アクリル

Open App
12/15/2024, 3:25:04 PM

雪を待つ


冷たいなんて言っている場合ではなかった
ビル風の中で何かを探していた

人間はみんな旅人らしいから、きっと私も
動きにくいコートを着た旅人なんだろう。
 
何を探しているんだろう
ぬかるみのような地面がもっと
歩きやすくなって欲しいのに。
こんな泥なんか全部塗りつぶされて
一面がキャンバスのように白ければ
もっと見つけやすくなるはずなのに。

春は遠い昔のようで
しかし惰眠を貪っていれば
そのうち再会するものでもあって。

北風ばかりが吹く冬の入り口に
秋の匂いが混ざっている 

惜しいことにみぞれが降り始める。
あともう少し
足跡が見えるように
凍えた心で祈っている

どうか生き先まで
泥濘に埋まりませんように。

12/15/2024, 2:33:57 PM

愛を注いで


それは偶々だった
けれど愛していた
偶然が苦痛をずらした
積もった砂と埃を払うように
生き埋めのような心地から岩を退かすように

こんな時に限って
なんでも話を渡しに来るなんて。

人間が持てる言葉で一番大きな
ありがたみは何で表したらいいだろうか

愛を注いで
「もらって」
いるのだ。

12/13/2024, 10:02:13 AM

心と心


動悸がしている。
この先、生きていくんだって。
みんな大人になったんだって。
 
未だに懐かしくなんかなくて、ずっと続いていて
昨日のように思い出す空気を
すっかり子供を卒業したみんなは「懐かしいね」と言う。
現在進行形で、その「懐かしい」を生きている私は
何年も前の湿度と光景をなぞっている。

いい加減、手放したらいいのにと
過ぎ去る時間に適応しようと必死な私がため息をつく

こんな状態で、外界に行くなんて。と
今よりよほど慎重な昔の私は
ひたすらに全てを閉じる。

垂れ目のくせして、悟ったような
少なくとも睨みに近いような目で
指定の服に身を包んだ、見覚えのある私に問われる。

答えて。 
「ちゃんと」できてるの?
早熟にも思えた自我がいかに幼かったか
振袖の群れの中で思い知ってるんでしょ?
恥の渦はずっとあるんでしょ?
男女二元論からも逃げてきたんだろ? 
潰しの効かない生き方で、どうにもならなくなって
ついには破滅したんだろ?


...動悸がしている。

使い古した眼鏡にぼたぼたと水滴が垂れて
声を殺していたあの時の部屋で
画面の中に縋って、くだらない言葉の無駄遣いと
ファストな繋がりにしがみついていた夜を
薄汚れた写真を見るような心地で、じわじわと思い出す。

2人の私と、2人分の本心が
諦め切れない過去の中で足を引っ張り合って
今を見る目の焦点が合わない。

もしあの日々が事故なら、きっと運び込まれている
もしあの事象が不可抗力であったなら、こんな後悔はない

2人の私が同時に口を開く。
止められない時間の中で
今を見ようと、過去を掻き分けている
水の中に落ちて溺れかけている動物のような
実体も嘘もない心中に問われているのだ


答えて。
どう生きるつもりなの?

12/11/2024, 4:29:02 PM

何でもないフリ

気の迷いだったよ
予感のようなものだったよ
きっといなくなりたくなるだろうなあだなんて。

お互い、踵を返し切れないこと
察し合っていたよ
後ろ髪があってよかったね、引かれるものがあってよかったね
惹かれるものを持っててよかったね
お互い素敵な人でよかったね

沢山の対話があったね
大事な言葉を幾つも貰ったよ
棺桶にも入れたいプレゼントだよ

あなたは心の専門家なんだったね
いくらでも解ろうとしていたね
豊富な知識を駆使して
機微を両手で掬うあなたの眼差しと
慎重に受け取る声が大切だったよ

包まれる勇気がなかったの
変化を待つあなたのあたたかさと余裕に
申し訳なくなってしまったの
もう少し時間が必要だった

ある日あなたは泣き出してしまった
境界が溶けたせいで
私が深層に詰めて隠していた
タールのような恐れが 
あなたを傷つけてしまった

今度こそ
あなたの差し出した慈愛に対峙したい
それを今しようとしてるよ

もう隠さない、素振りなんて、あなたに言われた通り
全部出してしまおう
キャラクターもレッテルも
持ち続けるだけあなたが苦しくなる。
余裕を演出できるほど私は強くない。

きっと、そんな弱いくらいが本当は強いと
あなたは真っ直ぐに言うだろうから。

逃げる為に閉じて
鍵までかけたドアを開けた。

「ただいま」

優しくて聡明なあなたは怒らない。
全部伝わってるよ、と綺麗な目で語る。

「うん、おかえり」
「もう守るために隠さなくていいからね」

12/11/2024, 8:26:54 AM

仲間


アレルギーのようなものだった
行き交う二足歩行の有象無象が
人間かどうかも怪しかった
けれど憧れていた
憎らしい考えだとは思っていた
どうしようもなかった
誰よりも憧れていたから。

「お前のことなんか誰も相手にしてないよ」
「誰もお前のことなんか助けちゃくれない」
「人を頼るな、全部自分でやるんだよ」

当然のように思える価値観と言葉こそ
見えない重荷と足枷になるなんて
教わっていない
背負う、とはこういうことか、なんて
大人ぶって納得したあの日から
ぼんやりと喜んだり、絶望したりしながら
歩いてきたのだ

表情筋は引き攣って、もう一歩も前に出ない
いつの間にか肩まで外れそうになって
愚かな脳はやっと気付く
情けない独り言

「もういいかなぁ?」

返事なんて無いのがこの世界だ
地球なんてそんなもの
自分で決めるんだよね
知ってるよ、それは教わったから

名前も顔も知らない奴らが
楽しげにしているのを見て
無理解だけが湧き上がっていた
捉え方が全てらしい
それも知ってるよ

私が、私のまま意思を発する事が
怖くてたまらない
そこから構築される信頼とやらが怖い
出会いも別れも、相性が云々にも怯えている
そのままでは始まらない
それも知っている

怖いから、散々怖がった
怖いまま、半べそのまま
私が、私のまま発しようと思った
知らない人と挨拶する親の後ろへ
必死に隠れる幼児のように

「はじめまして」

Next