時雨 天

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8/5/2023, 1:35:32 PM

鐘の音




教会の鐘が鳴り響く――
白い鳩たちが一斉に飛び立った。空遠く、彼方へと。
木の下で座っている黒髪の青年が一人。教会の扉をじーっと見つめていた。
しばらくすると扉が開き、銀髪の少年が出てきた。疲れた表情をしている。

「やっと出てきた、おかえりエリオ」

へにゃと笑って、銀髪の少年――エリオに近づく黒髪の青年。
すると、一気に怒った表情になったエリオ。そして、黒髪の青年を拳で殴り飛ばす。
見事、宙に舞う黒髪の青年。そのまま地面へ。

「おかえり、じゃないですよ。あんな依頼だなんて、聞いてないです。死にかけましたっ、ギルさんのせいで」

「うん、俺も聞いてないよー」

ハハハッと笑う黒髪の青年――ギル。
彼らは今まで、狼の討伐依頼を受けて、森奥深く進んでいたところ、狼ではなく、巨大なトロールが生息していた。
そして、そのままボコボコにされてしまい、なんとか近くの教会まで戻ってきたのだ。

「生息地が変わったのかなぁー」

「絶対、ギルさんが道を間違えたんだ」

「えぇー、そんなわけないって」

頬をぽりぽりと掻いて苦笑いをするギル。

「途中から道が険しくなっていったじゃないですか」

「そんな道もあるよねぇー」

「あるよねぇー、じゃないですよ」

少し背伸びして、ギルの右の頬をつねったエリオ。
怒りに満ちているので、更に強くつねる。

「いひゃい、いひゃい。いひゃいよ、エリオ」

「だから、ポンコツって舐められるんですよ、他のパーティーに‼︎」

つねっていた頬を離し、ギルをキッと睨む。

「えぇー、俺は気にしてないよ、別に」

「気にしてください、だって、あなたは元勇者パーティーにい――」

教会の鐘がまた鳴り響く。風が強く吹き、二人の間を通った。

「俺はエリオがいてくれれば、わかってくれていれば、それだけでいいから」

寂しい表情を浮かべたギルは、エリオの頭を優しく撫でる。
その言葉を聞いて、口をもごもごと動かすが、静かになったエリオ。
しばらく無言の二人。鳥たちが今度は話しだす。ぴちぴち言いながら。

「さぁーてと、行こっか、エリオ」

ギルは両手を組んで上へ伸びる。そして、歩き始めた。

「ちょっ、どこに行くんですか、待ってください」

慌てて後を追うエリオ。教会の鐘が二人の無事を祈るように鳴った――

8/4/2023, 12:41:10 PM

つまらないことでも



あなたにとってつまらないことでも、私にとっては楽しいこと。
ページを一枚、静かにめくる。一文字一文字の文字を目で追う。
本を読むだけで、創造力と想像力が広がり、いろんな世界に行くことができる。
魔法に溢れた世界、お姫様と王子様がいる世界、偉人の世界、動物の世界。
わくわく、ドキドキが止まらない。素敵な世界が目の前に広がる。
また、ページをめくった。読むのがやめられない、時が経つのが早く感じる。
ふふっと笑みが溢れた。明日も、明後日も、明明後日も楽しみが待っている、新しい世界が広がると思うと。
つまらないなんて言わせない。

この素晴らしい世界を味わえないのは、残念だと思う。


にやりと笑って、本をパタンっと閉じた――

8/3/2023, 12:54:38 PM

目が覚めるまでに




どこか知らない土地だった。周りは山で囲まれている。
なぜか、私はいつ壊れてもおかしくない、古い木で作られた橋を渡っていた。
恐る恐る下を見ると川が流れていて、そこに大きな鯉がたくさん泳いでいる。
足元にあった、石を川に向かって落としてみた。すると、鯉たちが一斉に反応して、石に群がる。
その様子を見て、ごくりと生唾を飲んだ。落ちたら確実に食べられる。そう思った。
このままここにいても仕方がない、向こうまで渡りきろうと決意。
震える体に鼓舞をした。一歩、前に踏み出した瞬間、バキンっと音が。
足元に穴があいて、そのまま川へ向かって落ちていく。

「これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ‼︎」

何度も何度もそう呟く。下に落ちていく感覚。
体にビリビリと伝わってくる。口から内臓が出そうだった。
ふと、後ろを見ると、金の大きな鯉が口を開けて待っている。
パクパク、パクパクと。

「だめだ、目が覚めるまでに、食べられ――」

ひゅっと口の中に入った。真っ暗な場所にドンっと落ちた。
心臓が早く鼓動している、まだ生きているが、身体中とても痛い。
起きあがろうとしても起き上がれない。声も出ない。
さっきの金の大きな鯉と一緒。パクパク、パクパクするだけ。
意識が少しずつ遠のいていくが、目が覚めるまでにまだ少し時間がかかりそうだ。

8/2/2023, 1:54:54 PM

病室




手術が終わり、入院1日目の夜。
気分が悪くなり、目が覚めてしまった。暗い病室の天井。
病院の夜は少し怖い。段々天井の模様が、得体の知れないモノに見えてきた気がする。
何も考えないようにしていると、手術痕に痛みが走る。
どうすることもできないので、強く目を瞑って寝ようとした時だ――
誰かに足を引っ張られた。下に向かって引っ張られるかのように。
怖くて目が開けられなかったし、確認をしたくもなかった。
ずりずりと下に引っ張られる感覚。でも、ベットから落ちる感じはない。
だが、ずっと引っ張られている。ずりずり、ずりずり、ずりずりと。
薄目を開けようと思ったが、やっぱり怖い。見たくないものを見る羽目になるのは嫌だ。
助けを呼ぼうと思っても、体が言うこと聞かない。――金縛りだ。
このまま、朝を来るのを待とうと思っていたが、ふとあることに気がついた。

「あ、ここの病院、初めて入院するから案内してほしいかも。お願いできますか……?」

小声でそう言った。すると、足が軽くなり、体も軽くなった。
少し周囲に警戒しながら、ゆっくりと上半身を起こした。

「……案内するのは嫌なのね」

思わず苦笑してしまった。あんだけ、アピールがあったのに。

「しばらく、入院が続くと思うけど、よろしくお願いします」

また小声で言った。次の日以降、金縛りも足を引っ張られることもなかった――
認めてくれたのだろうか?それとも――

8/1/2023, 1:39:26 PM

明日、もし晴れたら




窓に雨の雫が当たる。雲が悲しくなって、涙を流したのだきっと。

「泣きたいのはこっちのほうなのに」

はぁーっとため息をついた。この時期は雨が多い。
毎年、毎年、雨なような気がする。
ざぁぁぁと本格的に降ってきた。私は窓に手をついて、肩を落とした。

「降らなくていいよ、本当に……明日、大事な日なのに」

窓から離れて、ベッドに向かって倒れた。
ばふんっと音を立てて、体が一瞬沈んで跳ね返る。

「毎年、雨じゃん。晴れた時、少ないよ」

枕を手に取り、顔に押し付ける。涙がじわりと出てきた。

「神様は意地悪だわ、そうよ、意地悪なのよ」

グリグリと枕に顔を擦り付けた。ヒリヒリするけど、それどころじゃない。
この抑えきれない怒りは誰にぶつければいいのか。いや、八つ当たりはよくない。
そう思いつつもイライラするのは止められない。

「年に一回しか会えないのに」

起き上がって、枕を窓に向かって投げつけた。
ばふっと虚しく床に落ちていく枕。

「晴れてほしい……明日、もし晴れてくれたら、彦星に会えるのに」

窓に近付いて、空を見つめる。そして手を組み、お願いをする。
みんなは願いを叶えるために、短冊に願いを書く。その願いが叶うならば、私のお願いも叶えてほしいものだ。

「はーれーてーくーれー」

強く強く空へと願う。明日、晴れますように――

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