REINA

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6/19/2024, 12:31:54 PM

相合傘



「じゃあ、また明日」

そう言って去っていった彼。
踵を返す時に、彼の右肩が少し濡れていた。

優しい彼のことだから、私が濡れないように傘をさしていてくれたんだと思うと、胸が熱くなり疼いた。

「あ、あのっ」

と思わず大きな声が出た。
彼がくるりと振り返り、不思議そうに首を傾げた。

「あ、ありがとうございます」

そんなありきたりなお礼しか言えなかったけれど、彼はにこりと笑って手を振った。

彼の表情が、声が、仕草がとても好きだ。

またいつか相合傘ができたなら、今度は彼の肩が濡れないように、もう少し近づいても許されるほどの距離感で…

6/18/2024, 12:29:07 PM

落下



興味が無い振りをしていた。
本当は手にしたいなと思っていたから。
でもどうせ手に取ることはないだろうと思っていたら、
まさに私の掌に吸い込まれるかのように、それは宙を舞った。

徐々に眼前に迫ってくる。
ああ、スローモーションって本当に起こるんだなと冷静に思いながら、でも高鳴る心臓の音が響いていた。

レースのリボン刺繍で束ねられたブーケは、私に向かうのが当たり前のように落下してきた。

トンっと音がした。
私の掌に当たったブーケは、その反動で別な方向へと軌道を変える。

そのブーケを逃すまいと自然と一歩二歩と足が出た。
これでは結婚したいと執着している女のようだ。
そして時はすでに遅く身体が転ぶ体制へとなった。










気づいた時には、知らない男性に抱き止められていた。
どうやら助けてくれたらしい。

周囲の「大丈夫?」の声掛けやら、何となく笑われているような目線を肌で感じながらも、私の目は助けてくれた彼に釘付けになった。

王子様みたいな人って、本当にいるんだと、メルヘンチックな感想が頭をよぎる。

「どうぞ」と手渡されたブーケ。

何となくコレは運命に違いないという警鐘が鳴りやまない。
抱き止められた感覚や、ブーケを渡された時に触れた手を思い出し、私は恋の沼へと落下した。

6/17/2024, 12:18:04 PM

未来



過去も現在(いま)も未来も、
貴方の瞳に映るのは私でありたい。

そして私の瞳に映るのも貴方でありたい。

6/16/2024, 1:13:44 PM

1年前



1年前の君は、この桜の樹の下で僕に微笑んでくれた時に、とても綺麗だと思った。

突然の『好きです』という告白に、僕の顔はかなり熱くなった。戸惑った。そして最終的には、やんわりお断りした。
その時の自分は『恋愛』というものが分かっておらず、他人事のようにしか感じられなかったからだ。
そんな気持ちのままで、相手と付き合うというのは、あまりにも失礼だと思った。

というのは建前で本音は、恋愛をすることで何か変わるかもしれない自分に怯えていたのかもしれない。

振られたあとでも懸命に笑う君をみて、何とも言えない気持ちになった。好きとは違うけれど、大切にはしたい人だと思った。

『友達』という形で、この1年間過ごしてきた僕らは、もうすぐ卒業を迎える。

卒業後は進路は別々だ。
彼女は地元の大学に、僕は東京の大学に。
お互い別々の道を歩む。

そう思うと少し胸がざわざわした。
その正体が何かは分かっていたけれど、今更意識することでもない。

キュッと唇を噛み締め、桜を眺めていた彼女の隣に立つ。

今度は僕から伝えよう。

「好きです」

時間はかかったけれど、1年前の答えを出した。

6/15/2024, 1:37:40 PM

好きな本



彼の好きな本が変わった。


図書委員をしている私には分かる。
彼の好みの本を。
学校一の秀才と言われている彼は、
純文学から推理小説など勉強や思考を巡らせるような、
そんな本が好きだったはずだ。

だけど、そんな彼が最近「恋愛小説」を手に取るようになった。
最初はたまには違うものでも読みたいと思ったのかと考えていたけれど、どうやらとある女子の影響らしい。
というのも読書週間が始まり、そのとある子が持ってきた本と同じだったからである。

勝手な憶測が頭に飛び交う。

その子のために読んでいるのだろう。
話題を作るための口実なのだろうか?

時に表紙を手で拭う様は、彼女の綺麗な手を撫でているようにも見えた。

嫌なものを見た。

見なければ良かった。

遠目から見た挿絵のページは、今日の読書の時間に彼女が見ていたページと同じだった。
あの時の彼女と同じように微笑む彼の顔が、私に取ってはこの上もなく毒だった。

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