君と最後に会った日
『好き』
そう告白されて当時の俺は恋愛にはさして興味がなく、それでも照れ隠しでぶっきらぼうに断った。
『…ま、まぁ、そう…だよね…』
と何とか笑顔を作っていたが、目には涙を溜めていた。
その時、こいつの泣き顔はこんなにも綺麗なのかと思った。
それがお前と最後に会った日の思い出だ。
繊細な花
彼女を初めて会った時の第一印象。
それは勝ち気な、でも華があるお嬢様だ。
綺麗なブロンドの髪の毛は腰まであり、よく手入れされている。
黙っていれば品のあるご令嬢様という感じだが、僕らのような庶民の人たちの輪の中で、段々と素が出てきたのか、表情がコロコロ変わるのが面白かった。
それでも親元から離れ、知らない土地に引っ越してきたお嬢様からすれば、心細いところもあったのだろう。
誰もいなくなった教室で泣いているところを見た。
ポロポロと涙が溢れ出る彼女を見て、初めて人が泣くのをこんなに綺麗だと思ってしまった。
慰めるべきなんだろうか?
でも泣き顔を見られるのはあまりいいものじゃないだろうと思って、静かに教室から離れた。
彼女は華やかで気の強い人かと思っていたが、
本当は繊細な人なのかもしれない。
僕だけの秘密にしておこう。
その繊細な花を遠くから、これからも見守ろうと誓いながら。
1年後
あの日、桜の舞うあの丘で初めて告白をした。
「好きです」
告白をしようとは微塵も思っていなかった。
ただ貴方の横顔がとても綺麗だったから、貴方の向ける笑顔が眩しかったから。
いつか私以外の誰かのものになってしまうんじゃないかと思ってしまって、私はありのままの感情を呟いていた。
彼は散りゆく桜のような、消え入りそうな声で、
「…ごめん」
と一言呟いた。
あの日から1年後。
桜の舞うあの丘へと、私は向かって歩いていた。
思い返せば、告白後も友達として接してくれた彼には感謝している。
むしろ前より仲良くなったのかもしれない。
相手には私の気持ちは気付いてしまっているから、気負うこともなくなった。
もう振られてしまったからこそなのか、自然体でいられたのかもしれない。
とは言え、貴方への想いは消えることは無かった。
決してこの恋が叶うことはないけれど、この気持ちは私が忘れるまで育てていこうと思ったからだ。
もしかしたら、貴方に私以外の彼女が出来て、それがどんなに悲しくて淋しくて苦しくても、貴方への想いを消すことの方が余程辛かった。
卒業が間近に迫る中で、貴方との楽しい日々は良い思い出になるだろう。
もうそろそろあの桜が見えてくる。
私にとっては始まりとも言える桜。
「……っあ、」
と思わず声に出すと、桜の樹の下にいた私の想い人は振り向いた。
「おはよう」
涼やかな声。
この人のこの声、私はやっぱり大好きだ。
「おはようございます」
一言発してから、1年前と同じ気持ちになった。
「やっぱり、貴方が大好きです」
子供の頃は
子供の頃は、いつか私も誰かと幸せに結婚をするもんだと思っていた。
でも、気が付いたら女性としての旬は終わっていた。
友達から来る結婚式の招待状を、何通ももらっていた時から、もう少し自分の心配をしていれば良かったのに、私に取っては「仕事」が第一優先になってしまっていた。
そして恋愛をする気力があるほど若くもなく、ただ面倒と切り捨て、忙しない日々が過ぎていき、ある日過労で倒れた。
走り続けてきた自分は、そこで仕事に対する気力も失った。
今は少し休業中だ。
泥沼に浸かっているかのような気怠さ。
カーテンの隙間から差し込む朝日の輝きが、今の私の心持ちと正反対で、枕に顔を突っ伏した。
何とか起きて朝ご飯だけでも食べようと、義務のような感じで足を出す。
コンビニやスーパーのできあいもので済ませていた私は、料理もまともに作れないと改めて女子力のなさを感じた。
と、携帯が鳴った。
鳴ったと言っても一瞬なので、LINEの知らせだ。
どうせ、フォローしているサイトのお知らせだろうと思いつつも、つい仕事の癖で確認をする。
「……あ、」
思いがけない相手は、自分の担当するタレントからだった。
何かあったのかと思い、LINEを開く。
「大丈夫ですか?ちゃんと朝ごはん食べてくださいね!仕事、行ってきます!!」
まさかタレントを心配させてしまうとは、マネージャー失格だなと思いながら
「ありがとう。仕事頑張って!」
と端的にLINEを打つ。
そうするとすぐに既読がついた。
早っ!と思いつつも、次に送られてくる愛くるしいスタンプに笑ってしまう。
私には愛する人も、子供もいないが、守るべきタレントがいる。
私はこれからも彼らの盾となり、有名になるよう育てる責務がある。
これも「愛」と呼ぶのだろう。
タレントに取ってはありがた迷惑かもしれないけれど。
日常
私の学校の副生徒会長は、生徒会が無い日は図書室にいることが多い。
静かな館内にページをめくる音が聞こえる。
私は少し離れた席から、ちらりと彼の横顔を伺った。
黒髪で少し長めのまつ毛。
そして端正な顔立ち。
時折り、考え事をしながら左上を見上げる仕草が、私的にはとても好きなのだ。
図書室にいるのは私と彼。
それから受付にいる図書委員だけだけど、ここからはその姿は見えない。
何の本を読んでいるんだろうと少し目を凝らすと、
自分が読んでいる本と同じだった。
話題にもなっている本だからなのか、2冊図書室にはあったらしい。
(何だか2人だけの世界みたい……)
と目線を手元の本に戻して、続きを読み出す。
この何気ない日常が私にとって、とても嬉しい。