不完全な僕
西暦2XXX年。地球は高度な技術の発展を遂げ、巷には様々なロボットが溢れていた。
「あぁっ…!」
切羽詰まった悲鳴と共に激しく食器の割れる音が響く。一家に一台(一人)は当たり前のお手伝いロボット。通常ならば機械が行う作業は、人の手と違い寸分の狂いもなく完璧に全ての事柄をこなす。
しかし我が家のお手伝いロボットは。それはそれはミスも多くそそっかしい。それもそのはず。元々このロボットは製造中に欠陥が見つかり、完成することなく廃棄されるところを安く譲ってもらったものだ。お手伝いロボットとしては不完全。それでも。
「ご主人さま、すみません…」
しょんぼりと、全身で反省してますと謝る姿はなんとも人間味あふれる。全てを完璧にこなす完成されたロボットは、魅力的だけど。
また迷惑をかけてしまった…僕が不完全だから…
とか、思ってる事が顔に出てしまう不完全な君と、僕は暮らしていきたいよ
香水
「贈り物ですか?」
綺麗にディスプレイされている香水を手にしては戻し、また別の品を手にとりを繰り返すこと数回。店員さんに声をかけられる。普段入ることなどないセレクトショップ。並べられている商品も縁遠く途方にくれていた。声をかけてくれた店員さんにこれ幸いと頷く。
「はい。お世話になった方へプレゼントしたくて」
まぁ素敵ですね。お相手は女性の方ですか、等々、質問されるままに答えていく。
半年前、卒業したばかりの高校の担任。歳上の女性。そしてこれは伏せるが初恋の相手。ご家族の都合で遠い地に引っ越すことになったらしいとかつての同級生に連絡が回った。
急なことでもあるため皆で集まって見送る時間もなく。本当に慌ただしく旅立ってしまった。個々にお別れのメッセージは送ったがすっきりしない。そんな時ふと思い立った。そうだ。プレゼントを贈ろうと。おあつらえ向きに明後日は先生の誕生日だ。
香水を選んだのは何となくだ。自分の中の贈ってカッコいいプレゼント、ベスト3に入る。香りは記憶に残るとも言うし。あと一つはまだ買えないけどワイン。残りは、何だろうね。
そうして俺は、優雅な小瓶を手に入れた。青臭く告白めいたカードも封入し、梱包は万全。送り先は遠方のため航空便でと宅配業者の窓口を訪れる。しかし。
「申し訳ございません。香水は航空便では取り扱い出来かねます」
意気揚々と発送に訪れた俺は自分の無知を知る。
一人舞い上がっていた気持ちが萎んでいく。通常の発送は出来るけど誕生日である明後日には間に合わない。断りを入れ窓口を後にする。
そっかー。香水って飛行機じゃ送れないんだ。一つ学んだ。あー青空眩しい。
言葉はいらない、ただ…
言葉はいらない、ただ…愛し合おうか
突然の君の訪問。
「よ、久しぶり」
些細なことで仲違いし音信不通になっていたかつての親友は、そんなことを感じさせない変わらない笑顔を見せる。
突然の来訪。あの時はごめんな、意地張っちまって。いや僕の方こそ…。そんなテンプレのようなやり取りを交わし。わだかまりが消えるやいなや、来た時同様唐突に帰ってしまった。
あまりの出来事に遅れて我に返り跡を追う。しかし周りを見回してもすでに親友の姿はなく。掛けることも消去することも出来なかった電話番号を久方ぶりに表示する。ひとまずコールすることに安堵する。
しかし繋がった先は。近くにある総合病院の救急隊員。親友は事故に遭い、そして…。
そんなはずはない、だってさっきまで…。親友が息を引き取った時刻は、突然の訪問のあったその時刻。
突然の君の訪問は。僕をわだかまりから解放してくれ、そして絶望もさせた。
雨に佇む
よかったら、駅まで一緒にどうですか
よかったら、駅まで一緒にどうですか……
心のかなで繰り返し呟く。傘の柄を握る手に力がこもる。
昼間はまぶしい青空が広がっていたのに、授業が進むにつれ雲行きは怪しくなり。ホームルームの終わった放課後にはとうとう雨が降りだした。
雨に佇む彼を見かけた時にはチャンスだと思った。口うるさい母親の言うこと聞いて折り畳み傘を持って来てよかった。
見つめる先のクラスメイトは山田君。同じクラスだというのにほぼほぼ喋ったこともなく。席も遠ければ共通の友達もおらず。ただただ見つめることしか出来ない、もどかしい状況をひっくり返す大チャンス!相合傘で距離を縮めてみせるっ。いざっ。
お目当ての彼に踏み出そうと顔を上げると。
あれ…あれあれ~…。どんより薄暗かった空模様にうっすら光が射している。文字通り通り雨、雨は一瞬にして止んでしまった。
バチリと山田君と目が合う。
「雨、止んでよかったね。日頃の行いがいいからかな」
いかにも善人そうな屈託のない笑顔。邪な私とは違う。日頃の行いの明暗がくっきり表れてしまった。
項垂れながら傘をしまっていると思いがけない声が掛かる。
「伊藤さんも、駅までだよね。よかったら、一緒に帰る?」
「っぜひ!」
果たして。日頃の行いが良かったのはどちらか。