時雨 天

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目が覚めるまでに




どこか知らない土地だった。周りは山で囲まれている。
なぜか、私はいつ壊れてもおかしくない、古い木で作られた橋を渡っていた。
恐る恐る下を見ると川が流れていて、そこに大きな鯉がたくさん泳いでいる。
足元にあった、石を川に向かって落としてみた。すると、鯉たちが一斉に反応して、石に群がる。
その様子を見て、ごくりと生唾を飲んだ。落ちたら確実に食べられる。そう思った。
このままここにいても仕方がない、向こうまで渡りきろうと決意。
震える体に鼓舞をした。一歩、前に踏み出した瞬間、バキンっと音が。
足元に穴があいて、そのまま川へ向かって落ちていく。

「これは夢だ、これは夢だ、これは夢だ‼︎」

何度も何度もそう呟く。下に落ちていく感覚。
体にビリビリと伝わってくる。口から内臓が出そうだった。
ふと、後ろを見ると、金の大きな鯉が口を開けて待っている。
パクパク、パクパクと。

「だめだ、目が覚めるまでに、食べられ――」

ひゅっと口の中に入った。真っ暗な場所にドンっと落ちた。
心臓が早く鼓動している、まだ生きているが、身体中とても痛い。
起きあがろうとしても起き上がれない。声も出ない。
さっきの金の大きな鯉と一緒。パクパク、パクパクするだけ。
意識が少しずつ遠のいていくが、目が覚めるまでにまだ少し時間がかかりそうだ。

8/3/2023, 12:54:38 PM