フィクション・マン

Open App

『隠された真実』

彼女を見ると、胸が締め付けられる。なんだろうか。言葉が何も出てこないような…そんな気持ちになる。
彼女を見ていると、彼女がこっちに気付いて、すぐに顔を逸らす。お互い、気まずい雰囲気になる。
「………っ…」
そんな中、席替えで彼女と隣の席になってしまう。やばい。気まずい。どうしよう。
本当にお互い気まずい雰囲気なってしまった。なんで隣の席になったんだよ…と教師を恨んだ。すると、その日の英語の授業で、隣の人と今度人前で一人で発表する、〇〇県(自分の)いい所…の練習を隣の人としてくれと教師が言ってきた。
その言葉を聞いて絶句する。まじかよ…。どうしよう。お互いもじもじしていると、彼女が口を開く。
「えっと……やろっか……」
気まずそうに話す彼女に、俺は頷いて俺から発表の練習をした。発表では紙を見ることを禁止されており、一応書いた紙を彼女に渡して、合ってるか合ってないか的な感じで練習していた。
「is…………」
「……?」
急に黙り込む俺の顔を伺う。
「…分からなくなっちゃった…?」
「………………いや……そうじゃ…………」
俺が黙り込んでいると、彼女が口を開く。
「……大丈夫…あの時のことならもう終わったことなんだから気にしなくていいよ!大丈夫!」
ニコリと笑う彼女を見て、余計に胸が苦しくなる。
「……ごめん…」

数日前の出来事。

俺は、スコップを持ってある場所へと足を運んだ。
ある場所に到着すると、俺はすかさずその場所の地面をスコップを使って掘り起こす。15分ほどで何かに当たる音がして、手でゆっくり土をよかすと、そこには缶箱が出てくる。
俺は早速それを取り出して缶箱の中身を開ける。
中身は綺麗なネックレスとそして手紙。手紙を開いて読む。
その手紙に書かれていた内容が以下となる。

俺へ。

これを開けたということは…何かあったということなんだろ?

分かってる。

このネックレスを返してくれ。

今の自分には出来なかったことだから。

頼む。

今の俺より。


風間 芙美(かざま ふみ)。彼女のネックレスだ。
高校一年の頃の俺は、本当に糞餓鬼で、正しいことと悪いことの区別は着いているのに、調子に乗ってつい行動してしまう最悪なやつだった。
その時に、大切なものを芙美から奪った。家族からプレゼントされたネックレス。それがこの缶箱に入っているものだ。
なんでネックレスなんか学校に持ってきているんだよって、皆でからかって……そのまま、俺は彼女のネックレスを……。
その時は、皆のノリで取ってやったという感じだった。俺がとったわけではない。じゃあなぜ手元にあるのか?
体育の授業前で外して机の中に入れていたであろうネックレスを俺らは取った。
「アイツいっつもネックレスつけてるよな?」
「確かに…シャレ気取りなのかよ?」
「しかも先生も怒んねーし!!俺らなんかピアスばれた時殺されかけたっつーのによぉ!!」
つるんでいた奴らは全員、芙美に不満があった。なんで俺らが怒られて、あいつは怒られねーの?女だから?可愛いから?理不尽を感じていた。
だからその…悪ノリで、芙美の机の中にあるネックレスを隠したんだ。無くしたと思い込んで絶対に焦るぞあいつって思ったんだ。

でも、体育終わりの芙美は予想以上に焦っていた。周りの女子達も探し出し、机の中に入れたのにと何度も涙目でさがしていた。
皆はへらへらしていたが、俺はさすがにやりすぎたとすぐに焦った。返した方が…と案を出すが、あんな安っぽいネックレスなんかどうでもいいだろと言った。
まぁ…あんなのネットで数百円で買えそうだし、別に無くなったっていいかとその時は思った。
しかし、帰りの終礼前に先生から大事な話があると言ってきた。内容は勿論、ネックレスだ。
そのネックレスは、亡くなった母親の形見らしく、彼女はそのネックレスを大切にしていたとのこと。机の中に入れていたと本人は言っており、もし盗んだやつは勿論犯罪だが、そうじゃなかったら、彼女のためにネックレスを探してやってくれないかと先生は言っていた。
やばい。なんてことしてしまったんだ。俺はものすごく焦った。しかし、仲間は全然焦っている様子がなく、それどころか普通の顔で俺に言ってきた。
「返すわけねーだろ。バレたら俺らやべーよ」
「だ、だけど形見だぞ!!」
「で、だからなんだよ」
「……!!」
さも、当たり前かのように返さないと言う仲間を見て、俺は驚愕した。なんでそんなこと言えるんだよ。普通返すだろ。
「じゃ、お前返せんの?学校終わるけど」
「……それは…」
「無理だろ?」
「……………………」
「あと、もし返すにしても俺らの名前絶対言うなよ」
「……」
アイツらは、自分勝手だ。しかし、俺も最低なクズで、返したら学校生活が終わるとビビってしまったから。
「あ、お前そのネックレスなんとかしとけよ。捨てるなりなんなりさ」
「………………」
んなこと、死んでもできねぇよ。
だから、俺は缶箱の中にネックレスを入れた。いつか、勇気が出たら芙美に返せるようにと願って。
ずっと、ずっとずっとずっと怖かった。返すのが。もし、返したとして…自分がどうなってしまうのか。
何も出来ないまま、クラス替えが行われ、そして、二年は芙美と一緒では無いものの、三年で芙美と再度同じクラスとなってしまう。
彼女を久々に見るが、普通に元気そうだった。みんなと楽しく会話をし、仲睦まじくじゃれていた。…
もしかしてネックレスの件忘れてるんじゃないか?と淡い期待をしていたが、たまたま俺の席の近くで芙美の友達がネックレスの件を話したとき、俺は心臓がとび出そうになった。
恐る恐る、聞き耳を立てる。
「ネックレス…結局見つからなかったの?」
「…………うん。あ!でもね…お父さんが新しいのを買ってくれたんだ…私のために」
「あ、そうなんだね。優しいお父さんだね」
そう言う女友達だが、数秒遅れてうんと言う芙美。
そして、震える声でこう言った。
「…お母さんに…謝りたい…」
顔は見てないが、周りの女子が恐らく泣いている彼女を励ましていた。
「私のせいで…大切なネックレス…無くしちゃったから………」

彼女の言葉を聞いて、耐えきれずに家にかえってスコップを持って近くの公園に走り出す。
掘り起こして、出てきた缶箱の中身にあるネックレスを持って、女友達から芙美の連絡先を教えてもらって無理やり公園に呼び込んだ。
「……大事な話があるんだ…あの…風間さんに…」
「えっ……あ……その……」
「……いや…そういうやつじゃなくて…その、謝りたいことがあって。だから、来てもらいたいんだ。不安なら、友達も呼んでいい。大切なことを君に伝えたい」
芙美は黙り込んだ後分かったと言って、俺は通話を切る。
震える手。高校三年生。これをもし返して、今、問題になってしまったら…行きたい大学に行けなくなるんじゃ……両親は俺の進学を快く思っている。頑張れって応援している。
でも、自分がしたことに、いつまでも不安がっているのもとても嫌だった。
やがて、彼女が数分後にやってくる。
「……どうしたの…?公園に来てって……」
困惑する彼女に、俺は震えながら背中の後ろに隠していたネックレスをおそるおそる彼女の前に差し出す。
「……!!!!!!!!」
芙美が手に取って驚く。
「これ…お母さんのネックレス!!!!うそ!!どこで見つけたの…!?!?!?」
俺は涙を流しながら、全てを話した。
「……違う…違うんだよ…見つけたんじゃない…これは…俺が取ったんだ」
「…………え…?」
俺は土下座をしながら、彼女に謝った。
「ごめん!!!!本当に…!!!!
形見とは知らなかったんだ…ネックレスをつけた君を羨ましがって…俺はとってしまった…!!!
終礼の時に先生の言葉から形見だって聞かされて…机の中に入ってたネックレスを取ったから…問題になるのが怖くて隠してたんだ!!
ずっとずっと…!!ずっと…怖くて渡せなかった…!!本当に本当にごめん……!!!辛い思いをさせて…!!
許されることじゃないけれど…それでも…いつか返したいと思っていたんだ…!!
ごめんッ…!!!」
思いっきり地面に頭をこすりつけて謝罪をする。
返せた。言えた。やっと。
もう、本当に。
自分なんかどうでもいい。
返せて本当に良かった。
二年間も…彼女を待たせてしまった。
本当に、すまない。
頭を下げる俺に、顔を上げてと芙美が俺の近くに寄って肩に手を置く。
「…いいよ。だから、顔を上げて」
俺が顔を上げると、芙美が微笑んできた。
「……ネックレスが戻ってきて…本当に良かった。
私ね、怖かった。
お母さんが病気で亡くなる前に…私にネックレスをくれたの。
亡くなってから凄い落ち込んで…毎日泣いて、泣きすぎて吐いちゃって…凄く心が不安定だったんだ。
ネックレスを見ると、優しいお母さんのこと思い出しちゃって。
でも、それでも、お母さんがくれたものだから、毎日つけていたの。
それで無くしちゃったってなった時…お母さんの大切なものが無くなって凄く悲しかった。
…でも少しだけ…こんなこと思うの、最低かもしれないけれど…少しだけ、楽になったんだ。
ネックレスを見るとお母さんのこと思い出しちゃって…だから、無くしちゃってからは自分と向き合う時間ができたんだ。
私…いつまでもくよくよしちゃだめだって…頑張ろうって。
でも!お父さんが代わりのネックレスを買ってきてくれてね!すごく嬉しかった私。
……確かに…取られちゃったのは少しビックリしちゃったけど…でも逆に言えば自分と向き合う時間も出来たから…もう謝らなくて大丈夫」
芙美は、優しい表情でそう言った。
こんな、こんなにも優しい彼女を…俺は…。
罪悪感で、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「……あのね…先生には…このことは秘密にしてね」
「え…!?」
俺が驚いてると、芙美がお願いをする。
「もうこれは終わったことだから…それに、もし言っちゃったら大変なことになるかもしれないから」
「で、でも俺は……!」
なにか言おうとすると芙美が俺のつけているピアスを指さした。
「……その……見て」
ロングで耳にかかってないため、分からなかったが穴が空いていた。
「…あの…反省してる気持ちはわかったよ…でも、先生にはこのことは内緒でいいよ。
…そのピアス…オシャレだから…その…も、貰えたら…、嬉しいな」
そう言う彼女の照れくさそうな顔を見て、俺はすぐピアスを外して芙美にあげた。
「…こんなんじゃ…埋め合わせにはならないけれど…でも…自分がしてしまったことに向き合って…これからは生きてくよ。芙美が求めることなら、なんでもやる」
俺が真剣に芙美にそう言った。
芙美はニコリと笑って、ありがとうと言った。
貰ったピアスを、耳につける芙美。
芙美がつけるピアスは、自分がつけるよりもとても綺麗に見えた。


英語の授業での話に戻る。
芙美が発表を全部言い終えると、俺が前を向いて教科書やら発表資料やらをまとめていると、ちょんちょんと腕を触ってきた。
俺が芙美の方を見ると、芙美は微笑みながら耳につけてるピアスを俺に見せてきた。
ピアスなんてつけたるのバレたら怒られるのに…。なんて思いつつも、ピアスをつけた芙美はとても可愛かった。

7/14/2025, 5:22:45 AM