柔らかい雨
薄曇り、うっすら陽も射してる中、優しい柔らかい雨が降りだす。霧雨のようなそれに傘を差すほどでもないとそのまま歩き続ける。
しかしどんなに優しかろうが雨は雨、水である。目的地に辿り着く頃には存外しっとりと濡れそぼっていた。
優しい雨はその柔らかい感触に見合わず質悪ぃ…
紅茶の香り
「タカノ、なんじゃいコレは」
「午後のティータイム、アールグレイにございます」
執事よろしく、お盆を抱え、恭しく上司に頭を下げる。
「ほぅ。普段は安価なインスタントコーヒーを出すくせに、どういった心境の変化じゃ」
「はい。紅茶の香りには鎮静、抗不安効果が期待でき、ストレスを和らげ、イライラや怒りなどの抑圧された感情を取り去る効果もございます」
付け焼き刃のネット知識を披露する。ヤマサキ部長のストレスが少しでも軽減されるよう、誠心誠意、心を込め、淹れさせていただきました。
「アホかー!こんな事に労力使わんと、さっさと取引先に謝罪行ってこんかい!」
「はいぃ…!」
部長の怒鳴り声に追い立てられフロアを飛び出る。
ワシのストレスが紅茶一杯で減るかー!
フロアに響く部長の声に丸暗記した紅茶の香りの効果についてツラツラ書かれていた最後の一文を思い出す。
*但し、個人差があります。
友達
よく歳をとると友達作りにくいって聞くけど、そもそも子供の頃から友達居ない人間からすると、もう一生友達なんか出来ないってことだよね
行かないで
ねぇ お願い 行かないで 一人にしないで
そんな私の懇願を振り切って、あなたは部屋を出る
悪いな、俺はもう行かなきゃ
パタン、とドアの閉まる音がやけに大きく聞こえた
「っなんでっ…なんで帰っちゃうのよ!こんな量のデータ入力、一人で出来るワケないじゃないっ」
山と積まれた書類を睨み付ける。手は出さない、山崩れを起こされては敵わない。
ガチャリ、とドアが開く。
「言っとくが、締切日間違えて余裕ぶっこいてた、お前の自業自得だから」
顔を覗かせた同期に期待するも、声を掛ける間もなく、再びパタンとドアが閉まる。
「人でなしっ!」
お前はロクデナシだー、明日の朝、骨は拾ってやるわー
人気のない社内に同期の声が響き、完全に静まり返る。
どこまでも続く青い空
「キノシタ、これ何?」
課題提出の画用紙を前に美術の教師が胡乱な目を向ける。
どこまでも続く青い空を表現しました。
神妙に答えた頭に拳骨が落ちる。
「阿保かぁ。せめて雲の一つでも描かんかい」
再提出。突き返された画用紙を軽く丸め、チラリと窓の外を見る。
やっぱ、どこでも続く青い空じゃん。あ、飛行機雲発見~。白い一本線描き足せばOK?
再再提出が下ったのは翌日のこと。