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雨に佇む

よかったら、駅まで一緒にどうですか
よかったら、駅まで一緒にどうですか……

心のかなで繰り返し呟く。傘の柄を握る手に力がこもる。

昼間はまぶしい青空が広がっていたのに、授業が進むにつれ雲行きは怪しくなり。ホームルームの終わった放課後にはとうとう雨が降りだした。

雨に佇む彼を見かけた時にはチャンスだと思った。口うるさい母親の言うこと聞いて折り畳み傘を持って来てよかった。

見つめる先のクラスメイトは山田君。同じクラスだというのにほぼほぼ喋ったこともなく。席も遠ければ共通の友達もおらず。ただただ見つめることしか出来ない、もどかしい状況をひっくり返す大チャンス!相合傘で距離を縮めてみせるっ。いざっ。

お目当ての彼に踏み出そうと顔を上げると。
あれ…あれあれ~…。どんより薄暗かった空模様にうっすら光が射している。文字通り通り雨、雨は一瞬にして止んでしまった。

バチリと山田君と目が合う。
「雨、止んでよかったね。日頃の行いがいいからかな」 
いかにも善人そうな屈託のない笑顔。邪な私とは違う。日頃の行いの明暗がくっきり表れてしまった。
項垂れながら傘をしまっていると思いがけない声が掛かる。

「伊藤さんも、駅までだよね。よかったら、一緒に帰る?」
「っぜひ!」

果たして。日頃の行いが良かったのはどちらか。

8/27/2024, 12:21:35 PM