月の光に照らされた街に出かけよう。ランタンに火を灯して、みんなを起こさないようにそっとドアを引く。
ごつごつとした石レンガの地面につまずかないように手を繋いで、互いの手の熱を分け合いながら薄明かりの街を歩いていく。
この時だけは、いつも賑やかな様子とは違くて…ちょっとした肝試し気分だ。君と一緒なのにどこか寂しくて、少しだけ怖い。雨上がりの地面には月の反射が映り込んでいて、頼りの灯りはこれとランタンだけ。なので真っ黒の猫がいたって気づかない。
僕らの子供時代はそう止まってはくれない。いつか僕の胸も踊らなくなる日が来るだろう。…ならば、君と夜の散歩だなんて、大人なら簡単にできてしまうイベントは今のうちだけ。僕たち子供のうちしかはしゃげない特権なのかもね。
忍び込んだ図書館の中で本を熱心に見ている君にそっと呟く。そろそろ帰ろうか。
僕らは暖かいベッドがあって初めて、安心して少しだけ夜更かしができる。悪戯をしているようなくすぐったい気持ちで毛布を被り…こんななんでもない気持ちが大人になった僕らの思い出になりますように、そっと目を閉じた。
さよならを全部言い切る為に、夜の海に飛び込んだ。
暗い、冷たい、海の中。底も何も見えないまま沈んでいく。顔の横を銀の魚が掠めて通る。
深く、深く、ずっと深くに。
涙さえもわからなくなるこの黒い海の中で、どうか私の言葉を沈めておくれ。
吐いた醜い私の心情は泡にしかならなくて、叫ぶように肺の空気を逃がしていく。浴衣の隅々にまで水が通り、まるで金魚のようにふわりと漂う。
指の間の擦れ傷が海水に染みて痛い。あの時に 心の鼻緒も切れてしまった。
ふと、思い出が蘇って あなた の優しい言葉を思い出して、まるで私に浮きをつけたようにふわりと上がった。
上を見上げれば海面には鮮やかな火の華が揺らいでいた。
淡く揺らめき消えていくその灯は、あなた が別れを言っているようで、沈み切れなかった私はただ…空に残った朧のような煙を見つめて、
眼からは一雫の海が落ちた。
辛い、息詰まった日々、
僕らは夜空を見上げてた。暖かく光る一等星が僕たち2人の標で、いつか いつの日か 自由になれたなら、
あの星に会いに行こう と約束をしたんだ。
この羽でずっと飛んでいけばいつかは辿り着くだろうって話してた。
その時間が唯一の楽しみだったのに。
限界が来て、君の心は壊れてしまった。
解放してくれと僕に懇願してきて、その痛々しい姿に
僕は
僕は 僕は
君の願いを叶えたんだ。
暖かさと感触を今でも覚えている。
放心していたら、そのうちに仲間達が集まってきて、罪人の僕は酷い仕打ちを受けた後に燃やされて、
空から落とされた。
結局、君との約束は守れなかったけど、
落ちて
落ちて
焼け焦げた先に
あの星のような 子を見つけたよ。
もし君が一緒だったらって何度も思う。
もう一度君に会えたら、と夢をみる。
願った所で仕方がない事を、星空を見ながら考えてる。
いつもより一段と眩しい月がこちらを見ている。
まるで小さい太陽のようで、私は思わず目を細めました。錆びついた屋根が月の光に照らされて優しく光っていて、窓の外からの見慣れた景色が 今日はどうやら少し違うようでした。
窓の隙間から涼しい風が入ってきて、夏の始まりの匂いが鼻を掠めた。
いつもより月が近くて、今なら指先くらい届いてしまうのではないかとすら思うほどに、とても大きく見えています。
誰も居ない。誰も来ない。
この月を一緒に見てくれる人が居ないのが少し寂しいけれど、違う所で知らない誰かが、私と同じ時にこの月を見ているのでしょうか。
切なくなるほどに眩しくて、愛しくなるほどに優しい光が 誰かの気持ちをほんの少しでも軽くしてくれているのなら、こんなにも嬉しい事はない。
地に足をつけて、空を見上げる
また何処かでね、眩しいお月様。
過ぎてさえみればあっという間で、振り返るとそんなに前の事だったかと驚く。
一日一日を覚えている訳ではないし、思い出と呼ぶものも限られてはいるけれど、懐かしいと尊ぶ事が出来ればそれは紛れもなく宝物だろう。
戻ってこない時間だから、二度と同じ事は起こらないから、私は思い出にこんなにも焦がれている。
手を伸ばせど届く事はない、寂しい感情も その時の記憶も、たまらなく愛おしくて。たまに泣きたくなるけどそれでもいいや と思う。
一年前よりもずっと大人になったつもりでいたけど、全然私は子供のままで恥ずかしい。
後悔や間違いを犯さないようにと努めようとして、私はそれができると思っていた。
けれど、どんなに頑張ったって後悔は残るし、間違いだって犯す。それはずっと無くならないんだろうな。
だから私は後悔や間違いを減らすように頑張りたい。大きな後悔をしないようにしたい。
それなら無謀ではないかなと思っている。
一年前の可哀想でおバカな私は、それでも幸せを見つけられただろう。今の大バカな私も、日常の中にささやかな幸せを見つけたい。