フィクション・マン

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7/23/2025, 1:25:03 AM

『またいつか』

さよならは、言わない主義なのさ。

今度、幼馴染が遠くの国に引っ越すらしい。親父の転勤によるものらしい。
俺は、さよならを絶対にいいたくない人間なので、とりあえずまたいつかって答えておいた。
「……美人幼馴染にそれは冷たいんじゃないか?」
「ははっ、冷たくないよ」
笑う俺を睨む星奈(せいな)。コイツが、引っ越しをする幼馴染だ。
昔っから男勝りの性格で、スポーツ神経抜群。女らしからぬ発言を繰り返し、いつも俺を引っ張って外で遊ぼうと誘ってくる。
サッカーしたり、野球したり、体育館を借りてバスケやバドミントンをしたりなど、運動をする度に俺を誘い込んでくる。
俺は、どっちかと言うとスポーツマンというよりインテリマン。パソコンいじって、読書して、家でぐーたらしてる方が好きなタイプ。スポーツは不得意ではないが好きではない。
しかし、星奈が誘ってきた遊びを断ったことがない。断ると、アイツはいじけて話しかけても無視しやがるからだ。めんどくさい。そういう時は、甘いもんをプレゼントしてやれば喜んでくれるから、そん時に今度遊ぼうと言ってやれば元気に頷いてくれる。
コイツ中学生だぜ?ガキっぽ過ぎるよな。でも、そんな元気いっぱいの星奈が、俺は好きだった。
だが、そんな星奈の言葉に俺はいつもうんざりしていた。
「じゃ、バイバイ!」
ただの、別れの挨拶だと思うだろ?でも、実際…バイバイという言葉は俺は大嫌いなんだ。
だから、バイバイという彼女に対して俺は「またな」と返す。
バイバイ、さようなら、じゃあね。これは全て、本当の別れの挨拶で、二度と会えない意味での言葉だと思っている。俺の事、面倒臭いと思ってるだろう?あぁそうさ。面倒臭い。でも、嫌なんだよ。嫌なもんは嫌なんだ。
俺が、またなと答えると、いつも星奈はニヤリと笑って、またなと言い返す。こんな感じの仲で、俺達はよくつるんでいた。

中学生までは。

彼女が俺の陰口を言ってる。俺を嫌ってる。それを知ったのは、同じ高校に入ってからのことだった。
「……それホント?」
「まじだって…!お前らよくつるんでるから仲良いと思ったけど…めっちゃお前の悪口言ってんぞあいつ!!」
焦った表情で話す、高校になって新しく出来た友人の一志(かずし)。
「……信用ないね」
俺は冷たくそう言い返してまた読書をはじめる。しかし、一志は本を読んでいる顔面にスマホを押し当てる。
「おい…邪魔だっつーの」
「いや見ろよ!証拠だって!」
スマホの画面には、彼女と、その周りの女子たちが映っていた。
『えー!?それホントなの!?』
『だろ?ホントにアホだろ!!』
『でも驚いた…そんなことがあったんだね』
『まぁな!アイツは親がいなくて寂しがり屋なんだよ!』
『へー、そんな過去があったんだね』
『はは、変だろ?』
『ふふ、まぁ変だね』
『変わりモンだからな!どうも』
笑う女子達。俺のことを、言ってるんだと訴える友達。
俺はそれを目の当たりにして、酷くショックを受けた。親がいない過去を、誰にも打ち明けるつもりなんてなかった。星奈にだけしか、言わないはずだったのに。
俺の両親は、俺を好きじゃなかった。父親と離婚をしてから母親は俺を捨てて、無事じいちゃんばあちゃんにお世話になった。
お世話になるまでの間、帰ってこないボロアパートで一人寂しく、食べるものもなく、真夏の部屋の中、今にも倒れそうなこの温度で、毎日毎日…ずっと待っていた。
でも、来なかった。
あの時に言った母親の『バイバイ』や、父親の言った『じゃあな』が、俺の心の中を更にえぐった。
二度と、戻ってこない。悲しさと苦しさで胸が張り裂けそうなくらい辛くて、涙声をあげる元気すらなく、俺はそのまま絶望と共に倒れ込んでしまった。
俺が部屋の中で倒れているのを、大家さんが発見して大事には至らずに済んだ。鍵が開きっぱなしなのが幸いした。
こんな、誰にも言えないような、惨めで恥ずかしい、誰からも愛されてなかった俺の過去を話せるのは、一緒に寄り添ってくれた星奈だけだった。
星奈は、その時泣いてくれた。そして、私がずっとついてるよっても言ってくれた。
あんな言葉、真に受ける自分もどうかしてたと、今になって公開してる。
俺は、ショックを押し殺して、冷静に友人に感謝を述べた。
「…ありがとう。この動画、俺にも送って貰えるとたすかる」
「あ、あぁ……」
俺の表情を見た友人は少し怖がった。どんな顔してるんだろうね、自分は。
スマホの動画を送ってもらい、それをもう一度見る。……親がいない寂しがり屋だから、笑えんのか?お前には、両親がいるだろ。お前のことを想ってくれる暖かいあの両親が。
俺にはいない。俺を産んだのだって、よくわからない父親だぞ。多分、父親ってよりかは彼氏なんだろうけど。
幾つになっても男遊びしてる母親も、色んな女と浮気して喧嘩して出てった父親も……!!!!!
こんなクソみたいな過去…誰にも言わなきゃよかった!!!星奈にさえ!!!!
放課後、俺はいつも通り星奈に一緒に帰ろうとニコニコ誘われる。俺は黙って彼女の後ろについていき、星奈が不思議そうにどうしたー?って顔を覗かせる。
「…今日のお前、なにで怒ってんの?」
「…………」
「なんかやな事でもあったのかよ」
「………ああ、特大のやつをくらったよ」
「はは!パンチされたのかよ!?」
「……知りたいか?」
俺が怒気を含めた声で星奈の顔を睨みながらそう言うと、星奈は少しだけ不安そうな顔をして頷く。
俺がポケットからスマホを取り出して星奈に動画を見せる。
「……なんだよこれ…」
星奈の表情が焦り始める。俺は星奈を更に睨んだ。
「…俺がお前に両親いないことの過去を話したのも悪い。でも…俺はお前のことをしんじてたからこそ、話したんだよ」
俺が悲しい表情で彼女にそう訴えると、星奈は焦りながら何度も謝ってきた。
「ご、ごめん!!!ほんとごめん!!言うつもりじゃ…!!でも!!こ、これホントにそう言う意味じゃなくて……!!!」
俺に触れようとする星奈の手を払い除け、俺は更に怒気を含めた声で彼女にキレた。
「いいよな。お前の両親は、お前を愛しているんだから。分かるわけないよな?両親がどっちもクズで捨てられた俺の気持ちなんて」
「だ、だからこれは!!!」
「お前と俺は違うんだよッ!!!!!!!!!!」
いつも、物静かで声を荒らげることがない俺の怒鳴り声を受け、星奈はビクついて驚く。
「お前はスポーツが好きで…俺は嫌いだ。お前は物凄く明るいけど、俺は暗いし、引きこもりだ。お前と俺は、対比の存在なんだよ。
真逆!全くの真逆の人間なんだよ!!水と油ってくらいに、俺とお前は合わないんだよ!!」
勢いで、彼女にそう吐き捨てる。星奈は泣いていた。言われたこともない悪口を、俺の言葉から次々と出てくるからだ。
「…二度と、俺と関わるな。あと、俺の惨めったらしい過去のこと…はぁ、もうどうでもいい」
ため息を吐いて、俺は彼女を置いてくように離れる。
「ま、待って……!」
星奈が俺に近づこうとするが、俺は触んなと言って、彼女に一言だけ伝えると、それを聞いた彼女はまたポロポロと涙を流す。
「さよなら」
絶対に口にしない言葉。この言葉を聞いた星奈は、その場で泣き崩れた。
ふん、泣きたいのはこっちだ。勝手に人の過去をばかすか言いふらしやがって。おかげで色んな人から、親いないの?って聞かれたんだぞ。クソが。
この日から、俺と星奈は絶縁した。
お互い、話しかけることもなく、ずっと赤の他人。全然それで俺は構わなかったし、逆に清々した。
そんな中で、彼女の引越しが決まったとの情報が入った。
聞いた時は、たまらず顔を逸らしてしまった。悲しいという気持ちが、強く溢れでてしまったから。
赤の他人なのに、なんで俺は悲しんでるんだ?ショックを受けてるんだ?なんで苦しいんだ?

『さよなら』

これが本当の意味になるとは、思わなかった。星奈に会いたくないとばかり思っていたけれど、少しづつ近付いてく別れの日のせいか、俺の心はどんどん寂しい気持ちになっていく。
お前と俺は、もう親友じゃない。なんて言ってしまったし、相手は俺の過去を言いふらした最低な奴だし。
こんなことを、思うのはおかしいんじゃないか?俺は、なんなんだ?と、感情がぐちゃぐちゃ入り交じる。
不安と混乱で、頭がどうにかなりそうだった。
そんな中、星奈の女友達が、俺に近付いてあの時の動画のことを知ってか、あれには訳があるのって説明してくれた。

放課後、友達と話してる時に、ふと聞かれた。
『なんでそんなに星奈と麗大(れいた)君は仲がいいの?』
『仲がいいなんてもんじゃない。アイツは…私にとって親友以上の存在だよ』
『そうなんだね。え、それってもしかして…麗大君に恋してたりとか……?』
頬を染めて、顔を逸らす星奈に周りの女子達はキャーキャー言ってくる。
『なんで付き合わないのー!!告白しちゃいなよ!!』
『…いや、私の事、女として見てないかもしれないから無理だろ』
そう言って、悲しむ星奈を周りの人達は応援してくれた。
『麗大君と星奈が一緒にいるのよく見るけど、麗大君も凄く幸せそうだよ!!絶対にお似合いだって!!』
ニコニコする友達の顔を見て、私が今度気持ちを伝えてみると言った時、ふと、一人の女子が星奈に疑問をぶつけてきた。
『そういえば…麗大君ってお母さんかお父さんいないの?』
『……え?』
星奈が驚いてると、友達は続けて説明した。
三者面談、進路相談、保護者会、体育祭・文化祭などに一切保護者が来てないし、他の生徒は親が来てるのに、いつも一人ぼっちですごしてる。
先生から「親御さんはどう言ってた?」と聞かれても、答え方が曖昧だったり、「自分で決めます」と言い切ってるのを聞いたことがあるみたいで、それに対して担任が妙に慎重な口調になると説明した。
完全にバレかけているし、いずれ時間の問題だと思った星奈は、つい、麗大の過去を漏らしてしまった。
全部を言ったわけじゃないけれど、皆はやっぱり驚いていた。
『私に教えてくれた時、私は麗大のことめいいっぱい抱きしめてボロボロ涙流しながらこれからも一緒にいようって強く言ったんだ。強く締め付けられたアイツは苦しくなりながらうんって答えてくれたよ!
そのあと、涙でまともに前が見えないのに野球して窓割ったけどなw私がw』
『ちょっと!なにしてるのw』
『はは!』
その後も手を繋いで学校に通うこともあったり、アイツのじいちゃん家にお邪魔した時は一緒にホラー映画見たりゲームしたりして凄く楽しかったと言った。
ほぼ付き合ってる関係じゃん!!と周りは驚く。
『えー!?それホントなの!?』
『まぁな!アイツは親がいなくて寂しがり屋なんだよ!』
『でも…そんな過去があったんだね』
『はは、変だろ?』
『ふふ、まぁ変かもね』
『変わりモンだからな!どうも』
『泣きながら野球をする変わりもんだよねッw』
『なっ!うるせーよ!』
そう言いながら、笑い合う皆。そして、友達に麗大に対する気持ちを伝える。
『…私にそれを話してくれた時…私は絶対に麗大の傍に居たいと思ったんだ。でも、その気持ちは麗大に親がいないからとかじゃなくて…麗大が凄く良い奴で…優しくて…大好きだからなんだ。
アイツと一緒にいると、楽しいし、笑顔も増える』
周りの人達が星奈の顔を見て、これからも麗大君のことを幸せにしてあげなよと応援し、星奈はニコリと笑った。


本当に、彼女がそれを言っていたならば、俺は本当に、クズ野郎になる。
クソ。いずれバレることだと思って彼女は言ってしまったんだな。悪気なく。
それを、俺は…星奈を本当の悪党と見立てて、絶交発言までしてしまった。自分の言ってしまったことに、深く後悔した。
「…星奈は…麗大君のこと大好きだよ…陰口じゃない。本当に、凄く好きだって気持ちを、私達に教えてくれたんだよ」
女友達が、俺に真実を伝える。あの動画は、たまたま悪く聞こえるような一部分を切り抜いただけに過ぎない。俺は、また悲しくなって、苦しい気持ちと、申し訳ない気持ちと、今更どうすればいいのか分からないこの気持ちで、心の中はぐちゃぐちゃだった。
ポロリと涙を零し、それを見られないよう顔を逸らす。
女友達は、それを見て、なにやら廊下の方に手を振っている。ふと、廊下を見ると、そこには星奈がいた。

「一緒に…今日は帰りたい」

最終日。学校に来るのがこれで最後になったという最終日に、星奈から俺に話しかけてきた。
俺が少し考えていると、周りの人達は、行けよと難度も念を押してくる。俺は久々に、星奈と一緒に帰ることになった。
案の定、やはり気まずい。このお互いどっちから話しかけたらいいか分からない状況が、本当に俺は嫌いだ。俺から話しかけたいけれど、あんな強く彼女に怒ってしまったのが災いしてか、中々話しかける勇気が出てこない。お互いモジモジしてると、星奈が先に俺に話しかけてきた。
開口早々、出た言葉は「ごめん」だった。
「…あの時は…ほんとごめん。お前の過去…勝手に言ってしまって……」
ポロポロ涙を流す星奈。続けて言葉を吐く。
「でもあれは…お前のこと悪く言ってるんじゃないんだよ」
「……うん」
「ほんとごめん……私にだけ…話してくれたのに……秘密言っちゃって……皆に……」
涙を拭う星奈。拭いきれない量の涙が、またポロポロと落ちていく。
「私のこと…嫌いになったよな……ホントに…ごめん……」
泣いてる星奈の顔を見て、俺は気持ちを伝えた。
「……星奈のこと、好きだよ」
彼女の肩が、びくんと跳ねた。
涙に濡れた頬を片手で押さえたまま、ゆっくりとこちらを振り向く。
「……え?」
振り向いた顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
目を見開いて、信じられないといった表情で、俺を見ていた。
「……本当は、ずっと言いたかった。でも……俺なんかが…星奈に好きだなんて言えるわけがない」
俺は俯いて、呟く。
「俺は両親に捨てられた人間だ。小さいころから、誰かに愛されることに慣れてなくて……気づいたら、幸せになることにすら、びびるようになってた。毎日、お前と遊んでいて、幸せで…すごく楽しかった。でも、それはやっぱり一時だけの話かもって…いつかこの幸せが崩れるかもしれないって思って……」
自分の拳を、ぐっと握りしめる。
それでも声は震えていた。
「こんな俺が、誰かを幸せにしていいのかって。俺が原因で別れた両親みたいに…人の幸せをまた壊してしまいそうで……星奈に対する気持ちを、ずっと黙ってた」
彼女は、何も言わずに俺を見ていた。
涙は止まっていなかったけれど、その目は先程の悲しさは失われ、痛みを分かち合ったような優しさで溢れていた。
そして、震える手で俺の袖を掴む。
「……そんなの、関係ないだろ。私は……お前と一緒にいたいんだ」
その瞬間、張りつめていたものが、音もなくほどけていくのがわかった。
「……私は海外に引越しちゃうけれど…でも…私を忘れないで。必ず戻ってくるから…だから…………」
また涙が溢れてくる。俺も、たまらず泣いてしまった。
俺は、星奈の手を取り、目を見て伝えた。
「待ってるよ。必ず。その時まで…星奈が俺を好きでいてくれるのなら…俺はいつまでも待ってる」
「…ホントに…いつ戻ってくるかわかんないぞ…数年後…数十年後かもしれないし…」
「大丈夫。俺は、星奈のことが好きだから」
その言葉を聞いた瞬間、星奈はまた涙をポロポロ流して、頬を染めながら私もだと言った。
夕日の光が、2人をそっと包み込んだのがわかった。
「…その時は…その…付き合うって…ことになるんだよな?」
モジモジしながら聞く星奈を、少しからかうように言った。
「ま、それはまたいつか」
その発言に、星奈は少しムッとする。
「……美人幼馴染にそれは冷たいんじゃないか?」
「ははっ、冷たくないよ」
笑う俺を睨む星奈。
お互い、手を繋いでゆっくりと歩いた。時間が許す限り、二人の愛はここで永遠に続いて欲しいと、星奈と麗大は思った。








「……じゃあ、行くよ」
引越し当日になった。沢山の荷物を持って、彼女が空港のロビーで家族と共に行こうとする。
「ありがとう、じゃあな」
星奈が、いつものように別れの挨拶を笑顔で言った。
けれど、その笑みの端がかすかに震えているのを、俺は見逃さなかった。
俺はうなずいたあと、ポケットに手を突っ込み、精一杯明るい声を出す。

「またな」

そう言った瞬間、彼女の表情がふっとゆるんだ。
一瞬、無表情に見えるほどに感情を押し殺した顔。
だけど――その目から、ぽろりとひと粒、涙が落ちた。

「……行きたく…ない…」

そう呟いた彼女は、次の瞬間、俺の胸に飛び込んできた。
思わず受け止めた体に、彼女の小さな震えが伝わってくる。
腕の中で、声を押し殺しながら泣いている。
「ほんとは行きたくない……まだまだずっと…お前と一緒にいたいよ……」
俺は何も言わなかった。
言える言葉なんて、何ひとつ、見つからなかった。
ただ、彼女の細い背中にそっと腕をまわし、しっかりと抱きしめ返した。
彼女の涙が、俺のシャツを濡らしていく。
それでも、泣いている顔を見せずに、彼女はただぎゅっと、強く抱きしめてきた。
「…俺は、別れは言わない主義だから…別れの言葉さえ交わさなければ…いつかは会える。だから、またいつか…二人で一緒に遊ぼう」
ポロポロ流す彼女を、両親も少し泣いていた。
「あぁ…!!」
ニコリと笑う彼女の顔を、今でも忘れない。



飛行機雲が晴天の空にあるのを見ると、星奈のことを思い出す。
少しため息を吐きながら、俺が会社に向かっていると、スマホの通知がなった。
見ると、星奈からだった。
「…まじか…!」
メールを見て、俺は喜んだ。






7/15/2025, 9:13:09 PM

『二人だけの。』

俺には友達がいた。たった一人の友達。名前は智樹。
智樹とは小学生の頃はよく遊んでいたものだ。それは今でも覚えている。
しかし、中学になると共にあいつは俺の元から去ってしまった。やはり、向こうにも新しい友達が出来たからだろう。仕方がないこと。
しかし、その時の俺は……アイツに依存してしまっていたのかもしれない。
去ってしまってからは少しだけ寂しいような気持ちになって、憂鬱な日々が続いていた。もう遊ぶわけないよな。アイツにも友達が沢山いて、俺もその中の1人なんだから。

俺はとある日、ゲームの中古ショップに寄った。新作のゲームを中古品でもう売られていないかなぁと思っていたからだ。
六千円くらいで買えたらいいが…と探すと、とある中古のゲームを目にする。
「……これ…確か……」
前のゲーム機のものなのだが、そのゲームは俺と智樹でよく遊んでいたものだった。
「うわ…懐かし……」
小学三年生の頃。ランドセルを置いてゲーム機を持って公演でやっていた時の記憶が一気に蘇る。その時に見たひつじ雲の夕焼けは今でも脳裏に刻まれている。
こんなものを持って眺めてるのも恥ずかしいなと思いそっと戻す。
……そういえば。
そう思い、俺は中古ショップから飛び出して家に帰り、部屋の中の机を漁り出す。
「……うわ、まだ持ってたのか」
それは、ゲームのカセット。智樹から借りた、結構前のゲームのカセットだ。
いつか返そう返そうとしているうちに、俺たちは成長してしまった。お互い、あの時のような関係は二度と戻らない。
俺は、そのゲームカセットを机に置いて椅子に座って思い出にふける。
確かに仲は良かった。智樹とはな。でも俺とアイツは喧嘩ばかりでもあった。けれど、次の日にはケロリと仲直りしてまた遊んでいた。そんな感じがずーっと続いて…でもよく、小学六年生まで友達を辞めようとしなかったよなと少し笑みを浮かべる。
部屋で一人、カセット見て何にやけてんだか。自分に馬鹿馬鹿しくなりつつ、俺はそのカセットをまた引き出しに戻そうとしたその時だった。
部屋のドアをノックする音。
「はーい」
「あ、海斗?ちょっといい?」
「なにー?」
「あのね、玄関で野崎君が懇談会の紙を持ってきてくれてたみたいよ」
「えっ」
嘘?智樹が?俺は耳を疑った。なんでわざわざ智樹が俺ん家に紙を私に来てくれるんだ?アイツは俺とは関係ないだろ。
俺は黙り込んで、母さんが受け取ってよと答える。
「でも…顔ぐらい合わせたらって。どうしても嫌なら私が受け取るけど」
そう言われると……アイツの顔、久々に見る気がする。大して変わってないと思うが。少しだけ考えて、嫌だけどもうどうせ会わないと思って俺は承諾した。
「わかった。じゃあ会う」
「じゃあ母さんリビングに戻るわね」
そう言って母さんは階段を降りていく。
机に置いてあるゲームカセットを見て、俺はそれを何故かポケットに隠した。
俺は部屋の扉を開けて、一段一段慎重に階段をおりる。会いたくねー。こんな格好で。
ボッサボサだし、寝巻きの姿だし。
ため息を吐きながら、玄関のドアに到着。いる。人影が見える。自分より少しだけ身長が高いアイツが。
俺は恐る恐る扉を開ける。
「……………………あ」
「…………………………………おう……」
ドアをゆっくり開けたせいで気付かず、相手が気付くまで俺は何も言えなかった。そして、目があわさってようやく挨拶を交わす。気まずい。
「……元気…してた?」
「…………んー……」
「お前…クマすごいな」
「…………」
やばい。何も返せない。あんなにも仲良くしていた友人なのに。そのはずなのに。
俺が何も言えず、下を向いていると、智樹が紙を指しだす。
「ほら、先生からだってよ」
「………ありがと」
俺がその紙を手にしてさっさと扉を閉めようとすると智樹が俺のことを呼び止める。
「おい…いつ学校来るんだよ」
「………」

今日で三ヶ月以上休んでいる。
行きたいわけがない。行けるわけが無い。行ったって意味がない。
歯を食いしばって頑張った中学校生活は、俺にとっては地獄そのものだった。
人の目を気にして…皆に授業での失敗を笑われて馬鹿にされて、孤立して…そんな中、仲良くなったかな?と思い始めた友人に実は陰口を叩かれていて。
本当に、誰も俺の味方なんか一人もいなかった。
決定打となったのが…告白されたこと。
どうせイタズラだと思って振ってみたらそれが本当にまじだったみたいで…どこに俺の惹かれる要素があるのか何も分からなかった。
「大してイケてねーくせに振ってんじゃねーよ」
「優しいらしいってのは、嘘みたいだな」
「まぁ男なんて女のこと顔でしか見てないだろ」
「アイツも大した顔じゃねぇだろwww」
俺のことを好きと言ってくれる子を振ろうが振らまいが、結局こうなるんだろうなと想像できた。
そこから、悲観的に物を見るしかなくなって、学校に通うことも無くなっていった。
鏡を見ると、まるで別人だった。クマはできるし顔色も悪いし肌も荒れてるし。
熱もないのに倦怠感で、学校に行けば必ずトイレに通っていた。お腹を壊す俺のことを、皆はトイレと友達なんかと馬鹿にしてきたよな。
一週間以上学校に行かないでいると親が診療内科に連れてってくれてた。
鬱病の診断が出た。
そりゃ。そーだよな。
自分は、病気だ。だから行く必要無いやと開き直るようになり、俺は一人で溜め込んだ小遣いを浪費する毎日だった。と言っても、ゲームだけなんだがな。
親はそんな俺を指摘しない。
来いと願ってくれる友人もいない。
行ったところで、徳など何も無い。
俺は、一生このままだろうなと思っていた。

「公園に来てくれ」
「……………は?」
「……お前に渡すもんあるからさ」
そう言って、智樹は待ってるとだけ伝えて颯爽と去っていく。俺が何かを言おうとした時にはもう居ない。
「……ええ…すっぽかそうかな…」
なんて、行かない気でいる自分がポケットに手を入れるとゲームカセットを入れていたのを思い出す。
……なんで俺、入れたんだっけ。特に理由は無い…はず。
でも……いや…………本当に意味なんて。
俺は、公園に出かける準備を最短で済まして、家から出る。空は、あの時、智樹と見たひつじ雲の夕焼けだった。
この景色が、懐かしく思えてくる。
ため息混じりで家の近くの公園に行くと、公園のベンチ腰をかける智樹の姿が。
「……お、きたきた」
智樹が俺に手を振る。
俺がゆっくり智樹に近付くと、智樹が自分からベンチに立って俺の方へ歩み寄る。
「……来たんだなまじで」
「…………で…何のようだよ…」
俺が智樹の目も合わせれずにいると、智樹が俺の前になにか差し出してきた。
なんだろうと思い、それに目をやると、それは小学生の頃に持っていたガチャガチャだった。懐かしい。
「……前にさ、ショッピングモール行った時に見つけたんだよ……懐かしいだろ」
そう言って微笑む智樹。
「……これ、お前と遊んでた時…俺うっかり壊したろ。今更かもしれないけど…あん時壊しちゃったやつ…これで許してくれるか?」
確かに、智樹に壊された記憶はあったが、言われるまでそんなの一つも覚えていなかった。何年前の話だよ、と思っているものの、俺は何か、込み上げてくるものがあった。
なんだろ。優しさなのかな。
智樹の優しい笑顔を見て、俺はたまらず目から涙がこぼれ落ちた。
「やば」
「!」
智樹が泣く俺に驚いてたが、すぐ顔を隠して涙を拭う。
「ん……ありがと……うれしいよ」
そう言って、今にも零れ落ちそうな涙目で智樹に伝えると、智樹は悲しい顔をしていた。どうしたんだ?と思い俺が智樹のことを見ると、智樹は夕焼けの方向に顔を向けた。
「……お前がさ、休んだ時…っつーか…休む前のときかな。俺、お前のこと助けられなかった」
智樹は少し震えた声でそう言った。顔は見えないけれど、俺はその場で智樹の後ろ姿を見つめていた。
「お前がさ………皆からやな事言われてんの知ってたんだ。でも……助けられなかった…だって、仲良くしてるヤツらもお前のこと言ってたから。
俺は……だから俺は……そいつらにやめろなんて言えなかった」
俺は、頷いた。
「……仕方ないよ。大丈夫」
俺がそう言うと、智樹が俺の方を見る。涙目だ。コイツも、泣きそうになっていた。
すると智樹が、土下座をしてきた。
「えっ!!!!ちょ……!!!」
俺があたふたしてると、智樹はごめんと強く謝った。
「本当にごめんッッ!!!!お前の事裏切ったことして!!!俺は何も分かってなかった!!!お前の痛みも気持ちも…!!全部…全部っ!!お前のことっ…なにも知らな、いくせにさ…!!!
弱かった…臆病だった…友達だって言いながら、お前を、ひとり地獄に置いて……!」
俺は、そんな智樹の肩に手を置いた。
「……顔、上げてよ」
智樹がゆっくり顔をあげる。涙でいっぱいの、間抜け面。泣かなくても、いいんだよ。
「……誰だって、誰かに嫌われそうになった時……怖くてそうしてしまうと思う。
俺も……多分そうするかもしれなかった。
だから、もう謝らないでほしいし、自分を責めないでほしい」
優しい顔でそう微笑む海斗。
そう言うと、海斗がポケットからゲームカセットを取り出す。
「……これ、覚えてるか」
「……これ……」
「あん時貸してくれたやつ…ずっと、返せなかったけれど……こんな形で返す感じになっちゃったけど……」
ゲームカセットを手にして、智樹は涙を拭いながらありがとうと鼻声で答える。
「……遅くないよ。大丈夫だ…ゲーム機、どこやったか分かんないけど」
「はは、結構前だしな」
二人して涙声で笑う。こんな照れ臭い、二人して公園で…夕焼けの空の下で、何微笑んでるんだか。他者がみたらドン引きだろうよ。
なんて思っていても、俺は智樹と話せたことに喜びを隠しきれなかった。
智樹が、そのゲームカセットをポケットにしまい込んで立ち上がる。
「……お前にしてしまったこと…絶対許されることじゃないけど…。でも、それでも、もう、お前を裏切らない。もう一度だけ……信じて欲しい」

海斗を助けられず、皆と一緒になって、海斗のことを見て見ぬふりをしてしまって、その結果…智樹は居なくなってしまった。空の席を毎日眺めて、後悔する日々。
助けていたら。少しでも話しかけるゆうきが俺にあったならば…アイツはきっと、ここにいるんだろうな。
そう考えてる智樹もまた、小学生の頃の記憶を思い出していた。
楽しく遊んでた日々。アイツは変わらず元気で、俺をからかうこともあった。俺もアイツをからかって、変な感じになって喧嘩したりなんかして、でもそれがめっちゃたのしくて。
思い出して、苦しくなる。
そんな時に先生が彼に届けてくれる人。と帰りの会で言う。
ウザイ奴らは「誰だよそいつwww」と小馬鹿にして笑っていたが智樹が手を挙げて俺がアイツに届けますと言う。
みんなびっくりして、海斗にやめておけとばかり言う。
「どうせ届けてやったところでこねーだろあんなやつ」
「保護者会って…まともに来てないのに成績絶Cだろwww」
「見た目も馬鹿っぽいしなwww」
耐えられず、智樹はヘラヘラ笑うそいつらの机を蹴って、怒鳴り込んだ。
「うるせぇよ!!!!!!!!!」
そう言って、静まり返る教室。ソイツらも、流石にびっくりしたのか黙り込む。
「なんにも知らねぇで…勝手な考えでアイツの悪口言ってんじゃねぇよ!!!!!!」
そう言って、帰りの会をすっぽかして教室を飛び出す。このまま、届けに行こう。
そして、謝るんだ。海斗に。

勝手だよな。こんなこと言って。と、思う智樹だったが、智樹の言葉に、海斗は頷いた。
「……それが、条件だな?」
「……え?」
「……俺が、学校へ行く条件だな」
「……え…お前…本当に言ってんのか…?」
智樹は驚いた表情で聞いてくる。俺はまた頷く。
「明日からな…」
「明日!?」
「うん」
「……はは、ははは!!マジか!!!」
聞いてくる智樹に何度も俺は頷いた。
「やった…!!!まじでか!!ははは!」
智樹は、本当に本気で心の奥底から喜んでいた。
「明日、一緒に登校しような!!!」
そう言ってにかりと笑う智樹。

帰り道、ふともう一度夕焼け空を見上げる。
淡いオレンジの光を浴びたひつじ雲達は、その日しっかりと二人の友情を確かに見た。


…成長してしまったのは、お前だけなのかもしれない。

7/14/2025, 5:22:45 AM

『隠された真実』

彼女を見ると、胸が締め付けられる。なんだろうか。言葉が何も出てこないような…そんな気持ちになる。
彼女を見ていると、彼女がこっちに気付いて、すぐに顔を逸らす。お互い、気まずい雰囲気になる。
「………っ…」
そんな中、席替えで彼女と隣の席になってしまう。やばい。気まずい。どうしよう。
本当にお互い気まずい雰囲気なってしまった。なんで隣の席になったんだよ…と教師を恨んだ。すると、その日の英語の授業で、隣の人と今度人前で一人で発表する、〇〇県(自分の)いい所…の練習を隣の人としてくれと教師が言ってきた。
その言葉を聞いて絶句する。まじかよ…。どうしよう。お互いもじもじしていると、彼女が口を開く。
「えっと……やろっか……」
気まずそうに話す彼女に、俺は頷いて俺から発表の練習をした。発表では紙を見ることを禁止されており、一応書いた紙を彼女に渡して、合ってるか合ってないか的な感じで練習していた。
「is…………」
「……?」
急に黙り込む俺の顔を伺う。
「…分からなくなっちゃった…?」
「………………いや……そうじゃ…………」
俺が黙り込んでいると、彼女が口を開く。
「……大丈夫…あの時のことならもう終わったことなんだから気にしなくていいよ!大丈夫!」
ニコリと笑う彼女を見て、余計に胸が苦しくなる。
「……ごめん…」

数日前の出来事。

俺は、スコップを持ってある場所へと足を運んだ。
ある場所に到着すると、俺はすかさずその場所の地面をスコップを使って掘り起こす。15分ほどで何かに当たる音がして、手でゆっくり土をよかすと、そこには缶箱が出てくる。
俺は早速それを取り出して缶箱の中身を開ける。
中身は綺麗なネックレスとそして手紙。手紙を開いて読む。
その手紙に書かれていた内容が以下となる。

俺へ。

これを開けたということは…何かあったということなんだろ?

分かってる。

このネックレスを返してくれ。

今の自分には出来なかったことだから。

頼む。

今の俺より。


風間 芙美(かざま ふみ)。彼女のネックレスだ。
高校一年の頃の俺は、本当に糞餓鬼で、正しいことと悪いことの区別は着いているのに、調子に乗ってつい行動してしまう最悪なやつだった。
その時に、大切なものを芙美から奪った。家族からプレゼントされたネックレス。それがこの缶箱に入っているものだ。
なんでネックレスなんか学校に持ってきているんだよって、皆でからかって……そのまま、俺は彼女のネックレスを……。
その時は、皆のノリで取ってやったという感じだった。俺がとったわけではない。じゃあなぜ手元にあるのか?
体育の授業前で外して机の中に入れていたであろうネックレスを俺らは取った。
「アイツいっつもネックレスつけてるよな?」
「確かに…シャレ気取りなのかよ?」
「しかも先生も怒んねーし!!俺らなんかピアスばれた時殺されかけたっつーのによぉ!!」
つるんでいた奴らは全員、芙美に不満があった。なんで俺らが怒られて、あいつは怒られねーの?女だから?可愛いから?理不尽を感じていた。
だからその…悪ノリで、芙美の机の中にあるネックレスを隠したんだ。無くしたと思い込んで絶対に焦るぞあいつって思ったんだ。

でも、体育終わりの芙美は予想以上に焦っていた。周りの女子達も探し出し、机の中に入れたのにと何度も涙目でさがしていた。
皆はへらへらしていたが、俺はさすがにやりすぎたとすぐに焦った。返した方が…と案を出すが、あんな安っぽいネックレスなんかどうでもいいだろと言った。
まぁ…あんなのネットで数百円で買えそうだし、別に無くなったっていいかとその時は思った。
しかし、帰りの終礼前に先生から大事な話があると言ってきた。内容は勿論、ネックレスだ。
そのネックレスは、亡くなった母親の形見らしく、彼女はそのネックレスを大切にしていたとのこと。机の中に入れていたと本人は言っており、もし盗んだやつは勿論犯罪だが、そうじゃなかったら、彼女のためにネックレスを探してやってくれないかと先生は言っていた。
やばい。なんてことしてしまったんだ。俺はものすごく焦った。しかし、仲間は全然焦っている様子がなく、それどころか普通の顔で俺に言ってきた。
「返すわけねーだろ。バレたら俺らやべーよ」
「だ、だけど形見だぞ!!」
「で、だからなんだよ」
「……!!」
さも、当たり前かのように返さないと言う仲間を見て、俺は驚愕した。なんでそんなこと言えるんだよ。普通返すだろ。
「じゃ、お前返せんの?学校終わるけど」
「……それは…」
「無理だろ?」
「……………………」
「あと、もし返すにしても俺らの名前絶対言うなよ」
「……」
アイツらは、自分勝手だ。しかし、俺も最低なクズで、返したら学校生活が終わるとビビってしまったから。
「あ、お前そのネックレスなんとかしとけよ。捨てるなりなんなりさ」
「………………」
んなこと、死んでもできねぇよ。
だから、俺は缶箱の中にネックレスを入れた。いつか、勇気が出たら芙美に返せるようにと願って。
ずっと、ずっとずっとずっと怖かった。返すのが。もし、返したとして…自分がどうなってしまうのか。
何も出来ないまま、クラス替えが行われ、そして、二年は芙美と一緒では無いものの、三年で芙美と再度同じクラスとなってしまう。
彼女を久々に見るが、普通に元気そうだった。みんなと楽しく会話をし、仲睦まじくじゃれていた。…
もしかしてネックレスの件忘れてるんじゃないか?と淡い期待をしていたが、たまたま俺の席の近くで芙美の友達がネックレスの件を話したとき、俺は心臓がとび出そうになった。
恐る恐る、聞き耳を立てる。
「ネックレス…結局見つからなかったの?」
「…………うん。あ!でもね…お父さんが新しいのを買ってくれたんだ…私のために」
「あ、そうなんだね。優しいお父さんだね」
そう言う女友達だが、数秒遅れてうんと言う芙美。
そして、震える声でこう言った。
「…お母さんに…謝りたい…」
顔は見てないが、周りの女子が恐らく泣いている彼女を励ましていた。
「私のせいで…大切なネックレス…無くしちゃったから………」

彼女の言葉を聞いて、耐えきれずに家にかえってスコップを持って近くの公園に走り出す。
掘り起こして、出てきた缶箱の中身にあるネックレスを持って、女友達から芙美の連絡先を教えてもらって無理やり公園に呼び込んだ。
「……大事な話があるんだ…あの…風間さんに…」
「えっ……あ……その……」
「……いや…そういうやつじゃなくて…その、謝りたいことがあって。だから、来てもらいたいんだ。不安なら、友達も呼んでいい。大切なことを君に伝えたい」
芙美は黙り込んだ後分かったと言って、俺は通話を切る。
震える手。高校三年生。これをもし返して、今、問題になってしまったら…行きたい大学に行けなくなるんじゃ……両親は俺の進学を快く思っている。頑張れって応援している。
でも、自分がしたことに、いつまでも不安がっているのもとても嫌だった。
やがて、彼女が数分後にやってくる。
「……どうしたの…?公園に来てって……」
困惑する彼女に、俺は震えながら背中の後ろに隠していたネックレスをおそるおそる彼女の前に差し出す。
「……!!!!!!!!」
芙美が手に取って驚く。
「これ…お母さんのネックレス!!!!うそ!!どこで見つけたの…!?!?!?」
俺は涙を流しながら、全てを話した。
「……違う…違うんだよ…見つけたんじゃない…これは…俺が取ったんだ」
「…………え…?」
俺は土下座をしながら、彼女に謝った。
「ごめん!!!!本当に…!!!!
形見とは知らなかったんだ…ネックレスをつけた君を羨ましがって…俺はとってしまった…!!!
終礼の時に先生の言葉から形見だって聞かされて…机の中に入ってたネックレスを取ったから…問題になるのが怖くて隠してたんだ!!
ずっとずっと…!!ずっと…怖くて渡せなかった…!!本当に本当にごめん……!!!辛い思いをさせて…!!
許されることじゃないけれど…それでも…いつか返したいと思っていたんだ…!!
ごめんッ…!!!」
思いっきり地面に頭をこすりつけて謝罪をする。
返せた。言えた。やっと。
もう、本当に。
自分なんかどうでもいい。
返せて本当に良かった。
二年間も…彼女を待たせてしまった。
本当に、すまない。
頭を下げる俺に、顔を上げてと芙美が俺の近くに寄って肩に手を置く。
「…いいよ。だから、顔を上げて」
俺が顔を上げると、芙美が微笑んできた。
「……ネックレスが戻ってきて…本当に良かった。
私ね、怖かった。
お母さんが病気で亡くなる前に…私にネックレスをくれたの。
亡くなってから凄い落ち込んで…毎日泣いて、泣きすぎて吐いちゃって…凄く心が不安定だったんだ。
ネックレスを見ると、優しいお母さんのこと思い出しちゃって。
でも、それでも、お母さんがくれたものだから、毎日つけていたの。
それで無くしちゃったってなった時…お母さんの大切なものが無くなって凄く悲しかった。
…でも少しだけ…こんなこと思うの、最低かもしれないけれど…少しだけ、楽になったんだ。
ネックレスを見るとお母さんのこと思い出しちゃって…だから、無くしちゃってからは自分と向き合う時間ができたんだ。
私…いつまでもくよくよしちゃだめだって…頑張ろうって。
でも!お父さんが代わりのネックレスを買ってきてくれてね!すごく嬉しかった私。
……確かに…取られちゃったのは少しビックリしちゃったけど…でも逆に言えば自分と向き合う時間も出来たから…もう謝らなくて大丈夫」
芙美は、優しい表情でそう言った。
こんな、こんなにも優しい彼女を…俺は…。
罪悪感で、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「……あのね…先生には…このことは秘密にしてね」
「え…!?」
俺が驚いてると、芙美がお願いをする。
「もうこれは終わったことだから…それに、もし言っちゃったら大変なことになるかもしれないから」
「で、でも俺は……!」
なにか言おうとすると芙美が俺のつけているピアスを指さした。
「……その……見て」
ロングで耳にかかってないため、分からなかったが穴が空いていた。
「…あの…反省してる気持ちはわかったよ…でも、先生にはこのことは内緒でいいよ。
…そのピアス…オシャレだから…その…も、貰えたら…、嬉しいな」
そう言う彼女の照れくさそうな顔を見て、俺はすぐピアスを外して芙美にあげた。
「…こんなんじゃ…埋め合わせにはならないけれど…でも…自分がしてしまったことに向き合って…これからは生きてくよ。芙美が求めることなら、なんでもやる」
俺が真剣に芙美にそう言った。
芙美はニコリと笑って、ありがとうと言った。
貰ったピアスを、耳につける芙美。
芙美がつけるピアスは、自分がつけるよりもとても綺麗に見えた。


英語の授業での話に戻る。
芙美が発表を全部言い終えると、俺が前を向いて教科書やら発表資料やらをまとめていると、ちょんちょんと腕を触ってきた。
俺が芙美の方を見ると、芙美は微笑みながら耳につけてるピアスを俺に見せてきた。
ピアスなんてつけたるのバレたら怒られるのに…。なんて思いつつも、ピアスをつけた芙美はとても可愛かった。

7/12/2025, 1:16:09 AM

『心だけ、逃避行』

社畜真っ最中の奥山 充(おくやま みつる)は、疲労困憊で今日もベットで眠りにつく。
眠る前にホットミルクを飲み、目覚ましをセットして深く、落ち着いて呼吸をする。
暗闇の中。とても静かな空間。疲れた体がベットに沈んでいく。この感覚は……もう睡眠確定演出だ。そう認識した奥山は、また体の力を抜く。
すると!!!
「っ!!!!!」
ズルっと落下する感覚に落ちたと同時に、目を開けるとそこは…宇宙…だった。
「……は???????????」
頭がハテナまみれで、あ。これは夢なんだ。とすぐ認識した。だって、宇宙空間なのに普通に呼吸はできるし、鳥のように、飛行機のように色んなところに飛べるしで、普通に現実的にありえないような事ができるからだ。ていうか、寝ていたら急に宇宙ってのも変な話だが。
宇宙にふわりふわりと浮かびながら、星々を眺める。宇宙というのは、普通真っ暗な闇の中で、我々が地球上で見ている星というのは地球上の大気の揺らぎによって星が瞬いて見えているのであって、宇宙空間には大気がないため見えることは無い。
何もない真空なので反射する物がない上に、光はまっすぐ通過していってしまう。なので、私達の目に戻ってくる光がないので、宇宙空間は黒く見えてしまうのだ。
それなのに、奥山の見ている景色は銀河の星々。辺り一面、綺麗な星達。
そんな星々にうっとりして、ふわふわ浮いている。
「はーあ…綺麗すぎるわ…これが宇宙か…まぁ普通だと暗いとは思うがこれは夢だし…幻想的でめっちゃ気分がいいや……」
頭に腕を組んで眠るような体制をとる。夢の中でもまた寝ようとしている。
奥山が欠伸をして宇宙空間の真ん中でウトウトしていると、1つの光が差し込んできた。なんだよ…と、目を細めてそれを見つめる奥山。

「……おぃ…なんだアレは…人か!!!???」

それは、宇宙船だった。宇宙船で宇宙を探索している宇宙飛行士達で、変なものが浮かんでいるとして、それに近付いたらしい。
「に…人間……!?!?」
船員は全員驚愕していた。え、なんでこんな宇宙の真ん中に人がいるんだよ!?こ、これエイリアン!?皆が驚いてる中、奥山も驚いていた。
しかし、夢だと本人は思っているので、すぐに冷静になって宇宙飛行士達に手を振った。
「うわぁ!!手を振ったぞ!!なんだアイツは!!」
驚く宇宙飛行士達を尻目に、奥山は明るいから宇宙船から離れようとする。しかし、追いかけてくる宇宙船。流石にずーっと追っかけてくるので鬱陶しいと感じた奥山は宇宙船に回り込んで、宇宙船の視界を逸らした後に、宇宙船の下に隠れる。
そしてそのまま、宇宙の下に沈むように下っていく。まぁ、下ったところで無限に近い宇宙には、床なんてものは無い。
宇宙船が見えなくなるほどまで下に沈んで、やっと星々を見ながらゆっくりできる。欠伸をして、眠りにつく奥山。

気が付くと、自室のベッドだった奥山はやっぱり夢だったなと思った。そりゃそうなんだが。
ふと、あれ?目覚ましが聞こえてこなかったなと思って時計を見ると、なんと朝の九時半!!!出勤時刻は七時半だぞ!!大遅刻だ!!
めっちゃ慌てまくって電話をする奥山。
「すいません…風邪で電話が遅れてしまい…今日休ませていただきます…はい、はい…」
すぐ行きます…の報告の電話かと思いきやただの休みを入れる電話だった。
電話を切り、のびのびとする奥山。
「うーん…休みも取れたし…今日金曜で明日土日だからゆっくりでもするかぁ…」
そう言ってリビングに起きてテレビをつける。まだ、朝のニュースが流れていたが、そこで驚きの光景を目にしてしまう。

『数日前に人型の何かがつ中で蠢いていたとして、宇宙船ZERO HEAVEN号が地球に映像を送りました。こちらの映像は……』
映像に映ってる俺は、奥山に似てるような見た目をしていた。頭に腕を組んで、寝ているようにも見える。つーか対して蠢いてなかったのに、蠢いてるとか言われてなんか変な気持ちになった。俺は無視じゃねーっつーのって奥山は思った。

じゃあ…あれは、夢じゃなかったのか?
なんなんだ?幽体離脱?なにこれ?どういうこと?

とりあえず…奥山がとった行動は、考えないことだけだった。
彼はネットショッピングで家庭用プラネタリウムを購入することを決意した。

7/10/2025, 10:48:32 AM

『冒険』

これもまた、小学生の頃の話になる。この話で学んだことは一つだけ。

変な場所に、足を踏み入れないでおこう。ということだ。

その日の帰り、俺はいつものようにランドセルの中に教科書を詰め込んで家に帰宅しようとすると、太一が話しかけてきた。
「なぁ、裏山で遊ぼうぜ」
ニコニコしながら言う太一を尻目に、俺は家に帰る準備をしながら話す。
「……裏山ってあそこの?なんか婆ちゃん爺ちゃんにバケモン出るとかなんとか聞いたことあるような…」
そう言う俺の言葉に更にニヤケ顔になる太一。
俺が住んでる田舎の裏庭には、テンテン様と呼ばれる、身体中に黒い点々の模様がある白い人型の化け物が潜んでいるみたいで、裏庭に入った人間を襲って食べたり、ただただ食べないのにも関わらず襲ってきたりと、本当に残虐なモンスターだ。様…をつける意味がよく分からないが、山神の一種だったりするんだろうか?なんてことを、小学生なりに考えてると、太一が俺の机に怪異一覧という本を買ってきた。
「ん、なにこれ?」
「これ、本屋で買ったやつ。でさ、なんか俺らの県内さ、怪異が多いみたいでさ。やばくね?怪異多いってのは」
ページをペラペラ見ると、人型だったり、よく分からないデカイモンスターだったり、物に化けた擬態型だったりと、様々な怪物がいるが、一番やばいと思ったのが、右上に書いてある出没場所で、殆どが俺が住む県内だった。
「まじかよ…確かにほぼ俺らの住んでるとこじゃねぇか……」
「な!でさ、前の川辺で触った綺麗なヤツのこと覚えてるか?」
「あぁあれね。死ぬかと思ったよまじで。ほんとお前いなかったら危なかった」
詳しくは前に書いた『クリスタル』を読んで下さい。
「あん時のお前ビービーギャーギャー泣いてたよな〜!マジでウケるわw」
クスクス笑う太一の頭をスパンと叩く。
「お前に助けてもらって本当によかったよ……でもな!あんなの見たら普通泣くから!!!」
と強めに反論する。
「それにさ、もうあんな目に合うのはこりごりなんだよ…次こそ不安症の父さんにブチ切れられる。
……前も結構怒られたのに」
「まぁまぁ良いじゃねぇかよ。青春だろ?楽しもうぜお互!」
そう言って、俺の腕をガシッと掴んで引っ張る太一。あの一件からか、コイツは多少オカルトマンになったような気がする…いや、オカルトってよりかは、危険好きな馬鹿って気もするが。

学校から裏山はそう遠くは無い。十五分も歩けばすぐに辿り着く所にある。この裏山は昼間なのに薄暗くて不気味な場所だ。そのくせに美味しいキノコが沢山生えてたりする。まぁ、しいたけとかまいたけとかエリンギとか苦手なんだけどさ。
二人で裏山に入る前に、俺は太一に何度も言った。
「化け物が出たら、マジで早く逃げるからな!」
クリスタルの件で、俺は少しビビりになってたかもしれない。
「分かってるっつーのビビり。ほら、早く行くぞ」
太一が臆することなく裏山の道を歩いていく。太一の後ろを内心ビクビクしながらついて行く俺。
裏山を少し歩くと、木が鬱蒼とした所にたどり着く。辺りは鳥のさえずりや、風で木々が揺れる音が聞こえてくる。この周囲の音が、まだ昼間なんだなということを認識させてくれるため、安心できる。
しかし!問題なのは光だ。鬱蒼とした森の中は、とてつもなく暗かった。光が木々の隙間から差し込んではいるけれど、それでも薄ぐらい。
「あーもう、まじで帰りてぇよ……」
「じゃあ帰って石でもひろってろよ」
「うるせーよ馬鹿。つーかお前石拾いん時のやつトラウマになってないのかよ」
「まぁなってはないけど…石拾うって行為はもう二度としないとは決めたよ」
「まぁそうだろうけどさ……」
何気ない会話をしていると、目の前に二本に分かれた道がある。二手に別れる?と言われたが、思い切り無理と断って、二人で一緒により薄暗そうな道を進むことにした。
もう正直、この時点でビビってはいたんだけど、奥へ行くとマジでやばいもんだらけでビックリした。
なんか、看板見たいのが立ててあった。この先、熊出没注意って。え!?熊出んの!?怪異以前に危なくね!?って太一が少し焦っていた。
太一が後ろを振り向いて行くかどうか提案してくる。
「このまま進んだらテンテンに食われるより先に熊に食われるよなぁ…どうする?行く?」
行くわけないだろと断るいいチャンスだ。
俺がそう言いかけたその時だった。向こうから、なにかが近付いてくるのが分かった。
「……どうした?」
太一も前を向く。すると、ビクッとだけ体が動いて、それを二人で凝視する。
徐々に近づいてくるそれをマジマジと見ていると、太一が震えながら声をだす。
「あれ…テンテンさまじゃね……?」
薄暗いので、もっともっと目を凝らす。
真っ白い体に黒い斑点模様が沢山ついており、異様に腕が長い。身長もクソ高くて、ニメートルはゆうに超えているようだった。
ぶらんぶらん、細い腕をゆらしながら、それが俺達のところに近づいてくる。
太一はそーっと後ろに下がる。
「おぃ…ここで走って逃げたら…多分追いかけてくるよな……」
また一歩、二人でゆっくり後ろに下がる。
すると突然、ソイツが獣だか人間だかの入り交じった気持ちの悪い雄叫びを上げて、俺達の所へ全力疾走してきた!!
「うわぁぁあぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」
俺と太一はもう大パニックになり、俺達はすぐさま逃げ出した。後ろからドスドスと追いかけてくるソイツにもう全身身震いが止まらなかった。それでも、焦って焦って、転んでもすぐに立って走った。
すると、太一が足を滑らせてしまって、思いっきり転んでしまう。
「い…いで……」
後ろのやつはどんどん追いかけてくる。あぁどうしよう!!!来てる来てる!!
転んだ衝撃で上手に立ち上がれない太一。どんどんアイツが迫ってきている。
ここで逃げたい気持ちの方が勝っちゃってる俺は、早く立てというが、中々立てない。足を挫けてしまったようだ。
「もーーー!!!クソー!!!!」
太一を担いで降りるのは絶対に無理だと悟った俺は、ランドセルを片手でぶん回して、そいつと戦うことにした。
「は!?おい!!気狂ってんのかお前!!なんしてんだよ!!!」
「やるんだよ!やらなきゃやられる!!」
「馬鹿か!!勝てるわけねぇだろ!!俺の事引きずってでもいいから早く逃げろっての!!」
明らかに負けは見えてるが、転んでる太一を後ろにして、やけくそでその化け物に立ち向かう。太一はやめろ!!死ぬぞ!!とか叫んでいたが、もうあとは無い。
「俺が食われてる間になんとかして逃げろよ!」
「んなことできるわけ……」
もう化け物は目と鼻の先にいた。く、来る!!!
覚悟を決めた俺は更に煽る。
「俺から食いに来い!!!!モンスターが!!!!」
「馬鹿!!おい!!やめろ!!!!」
そう言う太一を無視して、俺は煽る。プルプル小刻みに震える足、心臓の音が張り裂けそうなくらいの爆音で、脳がクラクラしてくる。
舌を噛んで、目の前のそれにしっかり睨みつける。
その化け物が俺達に追い付いた途端、俺の目の前まで来て、俺達を上から睨んでいた。
目玉が異様にでかく、口がない。斑点模様だと思ってたものは、コイツの穴ぼこだった。もう、怖すぎて漏らしかけそうになるくらい、ソイツの見た目は強烈だった。
怖すぎて声が出ないが、拳に力を込めて自分の胸を強く叩く。咳き込んで、ソイツに堂々と喧嘩を売る。
「やるなら俺からだからな!!!!!ほら!!!!食ってみろ!!!!!」
「遥輝ッ!!!!!!」
ランドセルをぶん回していると、ソイツが俺の前になにか差し出してきた。
……なんだ?と、見つめていると、ソイツの掌からは潰れた空き缶の破片が現れた。
「……へ?」
なにこれ?って顔で見てると、そいつが
『…………ヨゴスナ』
女とも、男ともとれないその声で、俺に言った。
俺は怖すぎて、なんて言い返したらいいか分からなかったから、とりあえず必死に謝った。
「ごごごごごごめんなさい!!ごめんなさいまじで!!掃除します!!ボランティアに参加します!!!ゴミ片付けます!!!!」
とペコペコ謝りまくった。もう、怖くて涙が出てきた。ソイツが俺達の事を少し睨んだ後、後ろを向いてそのまま森の中へと消えていった。
「……よ…よかっ…たぁぁああ……」
その場でへばりつく俺を尻目に、太一は足を痛そうに抑えて運んでくれと言う。
とりあえず、太一をおんぶしてやって、山を降りた。右足を捻挫したみたいで、そのせいであの時立てなかったらしい。
「いやー…足ひねった時は死ぬかと思った」
「俺もあ、コイツ死んだわって思ったよ」
「なんじゃそら……」
「でも助けてやったろ?」
「まぁ助けたというよりも…奇跡的に生き残れた感じだろ」
そう言うと太一がボソボソと呟く。
「いや…でも…お前が助けてくれたのは嬉しかったよ……マジでそれはありがと……」
照れくさそうに言う太一に、俺は少し喜んだ。これで、石拾いの時の借りは返せたかなって。
それにしてもあのテンテン様…僕達にゴミを見せたかと思えば汚すなって急に言ってきたな。やっぱり、アレは山の神様なのかもしれない。
好き勝手にゴミを置いていく奴を許せず、だから人を襲う。神様なりのお怒りなのかもしれない。
俺は、ボランティアでゴミ拾いに参加しようと太一に言った。太一は頷く。
「じゃないとやばいしな。約束しちまったし」
「……だな」
二人で爆笑して、その日は解散した。
太一を背負っていたため夕方六時頃に家に着く。帰る時間が遅すぎたため、父さんが玄関で待ち構えていた。
どこで遊んだ?と尋問する父さんに、太一がしぶしぶ答えると、また太一と一緒にお寺に行くことになった。
いつもの住職に、事情を説明し、お祓いをしてもらうことに。
そして、住職は言う。
「テンテン様が危険だと言われているのは我々がやってきた山での所業のせいだ。一年に数回はボランティアでごみ拾いをしてなんとかおさめているが、それでもお怒りなのには変わりは無い…不法投棄を森の奥でおこなった輩は全員行方不明だよ」
一応住職は、テンテン様には取り憑かれていないと言われた。子供で、しかもゴミを捨てている訳でもないため、襲う必要も無かったのだろうと考察していた。
そして、帰り際に住職は
「子供だけで森の中には行くな」
と言ってきた。

まじでご最もですと、二人は住職に頭を下げた。


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