悪くないな。

【空恋】

もう何年空を見ていないだろう。

あの日、世界は未知なる生物によって乗っ取られた。
それにより多くの命が奪われた。
運良く生き残った人類は地下に作られた核シェルターに避難し、一命を取り留めた。

しかし避難しただけではいつも通りの生活は困難だ。
そこで人類は新たに生活できる場所を作り始めた。
家、学校、店…必要な場所がどんどん作られていくにつれてみんなの頭からは“空”という概念が消え去っていった。

やがて侵略される前と同じように生活ができるようになった。ありえないことに自然や海などが存在している。
それでも“空”だけは存在していなかった。
だが、確かに人々の記憶の中には“空”があった。

ある人は家族と見たい。
ある人は友達と見たい。
ある人は恋人と見たい。

色々な表情を見せてくれたあの空を。
今でも、そしてこれからも彼らは思うだろう。

あぁ、空が恋しい。

【波音に耳を澄ませて】

悲しい時、私はいつもここへ来る。
サンダルを脱いで足を海に浸らせる。
ひんやりとした感覚が全身を巡る。
そしてよく耳を澄ますと波の打つ音が聞こえてくる。
その感覚や音はまるで魔法のように私の悲しい気持ちを取り除いてくれる。

私はこの場所が大好きだ。
何故なら海の綺麗な歌声が私を応援してくれている気がするからだ。

【青い風】

No side

窓から爽やかで涼しい風がカーテンをゆらめかせている。外ではセミが自身のことを主張するかのように鳴いている。ある学生二人は夏休みのことを話しているようだ。

彼女 side

「俺さ、夏好きなんだよね」

付き合って二週間経った彼ががそう言った。

「色々できるじゃん？海行ったりプール行ったり……」

「水泳のことしか考えてないじゃん｣

「あはは、ごめんごめん」

告白は彼からだった。スタンダードな感じで素直に気持ちを伝えてくれた。晴れて私たちは付き合ったのだが恋人らしいことはまだ一度もしていない。
デートもしていないしキスや手を繋いだりもしていない。ましてやまだ一度も一緒に帰ったことがないのだ。進展が無さすぎてもはや告白したことを忘れているのではと疑うほどだ。

「…ねぇ、今週末デート行かない？ 」

私は意を決してデートに誘ってみた。せっかく付き合ったんだもん。これくらいおかしくはないはずだ。

「いいね、どこ行く？」

思いのほか、彼はあっさり承諾してくれた。どこに行こうか考えた末にさっきの彼の発言を思い出した。

「じゃあさっき言ってた海とかプール行こうよ！最近暑いし丁度良くない？」

そういうと彼は一瞬驚いた顔をしてすぐに難しい顔になった。

「どうしたの？」

「いや…初デートで水着見るのはちょっと」

そう言われて気づいた。まだ手も繋いでないのにいきなり水着はさすがにハードル高かったか。一緒に行ったら楽しそうだったのになぁ…
そう思いながら彼を見る。あれ？ちょっと顔が赤いような気が…

「どうしたの？顔赤い気がするけど」

「ごめん、勝手に想像したら恥ずかしくなってきちゃって…」

「想像って何を？」

「水着姿」

顔を完全に真っ赤にしながらこっちを見て彼がそう言う。あまりにも真剣で初心な彼を見ていたらこっちまで顔が赤くなりそうだ。今日は涼しくなるってニュースで言ってたんだけどなぁ………

※小話的な何か
このお話、実は【カーテン】のときの二人と同じだったりそうじゃなかったり…？

【遠くへ行きたい】

遠くへ行きたい。何度思ったことか。

別に旅行をしたいわけではない。
美味しいものを食べて、写真を撮って思い出を作りたいわけでもない。

ただ誰も知らない遠くに行きたいだけだ。
そう思うようになったのは君のせいだよ。

俺は白い部屋の中でベッドに寝ている彼女の頬を優しく撫でる。彼女の両親からは遠回しに諦めるよう言われているが、俺は諦めたくない。

いつか一緒に遠い、遠い、景色を見に行くまでは。

俺は諦めない。